Sae's Bible
騒ぐな危険。
青々とした若葉が鼻をかすめる。
重い瞼を開けると大きな木の隙間から暖かい陽の光がまばゆく輝く。
「…う…まぶしっ…」
目をこすりながらサエは上体をゆっくりと起こす。
「……。ここどこやねんっ!」
どうやら皆まだ寝ているようで、辺りはシンと静寂に包まれている。
キョロキョロと見渡す限り、目に映るもの全て緑。ただ一つ隣に大きな黄色のテントがあるのを除けば。
「う〜ん…まだなんか頭ズキズキするなぁ〜。そういや杖どこいったんやろ。」
まだ頭痛のする後頭部をおさえながらサエは立ち上がる。
ふと木の上を見上げるとアキルノアがもたれかかって熟睡していた。
「よくあんなトコで寝れんなぁ〜、首痛くなれへんのかな。
あ、杖発見っ!」
テントの脇に置かれていた杖を手にとり、軽く素振ってみる。
「ん〜…なんか…魔力おかしくなったかな?波長が合わへん。よし、一回軽い補助魔法使って確認してみよっと。」
失敗した時の為、一応杖はテントのある方とは逆の小さな若木に向ける。
少し深呼吸をして、全神経を杖と魔法に集中させる。
そしてゆっくりと間違わないように詠唱を開始する。
悠久へと続く新たなる樹よ
我が呼び声に応えよ
その身に宿す昏緑の力を促し
豊かな実りを我に授け給え
ハーベストグロウリィ!!
そう詠唱するとサエは杖を若木に向けた。
パァアアアアッと美しいエメラルドグリーンの光が若木を取り巻く。
すると若木はみるみるうちに成長し、沢山の果実を実らせた大樹と成った。
「ほはーっ!!!!なんか…なんかすごい木になった!!果物いっぱい!やほー!!」
「…なんですか、騒々しい。」
サエがぴょんぴょん跳びはねながら喜んでいると、騒がしかったのかナーナリアが起きてきた。
「あ!ナーナリアおはよ!!」
「エトワールさん?目覚められたんですね、身体は大丈夫ですか?」
「うん!なんか頭痛いけどな、魔力レベルアップしたっぽくてっ!!めっちゃうれしいねん!この木ぃ私がおっきくしてんで!!すごいやろ!!」
「へー良かったですね。わぁーすごいすごい。」
明らかに棒読みでどうでもよさそうにナーナリアが言う。
「ちょっ!ナーナリア興味なさすぎやろっ!!」
「朝から五月蝿いわね、喉から声帯を取り出してあげましょうか?」
サエの大声でジュリーが物凄い不機嫌で起きてしまった。
「ごめんなさい。そしておはよー。」
「おはようございます、ジュリー。」
「ナーナリア、おはよう。あらサエ、もう体調は良くなったの?」
「あ、うん!!ちょっと頭痛いけど全然平気!むしろ魔力強くなったっぽい!!」
「そう、なら良いけれど…あの時の事は覚えているの?」
「んー…私も何がなんだか…あんま記憶に無いねん。」
サエがそう言うと、ジュリーは怪訝そうな顔をして「…そう。」と言った。
そしてアキルノアが爆睡している木の一点を杖でゴスッと突くと…
バキィイイイッ!!!!
げうっ!!!
アキルノアの寝ていた枝のみが豪快な音を立てて折れ、その枝が木の下で寝ているアヤタルシェにヒットした。
「……姫さまぁあああああっ!!!!!危ないでしょおがぁあああああっ!!!!」
「痛いんですけどぉおおおおおおっ!!!!!なんだこの枝ぁああああああっ!!!!」
「うふふ、脳天ぶちやぶれれば良かったのにね。それはもう喋れなくなる位に。」
落ちた枝を拾い上げ、ジュリーがアキルノアとアヤタルシェに黒い笑みを浮かべる。
「「申し訳ありませんでしたぁあああっ!!!!!」」
おバカな二人は朝から土下座をするはめになった。
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