Sae's Bible
村を襲った影

ふんわりと風がゼルバの工房前で降下する。
サエ達はストンッと地に降り立ち、工房に入ってゆく。
その直後、ジュリーが自分の風で工房前に降り立った。

「ふぅっ。アキルノア、アヤタルシェとは別で馬車を呼んで来て頂戴。」

ジュリーは何やら考え込んだまま、アキルノアに指示を出す。

「仰せのままに。」

ジュリーの前でひざまずくと、アキルノアはすぐさま工房を出た。

「あの、眠りの谷とはどこにあるのですか?」

「眠りの谷はな、パニージャ国へ行く吊橋の下にあるとても深く長い渓谷だ。
そしてその谷の最下層には眠りの神、リホソルト・スリープが居るらしい。」

ナーナリアの質問に工房の倉庫を漁りながらゼルバが簡単に答える。

「『らしい』?居るかわからないのですか?」

「あぁ。なんせ鍵が無いと濃い霧で入口に戻されるわ、変な奴に追い返されるわ…。
要するに、辿り着けた奴が居ないっちゅう訳さね。お!あったあった。」

ゼルバは倉庫から大きな深紅のケースを取り出し、作業台の上に乗せる。

「ジジイ、私の剣はこれの中か?」

「あぁそうじゃけ。ちょっち見てくれんか。」

キムーアはカタンとケースを開き、中から珍しい形をした剣を取り出す。

「うわぁっ!!めっちゃカッコイイなぁ、キムーアの剣っ!!ええなぁ〜素敵やなぁ〜。」

サエはキムーアの横に立ち、剣をじっと見てべらべらと感想を口にする。

「………ふっ。まだまだ腕は落ちてないってか?…良い剣だ。」

一振りすればフォンッと風を切り、キムーアの剣は美しい孤を描く。

「ご苦労だった、ゼルバ。」

キムーアは魔石を取り出し、剣の頭頂部にはめ込む。
すると黒かった剣の刀身は緋色に輝き、美しい深紅の剣となった。

「そんな大層な事じゃねぇさ。と「馬車が吊橋で襲われたら魔石でぶっこわれた!!!!」

ゼルバの言葉を遮り、アヤタルシェが大声で勢いよく工房に駆け込んで来た。

「お前がぶっこわれてるぞ。」
「まぁったく、やかましいのぉ〜このアホ弟子は。」
「何かあったんですか?」
「落ち着いて話して下さいな。」
「アヤタルシェ、リラックスやで〜!」

皆から落ち着くよう言われ、アヤタルシェは一呼吸ついてから話し始める。

「実はパニージャ国へ行ける吊橋が誰かによって完全に消滅されたんさ。
後、村長の家を中心に村が襲撃されて…サヤフェートの魔石を奪われちまって、村の人はケガしてる。
そんなだからさ、馬車でパニージャへは行けないって訳。」

「…村の奴で死者は?」

「死者は出てない…重傷ばっかり。」

それを聞いてゼルバとサエ達は胸を撫で下ろす。

「犯人が誰なのか知らないのか?」

「…犯人はエルフ。村長の話ではフェリアベルエルフの王族の女の子、斧使いだって。」

アヤタルシェは言いづらそうにちらちらとジュリーを見ながら言う。

「王族って、ジュリーやないんやから…もしかして犯人はジュリーの妹?」

「…そんな…まさか…。何かの間違いだわ…有り得ないっ!!」

ジュリーはぎゅっとスタッフを握りしめ、サエの発言を否定する。

「姫様っ!!!」

息を切らしたアキルノアがバンッと工房の扉を勢いよく開いた。

「なんです、騒々しい。大声を出さないでと昔から「それどころじゃありません!!!
カーバンクルが来ます!!早く村から脱出しますよ!!」

アキルノアが『カーバンクル』と言うと、ジュリーは目を見開いた。

「皆さん!!一刻の猶予も無いの!村から即座に脱出します!」

「カーバンクル?なんだそれ?」

「解説は後で致しますわ!!ゼルバさん、どこか抜け道はありません事!?」

「この下に隠し通路がある!
そこから眠りの谷へ出られるはずじゃけん、はよう行けっ!!!」

ゼルバが工房の左壁際にある暖炉のレンガをガコンッと押すと、暖炉の床がカチャンと音を立てて開く。

「みんな気ぃつけて行きなよ〜!私がししょーと一緒に足止めしといてやるからさ!」

アヤタルシェがニッと笑い、大きな筆を格好つけるように肩に担ぐ。

「みんな、準備は出来てるか!?」

「ちょっ、待ってよ〜!私スリプトラどこやったっけ?」

「さっき鞄に入れていましたよ。」

「何しちょっと!!はよう行けっ!!!」

ゼルバはもたついているサエ達を一気に通路へと押しやる。

「ゼルバ、元気でやれよ。」
「老師…お元気で。」
「アヤタルシェ、おじいちゃん!また会おうな!」
「恩に着ますわゼルバさん。」
「そんじゃね〜!!」


そして…


「んぎゃあああああああっ!!!!!!!!」
「通路って竪穴かよジジイぃいいいいいいいいい!!!!!!!」

サエ達は滑り台のように急速に落ちて行った。

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