Sae's Bible
掻き消された記憶

清々しい朝、サエは久しぶりにすっきりと目が覚めた。

「んー…よし!完全回復やなっ!」

大きく伸びをして、横にあった杖を持つ。
そこで少し違和感を感じた。

「あれ…なんかまた杖と波長が合わんくなってる。おかしいなぁ…魔力が昨日より多くなってるし。」

サエは杖を握り、魔力の波長を合わせようと精神集中をする。

「そういや昨日、私なんか凄いカッコイイ事したような…んー……あれ…?」

湖に来てから後の記憶が無い。確かに何かあったはずなのに曖昧にしかわからない。
それはまるで記憶を消しゴムで乱雑に消されたかのようだった。

「えっと…湖に来て、サヤフェートに会って戦いが始まって…ジュリーが湖に落ちて……うぅっ!!!」

頑張って思い出そうとすると頭がズキズキと痛む。

「あらサエ、おはよう。もう身体は大丈夫ですの?」

森に行っていたのか、果物の入ったカゴを上品に持つジュリーがサエに声をかける。

「わっ!もう起きてたんジュリー。身体なら全然大丈夫やでっ!!
あれ?そんなカゴ持ってたっけ?」

「あぁ、これはナーナリアの式符で出して頂いたのよ。もう皆起きてこれからの食料を集めているの。
ちなみにこれは貴女の朝ご飯よ、サエ。」

ジュリーはそう言ってサエにカゴを渡す。

「ありがとーっ!!早速食べるなっ!」

サエはカゴから一つ果物を手に取り、もぐもぐと食べ始める。

「サエ、食べているままで良いから今後の予定を聞いて頂戴ね。
皆が戻って用意が出来次第、ウォール村へ向かうわ。
そこでキムーアの剣を受け取った後、
馬車で吊橋を渡ってパニージャ国へ行くの。わかったかしら?」

サエは口いっぱいに果物を頬張って、ジュリーにコクコクと何回も頷く。

「おっ!お嬢ちゃん起きたんか!もう眠くないか?」

「よう。もう寝なくていいのか?」

「あ、エトワールさん。身体は大丈夫ですか?」

そう言いながらゼルバとキムーア、ナーナリアが湖の向こう側からやってきた。

「うん!大丈夫!!あれ?アヤタルシェは一緒じゃないん?
それからアキルノアはどないなったん?」

丁度食べ終えたサエは3人に聞く。

「うちのアホ弟子は村に馬車呼びに行ったわいな。まぁ、パシリみたいなもんか。」

「あの蕎麦バカなら湖の中だ。」

「湖ん中っ!?沈んでたん!?」

「ミナルディ様ふざけないで下さい。沈んでませんよ、森に居ますから。」

ナーナリアがそう言った時、サエの後ろの茂みからガサガサとアキルノアが出てきた。

「あ!アポニテ復活してる!!」

「その呼び方ってなんとかならんの?」

果物を食べ終わったサエはアキルノアにそう言って呆れる。

「よし!全員揃った事だし、村に行くか。」

「そうですわね。ではアキルノア、風渡しをしましょうか。」

「はいはーい!!あ、ちょっサエこれ持って。」

アキルノアはサエに全員で集めた食料をサエの持つカゴにドサドサと入れ、風渡しの準備をする。

「待って!」

湖からサエ達を引き止める声がすると、ザァアアアっと水は渦巻きサヤフェートが現れた。


「待って、あなたに渡したい物があるからっ!」

サヤフェートはサエを指差し、手招きする。
風渡しをする為、アキルノアの後ろに居たサエはサヤフェートの元へ近寄る。

「私?何かしたっけ?」

「あなたにこれを。
あなたなら…ううん、あなたたちならリホソルトさんを助けてあげられるかもしれない。
だから…一度でいいから行ってほしいな、『眠りの谷』へ。」

サヤフェートはサエに小さな丸い銀の水晶を手渡す。

「なんだそれ?」

キムーアがひょこっとサエの後ろから顔を出して覗き込む。

「これはスリプトラ、眠りの谷へ入る為に必要な鍵だよ。」

サヤフェートが答えている時、アキルノアが素早くジュリーに何かを耳打ちする。
するとジュリーは眉間にシワを寄せ深刻そうに頷いた。

「皆さん、とりあえずウォール村へ向かいましょう。」

サヤフェートの説明を遮るようにジュリーはさっと風渡しの準備をし、少し顔をしかめながらスタッフを構える。

「ちょっ、そんな急がんでもええんちゃう?えーと…す、スリプトラ!の事とか色々聞きたいことあるし。」

「んじゃ俺が村で説明してやるわい、剣のついでにな。」

気を利かせたゼルバの言葉を聞いてサエは納得する。

そして、風渡しが始まった。

行きと同じように詠唱を繋ぐが、今回はアキルノアの風に乗る。


ヒュオオオ…


「さようなら、みんな。ありがとう…サエ。」

サヤフェートは風の渡りゆく空を見上げ、優しい笑顔でそう呟いた。






「ジュリー・ベルベット…か、それとも…」

何か意味深に小さく呟きニヤリと笑うと、彼女は森の奥へと消えた…





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あきゅろす。
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