Sae's Bible
傷、戸惑い、無力、
「はっ!!!」
ブンッ
何度も攻撃を繰り出すが、キムーアの剣は空を斬るばかり。
「くそっ!!かすりもしない!!!」
「ミナルディ様後ろ!!」
キムーアの背後に瞬間移動した眠りの神が魔法弾を打ち付けようとしたその時!
ウィンディガーヴ!!
ヒュオオオッと風がキムーアを囲み、眠りの神の攻撃を弾いた。
「はぁっ…助かった…すまんなジュリー…」
「これぐらいしか出来ませんから。」
「キムーア腕から血ぃ出てるやん!大丈夫なん?」
いつ攻撃を受けたのだろうか、キムーアの両腕から血が流れ出ていた。
両腕の傷を見たキムーアは険しい表情で近寄ろうとするサエを跳ね退ける。
「何なん!そんなに傷見られるん嫌?私血ぃ怖く無いから大丈夫やで!にしてもいつ怪我したんこれ?」
「………は、余計なお世話だ…ジュリー、治癒を頼む…」
「…すぐにすむから我慢して頂戴ね。」
ジュリーがキムーアの額に手を当てると治癒魔法が発動し、徐々に身体の疲労と傷が癒えてゆく。
「ぐっ…よし、いける…このまま援護を頼むぞ。」
そう言ってキムーアは傷を隠すように素早く戦闘に戻った。
「ミナルディ様、お体は…」
「問題ない。ナーナリアは右から行って私の合図で攻撃、私は左から挑発する。」
「右…?…もしや…」
キムーアは左利きだ。双剣使いとはいえ、利き腕の方が威力は圧倒的に高いのだ。キムーアの剣技は右から立ち回り、左剣を駆使する事が多い。
それを知っていたナーナリアはキムーアが利き腕を酷く負傷しているのではないかと疑う。
「ミナルディ様、利き腕を見せ「言うな。」
「もしやまたあの傷を!?」
「たいしたことはない。サエには言うなよ、煩いからな。
それに…恐らくジュリーはコレに気付いたようだ、治癒した時に分かったんだろう。」
「…この戦いが終わったらジュリーに傷の事を説明して叱って頂きます。」
「ああ、お前に叱られるより幾分かはマシだ…行くぞ!」
「御意!!」
「はぁあああっ!!!!」
キムーアが左から眠りの神に挑発的な攻撃を繰り返す。
「イヤ…………イヤ!!」
まんまと挑発に乗ってきた眠りの神は魔法弾を打ちまくり、隙が出来た。
その瞬間キムーアがナーナリアに合図を送る。
(今…ですね!!)
シュッとナーナリアの放った矢が眠りの神の後ろ髪を通り抜ける。
「あぁああああっ!!!!」
「首筋に刻印!」
恐らく刻印を掠めたのだろう、眠りの神は襟首を押さえてうずくまっている。
「誰か相手の動きを封じて!刻印を消すわ!」
「任せろ!」
「おっけい!」
「承知!」
一気に距離を縮めたナーナリアとキムーアが眠りの神の腕を押さえ付け、サエとジュリーは彼らの元へ急ぐ。
その時、ミュー君を囲っていたジュリーの結界がパリンッと大きな音を立てて砕け散った。
「ねーねっ!!」
「あ!!!」
「ミュー君!!」
キムーアに捕えられた眠りの神が心配になったのだろうか、ミュー君は一直線に走ってゆく。
ドンッ!!
「しまった!!」
ミュー君に気をとられたわずかな間に、眠りの神を押さえ込んでいた両手が緩む。
その隙を眠りの神は見逃さず、少し自由になった右手から大きな魔法弾をミュー君目掛け放った。
ズババババッ!!
「ぐあああああっ!!…は、無事…か…?」
間一髪キムーアがミュー君を抱え込み庇い、その背に全ての攻撃を受ける。
「……っ!!!!僕は…僕…、うわぁああああっ!!!」
目の前に広がるキムーアの鮮血、自身の手にもべっとりと付着した血、それらを見たミュー君は身体を震わせて叫ぶ。
「あ、ミューリット君!!」
「サエ!早く…刻印を、消せ…だいぶ…弱っ、ている…!!」
「でもっ!!」
今のミュー君を一人にするのは危険だ。相当なショックを受けて理性を失っている彼は何をするか分からない。
「ミュー君は私に任せて!さあ、行って!」
ジュリーは戸惑うサエの肩を叩いてミュー君の後を追う。
「…うん、頼んだで!!」
サエは叩かれた肩に少し勇気付けられたのを感じた。
「ミナルディ様!動いてはいけません!!」
「……何を、している…ナーナリア…早く…早く加勢しに…行け…」
「……っ、御意…!!」
酷い傷を負っているにも関わらず戦えと言うキムーアの意思を汲み取り、ナーナリアは眠りの神に立ち向かう。
「私が何とかせな…でも…どうやって…?」
オリジン魔法では遅すぎて動きを止める事は不可能。かといって魔法以外…サエは何も出来ない。
初めて、自分が『無力』であると気付いたサエだった。
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