Sae's Bible
村の宿
リブラ村の宿に着くと、少女の借りている部屋へ通された。
少女の体調も少し回復したようで、サエはほっとした。
「あ!そういや自己紹介がまだやったやんな。
私はサエ!サエ・エトワールって言うねん!よろしく!!」
「私は………ジュリア。ジュリア・ホルストです。
よろし「姫様ぁあああっ!!」
少女がよろしくと言いかけたその時。
部屋のドアがバァンと大きな音をたてて開かれ、1人の少女が大声をあげた。
「姫様ぁあああっ!!大丈夫ですかぁああっ!!怪我はっ!!」
少女は物凄い焦りようで、ジュリアを揺さぶっている。
「姫?ジュリアって姫なん?」
「い、いえ違うのよ私…「はぁ!?貴様ぁ!!この方をどなたと思っているぅ!!
この方はなぁ!!レニセロウス国第1王女、ジュリー・ベルベット様なんだぞこのポニテ!!」
「なんやてぇ!!?ポニテを悪く言うなこのまな板貧乳っ!!」
「あぁ…もうアキルノア!!エトワールさん!!」
「はい姫様ぁあああっ!!」
「あ、はいえっと…ジュリー?あれ?ジュリア?あれれ?」
「とにかく皆さん落ち着いて座りましょう。話しはそれからですわ。」
ひとまず3人とも椅子に腰掛けるとジュリアだかジュリーだか名前がよくわからない少女が口を開いた。
「まず、私の名前ですが…申し訳ありませんわ…エトワールさん。
先程の『ジュリア』という名は偽名ですの。
私の正式な名はジュリー・ベルベット・レニセロウスと申します。こちらは私の従者、アキルノア・ホルスト。」
ジュリーに自己紹介されたアキルノアがムスッとしながらも、軽く頭を下げる。
サエはそんな事よりも生まれて初めて『エトワールさん』と呼ばれた事でパニックになり…
「ええと、じゃあジュリーさんでいいのかしらですわ?」
ジュリーの言葉遣いにしっかり釣られてしまっていた。
「ジュリーさんじゃない姫様だこのアポニテめ。」
「こらアキルノア!!」
「アポニテってなんやねん召し使いのくせに!!」
「アホっぽいポニーテール、略してアポニテだ。それくらい理解しろアポニテ。」
「なんやてぇえええっ!!!?」
「アキルノアは私が許可するまで黙ってなさい。」
ジュリーがアキルノアを睨んで言うと、アキルノアは素直に黙り込んだ。
「まず、エトワールさん。」
「あっ、えっ、はい!!」
サエはまだジュリーの呼び方に慣れず、一瞬戸惑った。
だがジュリーはサエの戸惑いに気づかず話しをし始める。
「あなたはどこの国の方かしら?教えて下さる?」
「私?エデンやで?」
「あら、丁度良かった。私たちエデンに用がありますので案内して頂けません?」
「っ!!…………。」
サエは思わず言葉に詰まってしまった。
今エデンは案内などできる状態じゃない。
サエが暗い顔をしているとジュリーが何かを察したように真剣な顔をした。
「何か…あったんですね?」
「うん…今エデンは…エデンには人がおらんような状態やねんよ…」
「それって…人々消失事件…ですか?」
「私にはよくわからんねんけど……人の形はあったよ。
なんか…時を止められたみたいにみんな固まっとった…。」
確かに人の形はあった。
だが、なぜエデンの人々は時を止められたのだろう。
セントレードや他国の人々は完全に消失しているのに…。
「そうですか…すみません…つらかったですよね…」
「いや、いいんよ。
そういやジュリーはなんでエデンに行きたいん?」
「私は…妹を捜していて…魔導師の方に手伝って頂こうかと思いましたが…」
手伝える魔導師など今のエデンには居ない。
居るには居るけれど手を貸すことは出来ない…。
手伝えるとしたら時を止められていないだろう兄と弟、そして助かった自分…。
「……そっか…今エデンには手伝える魔導師…あ!!!」
「ど、どうしたんですか!?」
「私、まだ半人前やけどエデンの魔導師やし、私が手伝うよエデンの魔導師代表として!!」
「エトワールさん…」
「やっぱ…半人前やったら嫌かな?足手まとい?」
「い、いえ!!お願いしますね!」
「姫様ぁ…まだしゃべっちゃだめなんですかぁ?」
黙る事に痺れを切らしたのか、アキルノアがついにしゃべり出した。
「全く、現在進行形でしゃべっているじゃないの。
いいわよ、もうしゃべっても。それからエトワールさん。」
「ん、何?」
「私が、レニセロウス国の王女であることは秘密にして頂きたいの。」
そういや王女様だったっけ、とサエはさっきの自己紹介を思い出す。
「うん、いいけど…なんで秘密にしなあかんの?」
「この立場上秘密にしないと、あとが面倒なんですよ…。」
「そうそう。王女様な上にフェリアベルエルフですからねぇ〜厄介事だらけですよ。」
「フェリアベルエルフって?」
「えっ!?今時エルフを知らない馬鹿がいるんですか!?」
「馬鹿じゃないからっ!!知らんだけ!!」
アキルノアはいつも一言多いとサエは心の中で愚痴を零した。
「もう、アキルノアっ!!
エトワールさん、私が説明しますね。
エルフにはフェリアベルエルフとハクディーアエルフという2つの種族があるんです。」
「うん。それでそれで?」
「フェリアベルは肌が白く風の加護を受ける風の種族で、
ハクディーアは肌が黒く闇の加護を受ける闇の種族です。
昔ハクディーアが人間の村を奇襲した為、種族関係無く人間はエルフを忌み嫌い始めたのです…。」
サエはまたもやパニックになった。
まず、エルフと人間の違いがわからない。
今まで世界中の人たちはみんな仲良しで、違いなんかないと思っていたからだ。
さらに、ジュリーの使う言葉が難しくてどういう意味かわからない。
なんとかわかったのは、人間とエルフの仲が悪い事くらい。
「えーと…ごめん、難しすぎてわからへん。
あと…そのエトワールさんって止めて欲しいな。
出来ればサエって呼んで!なんか慣れんくて。」
ジュリーは『はっ?』と言って驚いていたが、優しく笑って『わかりました。』と言ってくれた。
「ではサエ、これからは簡単に言いますね。
まず、エルフは長い耳と人間より少し長い指をしています。」
ジュリーは自分の耳を指さしてサエに優しく説明を続ける。
「エルフの耳や特殊な魔法を嫌う人が世界には沢山居ますし、昔起きたエルフと人の事件でエルフを嫌う人もいらっしゃいます。」
「姫様っ、あの事件は私たちフェリアベルには関係ないでしょう!」
「けれどエルフがしたことには変わりません。私たちは人間に謝るべきなのです。」
「へー、んじゃエルフが悪いんやな。」
サエがそう言うとジュリーは少し悲しそうな顔をし、アキルノアはサエをおもいっきり睨んできた。
サエは2人がなぜそんな顔をするのかわからなかった。
「えっとぉ…思ったこと言ってんけどなんかあかんかったかな?」
「いっ、いえ…。あら!もうこんな時間なのね!アキルノア、晩御飯に致しましょう。」
「そうですね…アホはほっといて晩御飯にしますか。」
「晩御飯!?やった、ごっはんやごっはんっ♪」
上機嫌なサエをよそにアキルノアはキッチンへ向かい、ジュリーはなんとも優雅に紅茶を飲んでいた。
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