Sae's Bible
勝手に増える協力者


「よし決めたっ!!!信用ならねえ上司より俺の嫁!無理矢理にでもついて行って全面サポートだぜっ!!!」

「………らしいから行動を共にしてもいいだろうか。」

ニコニコ笑うレオの隣でカイザーが申し訳なさそうに頭を垂れる。

「ジュリー、いいか?」

「あら貴女は賛成なの?」

「私が何を言っても無駄だと理解した。」

ハッと吐き捨てるキムーアはレオに関する全ての事を諦めたようだ。

「まあ…そうよね。私は構わないわ、男性が居れば心強いもの。ねえアキルノア貴女も賛成よね?」

カイザーに怒られたばかりにも関わらず、蕎麦を食べていたアキルノアにジュリーは問い掛ける。

「なに言ってんすか姫様!私は断然はんた「賛成よね?」

「はい、賛成しますぅうううう!!!!!!」

ジュリーからの強制的抑圧によりアキルノアは直ぐさま意見を変え、マイお箸で敬礼する。

「なんや賑やかになっていくなぁ〜。楽しいなぁ〜、リホソルト。」

「うん、楽しい…。」

先程まで寝ており、カイザーの罵声で起きた二人はのんびりした口調で呑気に喋る。

「それじゃ、縄を解くが…主導権はこちらにある事を忘れるなよ?
何か不穏な動きをしてみろ、私が叩き斬ってくれるわ。」

「安心しろ、私は不利益な事と負け戦だけはしないと決めているのでな。」

「だ〜いじょうぶだって!!!俺は絶対ミナルディについて行くし、最後まで守ってやるよ!!だから俺を信じろ!!」

キムーアとナーナリアに縄を解いて貰った二人は決して裏切らないと誓いを立てた。

「…ミナルディは止めろと何度言えば分かるんだこの馬鹿は……。」

「あああ、落ち着いて下さい剣を納めて下さい!!」

「そういやちゃんとした自己紹介がまだだよな!俺は、レオンハルト・ブラウンシュヴァイク!むっきむきの29歳!
マーファクト出身で、元は軍人だったんだけど左遷されたんだぜ!マジ有り得ねえ!
そしてミナルディの旦那だ!」

「そうなんや〜!!おめでとうキムーア!!」

「ちげぇ!!!」

キムーアはレオの言葉を真に受けたサエに否定の言葉を浴びせる。

「ゴホンッ…あー、カイザー・ローゼンクライツ。レオとは幼なじみのような腐れ縁で、カーバンクル入隊前はセントレードで魔法を研究していた。
言っておくが34歳だからな。断じて25ではない。」

カイザーはやや童顔なので、よく20代と間違われるらしい。

「えへへ、二人ともこれから仲良うしてなあ〜!」
「…よろしく。」
「だぁれがよろしくするかカーバンクルのバーカ!ムキムキバーカ!」

ゴンッ
「げぅふっ!!」

未だにカーバンクルを敵対視するアキルノアをジュリーがスタッフで殴りつけた。

「うふふ、この馬鹿の無礼を許して頂戴ね。本当に馬鹿でどうしようも無くて産まれた時に脳を忘れて来たらしいのよ。」

「そうか…ここにも馬鹿が居たのか。」

ジュリーはアキルノアを、カイザーはレオを見て大きな溜め息をつく。
そんな事はお構い無しにレオンはちゃっかりキムーアの横に並んで歩く。

「なあなあ!アンタらは何処まで行くつもりなんだ?」

「ポートレイム国よ。」

「ああ、そうだ。お前らはカオスフィア・ダークを知っているか?小さな事でもいい、奴の事を知りたいんだ。」

「カレの事が知りたいのだってぇええっ!!?そいつが好きなのかミナルディ!!さっそくライバル登場だと!!!」

「頼む誰かコイツを何とかしてくれ。」

「あー、…ははは。」

キムーアの言葉にナーナリアは苦笑いして、坑道の地図を見ながら足を進める。

「で、知ってんのけ?」

アキルノアがやる気無い声でレオンに聞く。どうやらカオスフィアについては彼女も知りたいようだ。

「カオスフィア?んー…知らねぇなあ〜、カイザーは知ってるか?」

「俺にもわからんが…そうだ、ヴァイスベロー国に良い情報屋が居る。奴なら何か知っているかもしれんな。
それに俺達の仲間もそこに滞在しているはずだ。」

ヴァイスベロー国は商人や旅の者がよく集まる貿易国である為、情報屋も多いという。

「よっしゃ!んじゃ行き先ヴァイスベローに変更やな!」

「私…そんなに歩けない。眠いんだもん。」

サエが意気込むがリホソルトは眠気で限界のようだ。まだ体調が回復していないのだろう、非常に疲れているのだ。

「そうね、一度ポートレイムで宿をとりましょう?それからヴァイスベローへ。」

ジュリーの提案に全員頷き、リホソルトが立ち寝しないように坑道を早く抜ける事にした。

「つーかよ、カオスフィアってどこの馬の骨だよ?ミナルディはソイツが好きなのか!?」

「カオスフィアという者は、今世界中で起こっている国民消失事件の容疑者です。」

レオンの問い掛けにキムーアが明らかに嫌そうな顔をしたので、ナーナリアが代わりに答えた。

「消失事件!?あの事件の犯人なのか?」

「まだはっきりとはしていない。私達はリホソルト以外、カオスフィアに会っていないしな。」

「紫の長髪の男…あの人の力はすごく強い。」

リホソルトは歩くのすら疲れたのか神術でふわふわと浮遊しながら後ろをついて来る。

「ほんまに人騒がせでタチ悪いわ!!エデンをあんなんにするやなんて!!」

「あのファンタジー中立国家もやられたのか!魔法と防御にかけて世界一の国すらも…」

サエの言葉にカイザーは驚く。
エデンの国全体に張られた魔法結界を破るのは至難の技であり、未だかつて破られた事が無いからだ…今回を除いては。

「んじゃ今被害を受けて無いのはポートレイム、ヴァイスベロー、ブレアフォード、パニージャの4ヶ国なんすかね?」

「いいや、ブレアフォード帝国も国民が消えたって聞いたぜ。マーファクトの事件に巻き込まれたらしい。」

「あの屈強なブレアフォード帝国が…」

ブレアフォード帝国。マーファクト国と隣り合う軍事国家だ。
戦争で数多くの勝ち星をあげてきたマーファクトをも打ち負かした屈強さは、世界中に轟いている。

「国だけではない。ウォール村の人間も半数が消えたのだ。
俺達はそれを調査する為に現地へ訪れたから間違いない。」

「ウォール村っ!?」

「…ゼルバ…」

「ミナルディ様。老師の事ですから、脱出出来ているはずです。」

サエ達が旅をしている間にも小さな村でさえ、人が消失する事件を起こしている。
しかも、立ち寄った村で。

「なんだよ、ミナルディ達はウォール村も湖も行った事あんのか?」

「ああ。病んでた精霊とドンパチやって和解した。」

「ミナルディ様、その説明はどうかと思います。」

「成る程な…俺達とは行き違いになっていた訳か。」

サエ達がウォール湖に居た時、彼らは村で調査をしていたという。そして、サエ達が脱出する時には村の調査をしてから湖に行ったのだそうだ。

「話戻すぜ?村の生き残りが犯人はエルフだっつーから、俺らはジュリーちゃん達を疑ったのさ。現場から近くに居た唯一のエルフだからなぁ〜。
でも今は違ぇって分かったぜ?なんせ盗まれた魔石を持ってねーからな。」

「そう…あの時、カーバンクルが来たという知らせは…あなたたちだったのね。じゃあ、あの負傷者は…」

「…姫様。姫様、違いますよ!お考えになっているような事など…ありえません!!」

アキルノアがジュリーに知らせたカーバンクルの情報は彼らの事だったのだ。
負傷者の報告も同時に受けた為、カーバンクルがやったのだと解釈してしまったが…そうなれば負傷者は犯人といわれるエルフが傷つけた事になる。

「あの、まさか…盗まれたのは水の精霊が持っていた魔石ですか?」

「おうそうだぜ!精霊から貰っただの言ってたが、ありゃ奪ったブツだろうな。なんせ制御すら出来てねーし。」

「彼らは精霊と折り合いが悪かったようだ。精霊からも話を聞こうとウォール湖まで行ったんだが、居なかったよ。」

ウォール湖の水の精霊、サヤフェートはサエの手により自由を手に入れた。
しかし居ないはずが無い。彼女は村と湖を大事に思っていたのだから。

「居ない?そんなはずは…」

「あ、もしかしたら自由になってどっか行ったんじゃないっすか?」

「確かに出たい出たいとは言っていたがな…村を見捨てたのか?」

「う〜ん…考えてもしゃあないやん。いつかサヤフェートに会えたら、聞いてみよ?本人に聞いた方がほんまの事分かるし、納得できるやろ?」

謎は深まるばかりだが、今は先を急ぐしかない。サエの言い分は最もだった。

「…たまには良い事言うじゃないか。少しは常識が理解できるようになってきたか?」

「む、私は元から常識あるで!!!」

キムーアがサエをからかっていた時、前方に眩しい明かりが差し込んだ。

「皆さん!坑道の出口ですよ。」

サエ達は漸く坑道の長い道のりを歩き終え、ほのかに潮の匂いのする出口へと足を踏み出した。



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