Sae's Bible
少年を救う謳
「後10分程しか持たん。」
「ど、どういう事ですか?」
2人は話し合いながら少年の攻撃を回避し、隙あらば反撃をする。
「体力と魔力の消耗が異常に激しい…恐らくそういう魔法がこの部屋にかけられている。」
言われてみればナーナリアの結界維持力も普段に比べると低下している。
「消耗を増大させる魔法…で、ではジュリーが!!」
「あぁ。ジュリーは勿論の事、あの馬鹿2人も限界が近いはずだ。」
サエ達を見れば先程より格段に反撃の回数は減り、守りばかりで押されている。
ジュリーといえば長い長い解除魔法で精神力、魔力共に限界を越えている。
魔力が空になれば魔法が糧とするのは[肉体]。
このままではジュリー、いや全員が…死に至る。
『『『あははー!やっと気づいたねぇ!!君達の力は部屋に入った時から奪われてたのだよー!!』』』
3人の少年は同時に嘲笑い、その身体が中央に集まり[一人]になった。
[一人]となった少年は当初よりも膨大な魔力を感じさせ、全ての傷口が再生しつつある。
「くそっ!面倒な奴だ…」
「なんなんあの子〜!!めっちゃ元気になってるやん…」
「うげー…もう力出ないって…ひめさまぁ〜!まーだでーすかぁ〜。」
「まずいですね…結界が…」
サエ達は結界を守るように少年の目の前に立ち塞がる。
魔力の減少のせいで戦う力など存在しなかったが、少しでも行く手を阻む為に立ち上がった。
その時、ジュリーが消えかかった結界から出て来た。
「え?姫…さ、ま…?」
サエ達は驚愕した。
結界から出たジュリーはあまりにも美しかった。
すらりとした背丈で、金色に輝く長い髪が風に揺れる。
澄み切った知的な翡翠の瞳は真っ直ぐに少年を見透かしているようで。
左手に例の黒い箱を持ちジュリーは詠唱を続ける。
我が力の限り尽くすが定め
創世の昔に滅びた神々が託した世界の夢
現世において我等の忘却された記憶を取り戻せ…
『なっ!!?そんな…その呪文は消えちゃったはず…どうして…!!?』
少年は動揺のあまり膝をつき、頭を抱える。
そんな事はお構い無しにジュリーはスラスラと呪文を紡ぎながら、少年の傍へ歩み寄る。
永久の巡りは尽きせぬが由縁
永遠に終わらぬ謳を奏でる大樹の声を聞け
我の紡ぐ唄と共に扉を開くは始祖よりの約束…
『…や…やっと……す……………く…が………グフッ…ァアアアアッッ!!!!』
「なっ…なんなん!?ジュリーてあんな美人やっけ!?」
「うっそん!!姫様は美少女で通ってるはずですよぉおおっ!?いや姫様は今後もちょー綺麗ですけど!!」
「お二人共そこが問題ではありませんってば!!」
サエ達があほらしい事を討論している中、キムーアはジュリーを凝視していた。
「どうなってるんだ…まるでサエが湖でしたような魔力…まさか……」
呪文が終盤に差し掛かり、ジュリーが声を大きくする。さも目の前の少年に言い聞かせるかのように。
宵闇から瞳に光を宿し
汝の在るべき姿を現さん
智慧の遺櫃は開かれた
鍵よ文書よ全ての力を解き放ち
彼の者へ真実を返し給え
その名を…
ミューリット・ラングフォード!!
パァアアアアアッ!!!
凄まじい光が少年もろともサエ達を飲み込む。
シュンッと一瞬にして光が消えるとジュリーは普段の姿で少年の傍に倒れていた。
「姫様っ!!!」
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