Sae's Bible
風に乗って

「すぐにウォール湖に行くぞ!!あのジジイ…叩き斬ってやる…」

「あ、私も手伝う。絵画試験無しとか有り得ねぇ…」

「お二人とも少し落ち着いてください!!
まずここからウォール湖だと1日はかかりますから!」

殺気立つキムーアとアヤタルシェをナーナリアが慌ててなだめる。

「んじゃ空間魔法とかで行ったら早いんちゃう?」

「空間魔法!?サエはもう習得しているの?ものすごく難しい高位魔法なのよ?」

「ううん、できひんよ。いつかは習得したいけど魔力が足らんねん。」

サエがそう答えた瞬間、その場に居た全員がため息をついた。

「はぁー…仕方ないですね。姫様、私が風を呼びますんでアポニテ達を連れてって下さい。」

「風ぇ?そんなんあんたが呼べる訳?無理っしょ。」

アヤタルシェがアキルノアを見て鼻で笑う。

「呼ぉべぇまぁすぅ〜!!伊達にエルフじゃありません〜!」

「えるふ?何だよそれ。まぁいいや、行けるなら早く呼んで。ジジイぶっ飛ばしたいから。」

エルフを知らない馬鹿が居るとは思わなかったのか、アキルノアとジュリーは心底呆れている。

「あの、風を呼ぶとは何なのですか?」

「風を呼「おいまだか。さっさと行きたいんだが。」

痺れを切らしたキムーアがアキルノアの声を遮る。

「はいはい、わかりました。えっと向こうに行く途中で姫様に聞いてください。んじゃ姫様、用意はいいですか?」

アキルノアは工房の扉を全開にし、工房の真ん中に立つ。

「良いわよ。アキルノア、私たちが着いたら貴女もすぐに来なさいね。」

そう言ってジュリーは開かれた扉に顔を向ける。

「了解でーす。では皆さん、出来るだけ姫様の後ろ側に集まって下さい。」

アキルノアの掛け声でぞろぞろとジュリーの後ろに固まるサエ達。
そしてジュリーが杖を前に突き出し、開いた右手を天高く上に向け詠唱を開始する。


フェリアベルの名において
翡翠の森から受ける風渡し
我が思念を伝える昏緑の颯
届け響けよ 風送り


次にアキルノアがスッと目を閉じ、ジュリーの呪文を繋ぎ詠唱し始めた。



送りに応え 風渡し
フェリアベルの名において
翡翠の森より呼ぶは我の風
願い道を駆け抜く新緑の颯
来たれ シルフィード!!


ヒュゴォオオオッ!!!!

凄まじい風がジュリー達を包み込み、物凄い速さでウォール湖へと駆け出す。

「皆!前に重心を倒して!!早く!!」

ジュリー声に全員は前に重心を倒す。
すると足がふわりと浮き、包まれている風に寝そべるような形になった。

「えっ前に重心!?何それどないしたらいいん!?」

「早くして頂戴サエ!簡単にいえばその場で前にジャンプすればいいのよ!」

サエはジュリーに言われた通り前にジャンプした。
そしてようやく皆と同じように浮く事が出来た。
力の抵抗が無くなった為か、風は一気に加速する。

「んぎゃああああっ!!なんだコレっ!!飛ぶ!帽子飛ぶ!!」

アヤタルシェは風で帽子が飛ばされぬよう必死でおさえる。
その時には既にアキルノアと工房は見えなくなり、周りの景色が余りの速さに止まって見える。

「あのっ!ジュリー、これはどういった魔法なんですか?」

「私も聞きたい、交通手段で使えるかもしれん。気に入ったしな。」

ナーナリアとキムーアが興味津々でジュリーに問い掛ける。

「『風渡し』というのはエルフにしか使えない技なのです。
そして『風渡し』は一人が行き先を想像して風に乗せ送り、もう一人がその風を受け自分の風で送り出す…という事ですわ。」

「つまり…情報を風で伝えてもう一方の風で行き先へ行くという事ですか?」

「ええ、その通りよ。」

「なぁなぁジュリー!アキルノアはどないなんの?」

「後から自分の風を使って来るわ。あ、そろそろ着くわよ。」


ヒュオオオ…とゆっくり風が地面に着くと同時にサエ達の両足も綺麗にストンと踵を落とす。

「おい、本当にここなのか?湖が完全に凍ってるんだが。」

「ここに間違いないはずです。ですわよね、ターナーさん?」

「うん…間違いない…けど信じらんない。なんでししょーまで凍ってんだ!!!」

「えっ!?」


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