Sae's Bible
影の行く先

ジュリーは残飯係を申し出たレオに手伝って貰ったが、他の4人は時間をかけて何とか食べ切った。

「さてと、これからの予定はどうなっているのかな?それと君達の旅の目的を聞かせてくれないか?」

大方食べ終わり、食後の口直しにと出された紅茶を前にデレクが口を開く。

「情報提示はお前からして貰おうか。私達の話はそれからだ。」

「随分だね…まあ、当然か。
僕はレオン達と同じくカーバンクル隊に入っているよ。主な活動としてはイレネオ上官の動向を探ってる感じだね。」

キムーアの即答にデレクは少し眉を潜めたが、直ぐに気持ちを切り替えて話始める。

「イレネオ…?もしや、イレネオ・カスコーネですか?」

「よく知っているな。何か関係でもあるのか?」

「ハッ!知っていて当然であろう?我が国王を利用した裏切り者の名だからな。」

「マジでか!そんな奴の命令を聞いちまってたのか…俺らは…」

又しても自分には難しい話だとサエは思った。しかし、いつまでも避けてはいられない。
キムーア達が話す事は重要な物ばかりなのだ、理解する努力をしなくては。サエは思い切って話に参加し、疑問をぶつけてみる事にした。

「う、裏切ったってどういう事なん?カロラでなんか…あったん?」

カロラの関係者であるキムーアにとっては聞きたくない話題だろう。ジュリーは彼女に目配せをして確認する。

「はっ、このくらい問題無い。親父と国を侮辱すれば斬るがな。」

キムーアが頷いたのを見て、ジュリーは真剣な面持ちで語り出す。

「…カロラ国王暗殺事件の事よ。確か、マーファクト国とカロラ国が戦争を繰り返していた時だわ。
国王がとても信頼していた忠臣はマーファクトの手先で、カロラの情報を漏らしていたの。」

「んで、カロラ側にパニージャ国がついたから戦争は引き分けた。
でも…カロラ国王は戦乱の中で忠臣、イレネオ・カスコーネに討たれたんすよ。」

いつも蕎麦を食べ続けているアキルノアが珍しく発言する。

「なんで皆そんなに知ってんの?ジュリー達はともかく、アキルノアが知ってるやなんて!!」

「姫様に叩き込まれたんだっての。好きでんな事覚える訳がなか。」

忘れがちになるが、彼女は一応王室付きの女官なのだ。この手の話題は相当仕込まれているだろう。

「いろんな国が出てきてよくわからない…」

世界情勢どころか、地名すら知らないリホソルトは常に首を傾げていた。

知りたい事が山積みで困っているリホソルトにナーナリアは教えがいがあると感じた。

「リホソルトさんには私が後で教えますね。」

「……うん。」

リホソルトはナーナリアの言葉に微笑み、紅茶に口をつけた。

「話を戻すよ?僕達はどうもイレネオ上官が信用できなくて、調べる事にしたんだ。」

「さすがに全員で調べていたら相手にばれてしまう。そこで俺とレオンはカスコーネの命令に従い、デレクが調べる事になった。」

「ってかよー、デレクはヴァイスベローに行くって言ってたんじゃなかったか?」

「それなんだけど…ヴァイスベローに発とうとした時に、カスコーネが向こうに居るって判明してね。」

「で、行けなくなったと。」

「ごめん…いつ鉢合わせするか分からない危険性もあったし。」

「じゃあ今、奴はヴァイスベローに居るのか!?」

「ミナルディ様!」

ガタンッと身を乗り出し殺気立つキムーアをナーナリアが落ち着かせる。

「すまん…取り乱した。」

キムーアは後ろに倒れた椅子を元に戻し、座り直した。
気まずそうにしているキムーアを気遣うように、ジュリーが直ぐさま話をし始める。

「丁度私達もポートレイムで一泊してから、ヴァイスベローへ行きましょうと言っていた所なのよ。」

「成る程ね。でも、残念ながらヴァイスベローにカスコーネは居ないよ。情報では紫の髪の魔導師とレニセロウス国方面へ発ったそうだ。」

「紫の髪の魔導師!?それカオスフィアやん!」

真面目に聞いておいて正解だった。これを機に今まで聞き流していた事も詳しく聞くべきだとサエは思った。

「奴がカオスフィアと通じているのか…最悪だな…」

「ミナルディ様…」

まさか自分の父を殺した者と自国を壊滅させた者が手を組んでいるとは…。
キムーアにとってこれは最悪の事態であり、父の敵を討つ絶好の機会でもあった。

「そんな…ただでさえ、我が国の情勢と王室が混乱している状態なのに…。レニセロウスで何かあったら…ああ、どうしましょう…」

「じゃあレニセロウスに向かおうか。」

ジュリーが動揺する中、デレクは一つ提案した。

「そんじゃヴァイスベローの情報屋はどないするん?」

「通り道だから問題無いだろう。ヴァイスベローからでないとレニセロウスへは行けないからな。」

キムーアの言葉にその通りと、デレクは相槌を打つ。

「さっきの森を抜けた方が早いんじゃないの?」

リホソルトが先程キムーアに聞いた森の事だ。あの森の向こうはヴァイスベローに繋がっている。

「ああ、レイトウッドの森か。あそこはここ数年間、通行止めなんだよ。デカイ魔物が巣くっちまってな。」

「そ。だからヴァイスベローで少し聞き込みをしてから、レニセロウスへ向かうつもりだけど…いいかな?」

「向かって頂けるだけでも喜ばしい事ですわ…ありがとうございます。」

「あーそだ、姫様。レニセロウスは入国許可証無いとシルフに邪魔されて入れなかとよ。持ってない奴さ、発行せにゃならね。」

蕎麦の本を読んでいたアキルノアが思い出したようにジュリー達へ伝える。

「入国許可証?」

「ちょ、姫様!?まさか知らない…んすか!?」

「ええ知らないわ。私は顔パスだもの。」

アキルノアごときに馬鹿にされたような気分になったジュリーは、少し不機嫌にアキルノアを軽く小突いた。

「さすがジュリーだな…」

「それで?感じからすると入国許可証はパスポートで発行するのね?」

「あ、はいそぅっす。パスポートをレニセロウスの管理局に持って行って、入国許可証げーっと。」

「ってかパスポートってなんなん?」

「は!?」

サエの言葉にアキルノアが信じられないといった顔をする。

「パスポートとは、身分を証明する為のカードの事だ。パスポートを発行するには手続きと書類提出が必要だ。」

カイザーが懐からパスポートを取り出し、丁寧にそして簡潔に説明してくれた。

「えっ、えっと私パスポート持ってないねんけどっ!!」

「私も無いよ…ぱ、ぱすぽーと?」

リホソルトは未だによく理解出来ていないようだ。

「私と姫様は持ってますよパスポート。姫様は顔パスなんで入国許可証要らないですけどね。」

「私達もあるぞ。外交関係で必要だったからな。」

「ミナルディ様は旅行目当てでしたでしょうに。」

「お!旅行好きなのか!今度一緒に行こうぜ!」

「るせぇ黙れ馬鹿。」

レオの誘いを瞬時に切り捨てるキムーアは、もう大分レオの扱い方を習得したようだ。

「……発行には時間がかかるんですか?」

「んー、多分1日かかるんじゃね?だから発行するなら私がパパッと風で行って来ますよ姫様!」

「早くしないと国が危ないかも知れないわ…明日の朝、サエとリホソルトのパスポートを作成しましょう。
その後アキルノアは皆のパスポートのコピーを持って早急にレニセロウスへ向かい、入国許可証の発行を行って頂戴。」

「仰せのままに!」

「そんじゃ、晩飯も食い終わったし自由行動にするか!」

久しぶりにアキルノアの凛々しい姿が垣間見えた所で、この後は明日に向けて自由時間を取る事となった。

皆がガタガタと席を立ち、それぞれに割り振られた客室に向かう中、ジュリーはふと立ち止まった。

「あ、パスポートの手配はどうしたらいいのかしら。分からないわ…」

「僕が今日中に必要な物を取り揃えておくよ。君はアキルノアさんと話し合いした方がいいだろうし…ね?」

「…ありがとう。」

デレクは気にしないでいいよ、と言って部屋から行った。
その後ろ姿を見送り、自身も客室に戻ろうとしたその時、サエが声をかけてきた。

「ジュリー!!聞きたい事あんねんけどいいかな!」

「なあにサエ。」

「三女神の伝承について教えてほしいねん。それに…なんか私分からん事多いし…。」

「ふふふ、わかったわ。後で私の部屋に来なさいな。それに私も貴女に伝える事があるの。」

「うん!ありがとう!荷物置いたら行くな〜!」

サエはジュリーにそう伝えると2階の客室へと走って行った。

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