Sae's Bible
どうしてそうなる
踏み付けられている大柄な男の言葉にジュリーはカタカタと震え出す。
とにかくカーバンクルから逃げ続けていたジュリーは彼らの顔を知らなかったのだ。
「ジュリー、大丈夫?顔真っ青やで?」
「……ええ…大丈夫、よ。それよりアキルノア、アキルノアを起こさなくては…」
初めて顔を合わせたカーバンクルに気が動転しているジュリーは、彼らを知っているアキルノアを早く起こしたかった。
「もう起きてますよ、姫様。あーあー、こんなに震えちゃって。
んで?あんたらエルフの血か?それとも肉体?どっちにしろやらねぇけんど。」
「あ…魔法解く。」
リホソルトに浮遊魔法を解いて貰ったアキルノアはジュリーの傍に降り立つ。
「そんなグロい事しねぇよ!あんたら俺らを何だと思ってんだ!」
「へ?何、しらばっくれんの?は〜、カーバンクルは卑劣な奴ばっかだねぇ〜!!」
「ジュリー…寝る?」
「いえ、結構よ。ありがとうリホソルト…。ただ…傍に居て貰ってもいいかしら…」
今だにカタカタと震えるジュリーを座らせ、リホソルトは黙ったまま横に腰を降ろした。
「何を勘違いしているか知らないが、我々はエルフを保護して来いとしか命令されていない。」
「そうだぜ!なんせ俺らは1ヶ月前に配属されたばっかで、何も説明を受けてねぇんだ!
それから背中がマジ痛い!」
「黙れ。ナーナリア、縄出せ縄。こいつらに使う体力が勿体ない。」
「は、はい只今。」
「マジ有り得ね。カーバンクルなんざ!!姫様にまた同じ思いさせるかっての!
やっちまうべキムーア!」
「…一応真実を聞き出してからな。もし黒なら…なあ、アキルノア。」
ナーナリアの出した縄で二人を手早く後手縛りにするキムーアはアキルノアに小さく笑いかける。
「キムーアめっちゃ怖いねんけど!!鬼みたいやあああ!!
さっきもびっくりして声出ぇへんかってんからっ!!!」
「サエやめて、ふわふわが汚れる…」
サエはリホソルトのふわふわしたローブに隠れて、うびゃああっと喚く。
「はっ、鬼で結構。さぁて…どうしてくれようか、人身売買野郎共。」
男達の後ろから前へ移動し、目線を合わせるキムーア。
「……………。」
「おい、聞いてんのか赤髪のムキムキ野郎。隣の眼鏡も何か言ってやれ。」
キムーアの問い掛けに全く応えず、ただ目を見開いてキムーアを見つめ続ける赤髪の男。
そして漸く口を開き、発した言葉は…
「…お前、美人だな。」
「はあっ!!?」
赤髪の男がニカッと笑って頬を染めている事にキムーアは驚き、苛立ちすらも感じた。
「名前なんてーの?俺はレオンハルト!!レオンかレオって呼んでくれ!あ、レオたんでも可!!」
「煩い黙れクズが。ナーナリア、式符でこいつらの素性と目的を調べろ。」
レオに対してこれ以上無いほどに嫌悪感を全面に出し、ナーナリアに指示をするキムーア。
「御意。」
「な!なんだよこの紙!こんなんデコに張るもんじゃねぇよ!!」
ナーナリアは『真相』と書かれた式符を二人の額にぺたーっと張って、短い呪文を呟く。
「…東系魔法か。」
「よくご存知で。カイザー・ローゼンクライツさん。」
「すげぇ!!超能力だぜカイザー!!」
「魔法すら理解出来ないのに何故超能力だなんて言えるんだ馬鹿レオン。
ああそうだ…お前はただ棒を振り回すしか能が無い阿呆だったな、失礼した。」
「ははは〜、ごめんごめんっ!許せよカイザ〜!!!」
べらべらと嫌味を皮肉ったらしい口調でまくし立てるカイザーにレオはヘラヘラと笑いながら謝った。
「もう口を利くものか。今から俺は会話からストライキする。」
「ちょ、カイザー!ツッコミいねぇと俺ボケ倒すだけじゃんよ〜!!おい喋れよカイザー!!」
カイザーが会話ストを起こしてレオがつまらなさそうに突っ掛かる。
そんな事など気にも止めないキムーア達は完全に自分達のペースで会話をしている。
「どうだナーナリア、何か分かったか?」
「はい…彼らの言っている事は本当ですね。式符からも確認しましたし。」
「そう…じゃあ私達は彼らに酷い事をしてしまったのね。アキルノア、謝罪するわよ。」
ナーナリアの答えを聞いたジュリーはホッと胸を撫で下ろすが、直ぐに申し訳なさそうに視線を落とす。
「えぇ〜!!!?カーバンクルに頭を下げるなんて真っ平御免ですよ姫様〜!!!!」
「彼らは配属されたばかりで何も知らないの、つまりは一般人と同じよ。謝るべきだわ。」
アキルノアはジュリーに引っ張られてレオ達の前に行く。
「ちぇー……。どうもすんまっせんですぃたぁ〜!」
「アキルノア!本当にごめんなさい、警戒する余りに疑ってしまったの…。
ごめんなさいね。」
謝る気が全く無いアキルノアの謝罪にジュリーが深く頭を下げる。
「いやいやいいよ!!俺らも後をつけたりして悪かったな!!にしても美人が多いぜ!!アンタもすげぇ綺麗だ!」
「そ、そんな…綺麗だなんて…」
レオの正直な言葉にジュリーは少し照れて顔を背ける。
「姫様はお綺麗で美人で料理上手で賢いドSですからね〜!!!」
「貴女は物覚えが悪い楽観的なおバカで嗜好がおかしい蕎麦マニアでいつも一言多いのよ、アキルノア。」
「いだだだだだ!!!!!耳!!耳がぁああああっ!!!」
ジュリーはアキルノアの耳をぎゅうううと引っ張りながら、ニコニコしている。
「なんかよぉ、美人ばっかで危ねぇよ!そのうち誘拐されちまうよ!!」
「なあなあ!私も美人?」
「あー…美人っつーより、ガキっぽい?…うん。今後に期待って所だな!!
でもアンタの隣に居る姉ちゃんは美人だ!不思議系美人!!銀髪とかマジ綺麗!」
「………、うびゃああっ!!!!周りが綺麗過ぎるだけやぁあああああっ!!!!!」
サエはリホソルトの綺麗な銀髪やジュリーの胸元、キムーアの足を見て、またリホソルトのローブに引っ込んで喚く。
「サエ、うるさいよ。どしたの?」
リホソルトは少し眠たそうに欠伸をしながらサエの頭を撫でる。
「やっぱ俺はアンタが一番だな〜!!すげぇ美脚だし、それなりに強いし姐御っぽくて良い!!
俺は、か弱い乙女より強く生きてる女を守りたい!!やべえ好きだっ!!!」
「女扱いするな!!」
「女扱いしたくなる程美人で色気があんだよ!俺のタイプ!結婚してくれ!」
「ナーナリア!!!コイツを直ぐに消せっ!!!!」
「ミナルディ様、落ち着いて下さい!!!口説いていらっしゃるだけですよ!!」
美人美人と連呼してアピールしまくるレオに対して、今にも斬りかかりそうなキムーアをナーナリアは必死で止める。
「へえ〜、ミナルディってゆーのか!綺麗な名前だな!」
「ええい煩い!!全力で黙れこの単細胞馬鹿野郎めが!!!!」
キムーアが声を荒げる中、レオの隣に居たカイザーからプチンと音がした。
「うるっせぇんだよ!てめぇら!!容疑は既に晴れたのだから早急に縄を解け!そしてレオンは話をややこしくするな!
大体あんたらも協調性無さすぎる!そしてキャラが濃い!自由勝手に喋るな!寝るな!蕎麦を食べるな!
でもって東系魔術師!アンタはツッコミ属性だろう!さっさとツッコめ馬鹿野郎!
それからレオの惚れた女は煽るな!嫌がれば嫌がる程コイツは付け上がるぞ!
いいかよく聞け!俺は話が進まないのが一番イライラするんだ!分かったら早く話を進めて行動に移しやがれこのノロマ共が!!!」
物凄い勢いでカイザーがツッコミと罵声を言いまくると、坑道内は一瞬シンと静まった。
「カ……カイザーが喋ったぁあああああっ!!!
さっき『もう口はきかん』とか格好良く言って今までずっと黙ってたカイザーが喋った!!!」
「こうもツッコミ所満載では黙っていられぬわ!!!!」
「さっすがカイザー!俺の相棒っ!!そしてミナルディは俺の嫁!!!」
「「黙れっ!!!!!!」」
カイザーとキムーアは心の底から叫んだが、レオには全く届いていなかった。
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