Sae's Bible
エトワールさんちのサエちゃん

いつものように髪をポニーテールにして、自室の窓を開ける。

「よぉーし!今日も一日頑張ろ〜!」

外の青空を見上げ、元気良く朝を迎える…それが少女サエ・エトワールの1日の始まり。
ドタバタと服を着替えてサエは自室を後にする。
朝起きてサエが真っ先にしないといけない事、それは兄のカズヒルムを叩き起こすこと。
カズヒルムは昼夜が逆転した生活をしているので、最高に起きるのが遅い。
こんな不健康な生活の為、誰かが起こしに来ないと夜に起きてくる始末。
そうなっては厄介なのでサエは毎朝起こしに来ている。
兄の部屋の前に立ち、大きな声で「朝やで〜!!!!!」と叫ぶが毎度のことながら反応なし。仕方なく部屋に入れば、部屋の隅に三角座りで寝ているカズヒルム。

「お兄ちゃぁぁん!!朝やってばぁあああっ!!!」

サエがカズヒルムの耳元で叫んでもやはり反応が無い。

「もーお兄ちゃんてば。もうすぐお店の開店時間やのに。」

そういいながらも近くに落ちていた兄の枕でカズヒルムを叩きまくる。
それでもやはり「…う〜ん…」と言ってうなるだけで起きる気配はない。
サエはカズヒルムを叩き起こす最終手段をとる為に一度自室へ戻り杖を持ち、またカズヒルムの部屋の前に来た。

「起こすついでやから魔法の練習しよっと。お兄ちゃんに教わってからまだ一度も成功してないけどまぁいいや。」

結構ひどいが兄なら大丈夫、となんの確信もなく信じるサエ。そしてついに呪文の詠唱を始めてしまった。

集えよ集え聖なる光球
我が前の彼の者に
輝く制裁を下したまえ

ホーリーライトボール!!


ズバムッと勢いよく杖の先から大きな輝く光の球が放たれ、カズヒルム目掛けて飛んでいく。
それは見事カズヒルムに命中したが、勢いがあり過ぎたのか部屋の中でまるでピンボールのごとく跳ね続けている。

「……サエ!!ちょ、何これぇっ!!」

カズヒルムはやっとお目覚めらしく、部屋で家具をバコバコ薙ぎ倒していく光球を見て驚き叫ぶ。
カズヒルムから目をそらして、

「…あはは〜…ちょ、ちょっとね…じゃっ、私先に1階行ってるからぁ〜!!」

と言うと急いで自室の机の横に杖を立てかけて、1階へバタバタと降りていった。
カズヒルムがサエを呼んでいたようだったが、めんどくさかったので無視して1階に行くと弟のタケシミアが居た。
サエが後ろから「タケシミアおはよ〜!」と言ったが、タケシミアは何かを真剣に読んでいるようで気付いていない。
タケシミアの肩をポンポンと叩き、もう一度「おはよ。」と言うとタケシミアはサエの方に振り向き「あ、姉さんおはよう。」と返事をした。

「何読んでんの?」

「ん?あぁ、これ。」

タケシミアがサエに見せた物はエデン魔導師新聞、略してEMタイムズだった。

「うっわ、タケシミア新聞なんて読んでんの?いつも読んでへんやん。」

「いや毎朝読んでるからね、姉さん。それに今は世界中で魔法事件が起きてるから姉さんも目を通した方がいいよ?」

「えぇ〜いややそんなん。読んでも訳わからんし、時々難しい表現あるし。それよりタケシミア、紅茶いれてや。」

「全く姉さんは…。それだから近所のおばさんに非常識だとか言われるんだよ。」

タケシミアは新聞をテーブルに置き、キッチンに向かった。

「別にええやん。非常識だろうとなんだろうと…」

サエはそう言いながらも新聞を手に取り、
一番大きく取り上げられている記事に目を落としながら椅子に腰掛ける。

「なになに…『今度はセントレードで国民消失事件!!商人が見た怪しい影とは!?』……セントレードってどこやっけ……?」

「セントレードは西隣りの国だよ姉さん。」

タケシミアが紅茶のティーカップを2つ持ち、呆れた様子でサエの前にそれを1つ置く。

「あ、紅茶や!!…じゃなくて、セントレードってそんな近所なん!?エデン大丈夫なんかな!?」

「だから言ったでしょ、今世界中の人々が消失する魔法事件が起きてるんだよ。確か…セントレードの前はマーファクトだったかな、そこでも国中の人々が消失したんだよ。しかも1日で。」

タケシミアは真剣に言いながらサエの前に腰掛ける。

「この事件て、そんなにいっぱい起きてんの!?」

「そ、だから今じゃエデンも警戒して魔法結界を張ってるんだよサエ。」

と後ろから声がした。
サエが振り返ると身なりを整えたカズヒルムがまだ眠そうな顔をして立っていた。

「さて〜、店開けようか。
今日のお店番は…誰だっけ?」

「昨日は僕だったから、今日は姉さんだよ。」

「え〜今日店番かぁ〜。」

「じゃ、サエよろしく〜。あー…漬け物用意しないと。」

「あ、依頼来てないかポスト見てこよっと。」

カズヒルムは頭をかきながら店に向かい、タケシミアは席を立って楽しそうに店先のポストを見に行った。
カズヒルムとタケシミアはお店をしている。
といってもちゃんとお店として構えているのはカズヒルムの店だけで、タケシミアはカズヒルムの店に少し間借りしている状態だ。
カズヒルムはエデンの特産品、サラマンダーの尾の漬け物から様々な薬などの漬け物と雑貨のお店を経営している。
タケシミアは街のなんでも屋をしていて、依頼をカズヒルムの店先のポストやカウンターで受け付けている。
サエは普段、魔法の練習ばかりしているが時々カズヒルムのお店を手伝っている。

「タケシミアも毎日飽きひんなぁ〜。依頼っていっても月に10件あるか無いかやん。」

実際この家を支えているのはカズヒルムの収入だけで、タケシミアの収入はまだ小遣い程度なのだ。
サエは残った紅茶を飲みほして席を立つと、カズヒルムたちと一緒に店の開店準備を始めた。
店の明かりをつけて、カウンターをサッと拭く。
タケシミアが在庫をチェックして少ない品物を急いで倉庫から持ってくる。

「兄さぁん!全体的に薬の在庫が足りないよ〜!!」
「今日中に50は調合するから、倉庫のやつ全部棚入れで!!」

カズヒルムは今日の納品や入荷を確認したりと、サエにはわからない店の管理をしている。

「タケシミアぁ!!昨日の入荷調査書どこやった!!」
「カウンターの下から3番目の引き出し!!
それより結界魔法薬が在庫切れだよ兄さんっ!!」
「またかぁ!?昨日60瓶調合した所なのに!?あ、ここの薬草どこやったんだタケシミア!!」
「昨日兄さんが薬品棚に入れたじゃないか!!」
「あ!そうだったそうだった…」

2人が店をバタバタ駆けずり回る中、サエは店の外を掃除していた。

「今日はええ天気やなぁ〜。」

店の窓と看板を綺麗に拭き終わり、また店に入るサエ。

「ふぅ、出来た。おっ!店も綺麗になったな!」
「兄さん一応終わったよ。はいこれ、在庫切れだから急ぎで作ってよ。」

タケシミアが店の倉庫から出てきて在庫切れの一覧表をカズヒルムに渡す。
カズヒルムがそれを見ながらうげぇっと嫌そうな顔をする。
そしてやっと開店準備が整い、カズヒルムが扉にかかっているCLOSEとなっていたカードをOPENにする。

「よし、開店だ!」


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あきゅろす。
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