Sae's Bible
村と鎖の真相

「一体どうして助かったんですか?」

「それが…湖に落ちて、目を覚ました時に全く息苦しくなかったのよ。そしてお爺さんの氷が何故か割れて…」

「氷が割れたのはサヤフェートの魔法維持力が途切れたからじゃけん。
んで割れたから一緒に出てきたって訳だ。」

「なんで水の中で息が出来たんだ?」

「…水の精霊が棲む湖は酸素を多く含み、澄んでいるからだよ。」

先程までとは違い、優しげな瞳のサヤフェートが口を開く。

「なんだ!!もっかい戦うつもりかコノヤロー!!」

アヤタルシェはキッとサヤフェートを睨みパレットを握る。

「そんなことしないよ。
さっきはごめんなさい…わたし…あなたたちに酷いことして、本当にごめんなさい…。
ただ…ただ…自由になりたかっただけなんだよ…ごめ…んなさい…。」

サヤフェートはぽろぽろと涙を流し、サエ達に謝罪する。

「いや、こんな事になったのは俺とウォール村の奴らに責任があるんじゃ。すまんかったな…サヤフェート。」

ゼルバはサヤフェートに深々と頭を下げる。

「おいジジイ、どういう事だ。それから私の剣はどこだ。」

「お前はいつにもまして口が悪いのぉ。剣なら修理し終わって工房の倉庫にしまっちょる。
今から工房に取りに行くけん、ついて来いや。」

「あら…えぇと皆さん、少し休みませんか?
サエが寝てしまっているので…。」

ジュリーは杖を持ち、座り込んだまま眠ってしまったサエを横に寝かせる。

「ふむ…そんじゃ剣を取りに行くんは明日にするかいな。
では小さい声で事の始まりを説明するとしようか。
話してもいいかね?サヤフェート。」

サヤフェートがコクリと頷いたのを見て、ゼルバは神妙な面持ちで話しだす。

「ウォール村はな、サヤフェートの魔力で生活用水を貰っていた。
だがな…ある日を境にサヤフェートの魔力が少のうなってな。
サヤフェートは世界の魔力のバランスが悪うなって力を出せんのだと言いおった。」

「世界の魔力のバランス?」

「わたしたち精霊は世界中の神々や魔力を生み出す源から魔力を補給するんだよ。
だけど、最近は補給魔力が少なくて…きっと源や神々に何かあったんだと思うよ。」

キムーアの問い掛けにサヤフェートが解りやすく答える。
キムーア達が理解したのを見て、またゼルバが話を進める。

「その言葉を信じりゃ良いもんを村の奴らは信じんかった。
あげくの果てにサヤフェートの持っとる魔石を取り上げた…村で水をいくらでも使えるようにしようとな。
しかし精霊の扱う魔石を人が使える訳もなく、村は枯れていった。
そして魔石を奪われた罪をサヤフェートは精霊界で咎められ、湖に鎖で繋がれた。」

言い終わったゼルバは心苦しそうに顔を歪め、頭を抱える。

「魔石を奪われただけで咎められますの?ご自分のせいではありませんのに…。」

「うん…わたしの持っていた魔石は潜在魔力を増幅させる特別なものだったから、尚更怒られたんだよ。」

サヤフェートは悲しそうにはかなげな笑みを浮かべる。

「その魔石は必要なものでは?帰して頂きましょう。」

「ううん、お姉ちゃんからの預かりものだからいいの。
多分…もう必要ないだろうから。ありがとう。」

ナーナリアの優しい気遣いの言葉にサヤフェートは微笑んで言う。

「しかし、なぜ自分で鎖を切らなかったんだ?」

「切りたかったよ…でも切れなかった。鎖を切ったら…何が起こるかわからないから…。
もしかしたら消えてなくなるかもしれない…それが…怖くて…消えるのはいやで…」

「そうか…すまなかった。辛い事を聞いて。」

「ううん、いいの。わたしに勇気が無かっただけ。それをあの子は断ち切ってくれた…勇気のある強い人…。」

サヤフェートは優しい眼差しでサエを見つめる。

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あきゅろす。
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