Sae's Bible
時が止まった街

ぽかぽかした朝の光が窓からサエを照らす。

「…う〜ん…まぶしい……」

うっすらと目を開けると辺りは少し薄暗かったが朝のようだ。

「朝!?…って事はまる半日寝てたっ!?」

ベッドから起きて机の上の時計を見ると、AM5:48と表示していた。

「まだ家の中が静かやなぁ…。
部屋で寝てんのかな?」

寝てる間にボサボサになった髪を綺麗にポニテにくくり直し、サエは自室を出た。
まずタケシミアの部屋に向かい「タケシミア〜?」と声をかけ、部屋に入るが誰も居なかった。

「あれ?まだ帰ってないんかな…2人とも夜には帰るって言ってたのに。」

仕方なくサエは部屋から出て、階段を降りる。
1階もやはり誰も居なくて、まだ2人が一度も帰っていない事がわかった。

「おかしいなぁ…朝までかかるなんて。ちょっと外に出て見てこよ。」

サエは外に出ようと玄関へ向かおうとして、足を止めた。
昨日、家全体を包んでいたはずの魔法結界が消えている。

「え?魔法結界て確か張った術者が解除するか、誰かからの攻撃魔法を打ち消さない限り解除されないはず…」

カズヒルムは帰っていない。
つまり解除は有り得ない。
でも解除されている魔法結界。

「まさか…攻撃魔法を受けた?
でも誰が…エデンでお兄ちゃんは魔力の強い方やし、エデンの人がやるなんてムリやし…」

考えを巡らすサエはふと、テーブルの上に置きっぱなしの新聞を見た。
悪い予感がよぎる。

「そんな、まさか…ね。
そうだ!外に出ればわかるって!まだ朝やけど近所のおじいちゃんとかいつも散歩してるし、起きてる人多いもん!」

玄関先へ向かおうとすると、昨日壁に立てかけた自分の杖が目に入り、ある事を思い出した。
小さい頃からカズヒルムによく言われた。

『外へ行く時は必ず杖を持っていけ。』

その言い付けを守らず、痛い目にあった事は何度もある。
サエは杖を手に取り、玄関先に向かい扉を開けた。
外へ出たのはいいものの、辺りはシンと静まりかえっている。
いくら朝とはいえ、あまりにも静か過ぎる。

「……大丈夫。大丈夫、みんなきっと居る。」

サエは自分に言い聞かせるように言って、外を歩き始めた。
いくら歩いても小さな魔力すら感じない。
エデンは魔導師の国。
いつもどこを歩いていても魔力を常に感じられた。

「魔力を全く感じない…」

まさか悪い予感は当たってしまったのだろうか…。
新聞に載っていたセントレードのように、人々は1日で消えてしまったのだろうか。

「まだ…まだや。そう決まった訳やない。証拠が無いもん。
確かお兄ちゃんたちは魔法結界を張るって言ってた…
あ!そうや、広場!広場におるはず!」

サエはそう言って広場へ向かい走り出した。
息を切らして広場まで行くと、そこには信じられない光景がサエを待ち受けていた。

「うそ…何…これ…」

様々な格好で止まっているエデンの人々。
まるで時を止められたかのように。
きっと戦おうと、守ろうとしたのだろう。
杖を振りかざし攻撃しようとする者、愛する人を守ろうと庇う者、そして泣き叫ぶ子供やお年寄り…。

「…………お兄ちゃん…お兄ちゃんとタケシミアはっ!?」

サエは大事な兄と弟を探し回った。
しかし……

「……おかしいよ……なんで…なんでおらへんの?
みんなの中にもおらん、町にもおらん…なんで……」

サエの頬に涙が流れる。

「……お兄ちゃん…ぐずっ……タケシミアぁ……うぅっ…」

涙がどんどん溢れてくる。
でも泣いてたって仕方ない、これからの事を考えなくては。
サエは涙を拭き、一生懸命考えた。

「お兄ちゃんがいつも言ってたやろ…
『泣いてる暇があるなら自分のするべき事を考えろ』って…
考えんと…ちゃんと…考えて頑張らんと…」

頼れる兄はここにはいない。
優しい弟もここにはいない。
2人ともいないけど、エデンの人達は時を止められた。
…サエは泣き止んでいた。

「ここに誰か来て、エデンのみんなにこんな事したんや…。
でもお兄ちゃんたちはいない…まさかお兄ちゃんたちがやった…?そんな事ない!!
お兄ちゃんたちはそんな事せえへん。
今、私がしなあかん事…私がしたい事…
お兄ちゃんたちに会いたい。
エデンを元に戻したい。」

サエは時を止められた人々を見て、「待っててな」と呟き急いで走って家に帰った。
家に帰り、一旦杖を玄関先に置いて2階の自室へ走る。
自室で自分がいると思ったものをカバンに詰め込み、また1階へ降りてキッチンで食料を入れて、カバンを肩にかける。
玄関先に置いた杖を手にし、家の中を見渡す。

「大丈夫、また帰ってこれる。
また…お兄ちゃんとタケシミアと一緒に。」

自分の決意を胸に、サエは家を出た。
初めてエデンの外に出る事になるけれど、
みんなを元に戻す為に…
カズヒルムたちを見つける為に…

サエは旅に出る。



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あきゅろす。
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