Sae's Bible
絵じゃなくてもはやミミズ

歩き始めて20分。一行がアヤタルシェに案内され着いた場所は湖ではなく森だった。

「あら、湖じゃないのね。」

「30分以内だったらここまでしか行けないや、ウォール湖はこの森抜けた先だし。」

アキルノアは気絶しているサエを大きな木の根元に寝かせ、

「あー…あたい休んじょるけぇ、サエば此処さ置いとくべ。んじゃ寝るが。」

と言って、慣れた手つきでするするとその木に登り、木の上ですぐに寝てしまった。

「おいジュリー、あの馬鹿ほっといていいのか?ってかあいつどこ出身?すげぇなまってたけど。」

「うふふ、アキルノアはレニセロウスの出身よ。けれど少し田舎の方に住んでいたから訛りが出るのよ。」

「そんなんどうでもいいから、さぁこの絵買いましょー!」

アヤタルシェはそういうと背負っていた鞄から一枚の絵を素早く取り出してナーナリアに言う。

「なんで私なんですか?」

「人が良さそうだから!」

「ほぅ…私は人が悪そうだと、つまりそういうことか。」
「あら私もなのかしら、うふふふふふ」

ニコニコ笑うアヤタルシェの後ろでキムーアとジュリーが黒く笑いながら言う。

「え!?いやそーいうつもりで言った訳じゃないって!!
さっきアイツが折った筆の代金と、ここまでの案内料が欲しいだけだって!!」


「と…とりあえず、その絵を見せて下さい。絵の価値で判断するという事で。それでいいですかミナルディ様、ジュリー。」

「よほど上手くないと買わんからな。」

「そうね、私の眼鏡にかなう物ならば買ってもいいわ。」

「よっしゃ!んじゃコレ。」


アヤタルシェは持っていた絵を3人に見えるように反転させる。


「………。」

「………。」

「………。」


アヤタルシェの持つキャンパスに描かれていたのはお世辞にも上手いとは言えない代物で、
何を描いたのかすらわからないぐちゃぐちゃの絵だった。

「題名は『春の定食屋』!桜の木の傍にある定食屋さんとお客さんを描いた絵なんだよね〜!
それに結構自信作だし!ね、絶対買うでしょこれは!」



「「絶対買わない。
    買いませんわ。」」


「なっなんで!!?」

「絵じゃないですよコレ、売れない画家の下書きです。」

「うっ…下書き…」

ナーナリアがしれっと真顔で言い放ち、

「あら、これって下書きだったの?子供の落書きじゃないかしら。」

「らっ!?落書きっ!!?」

ジュリーがうふふと笑いながら言い、

「いや、落書きどころじゃないな。もはやミミズ。」

「ミミズっ!?」

とどめにキムーアがきっぱりと言い、アヤタルシェはがっくりとうなだれる。

「あら、もう陽が暮れそうね。そろそろ寝ましょうか、夜出歩いたら魔物が出ますし。」

「えっ!?ちょっ、私の絵「そうだな…晩飯も無いし、さっさと寝て朝飯を食えばいい。」

絵を持ったまま驚くアヤタルシェの言葉を遮り、キムーアがナーナリアに目配せする。

「では、テントを出しますね。」

ナーナリアはそう言うと式符を一枚出して、さらさらと『テント』と書いた。
そしてその式符をヒュッと投げ、

「字命解放!」

と言うと結構大きめのテントが具現化した。

「あら便利ね、これは東系魔法なのかしら?」
 「え、何私放置?」
「あ、はいそうです。簡単に言うと雑貨しかでない紙です。」
 「しかも無視ですか!?」
「食い物が出ないのが欠点だがな。ナーナリア、今度から出せるようにしとけ。」

「無理です、規則違反で死にます。」
 「いや、え、待とうぜ絵を買おうよ!!」

雑談をしながらテントに入って行く3人は焦るアヤタルシェを総無視し、床についた。

「無視ですかぁああああああっ!!!!!!!!!」

むなしくなったアヤタルシェは空を見上げて叫んだ。


「やかましい。」
「げうっ!!!」

そしてキムーアに後ろから蹴られたので、木の下でおとなしく寝ることにした。



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あきゅろす。
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