[通常モード] [URL送信]

UndeRSt@nD
宝石強奪殺人事件
「ほ、本田…一樹…。」
松井は戦慄していた。その名前を聞いた森岡と大沢も同様だった。
それから、誰もしゃべることなく捜査は続けられた。

「フフフ、いい気味だな。金が全てと思っている馬鹿な豚どもを駆逐してやった。この世は力と知能が全てなんだよ。なあ、理緒。」
宝石強奪犯の本田一樹は逃げるために東ブロックへ向かう車の中で後部座席に座る共犯の西村に話しかけた。西村理緒の隣にはもう一人誰かが座っている。監視カメラには映っていなかったが、共犯であろうか。
西村は本田の言を無視し、窓の外を眺めた。いつもと変わらず、何の変化もない風景が広がっている。人々は何も知らないのだ。
西村の反応がないので、本田は西村の隣の男に話しかけた。
「それにしても、こんなにうまくいくとは思わなかったぜ。あんたの提案のお陰だな。ありがとよ、三嶋さん。ライトクリスタルは謝礼だ。あんたにやるよ。」
「らしくない真似はよしなよ、一樹。僕が欲しいのはこんな嗜好品じゃなくて、僕の人生を面白くしてくれるものだよ。」
三嶋はさらに続けた。
「それに、君の実力、目的、趣向はこんなもんじゃないだろう?」
三嶋はなんでも知っているような口振りだ。沢本同様、白髪で長身なので、まるでモデルのような出で立ちだ。坊主頭で黒髪で背が低い本田とは対照的だ。西村も黒髪だから余計に目立つ。ダークブラウンの瞳の奥には何か底知れない企みが潜んでいそうだった。
本田は三嶋の言葉に「お見通しって訳か」と言うと、これからの計画について話し始めた。
「三嶋さん、理緒、よく聞いてくれ。この後は一旦東ブロックを拠点にして活動しようと思っている。今回は西ブロックだったが、本命は中央官庁が密集する中央ブロック。この社会の転覆が最終的な目標だ。」
それを聞いた三嶋は即座に理解し、本田に聞き返した。
「つまり…、中央官庁の長官クラスの殺害。または中央官庁の機能停止による社会の混乱か。いや、もしくは警察組織や消防組織の機能麻痺による治安、防災の悪化。それによる都市機能の崩壊、といったところか。」
「少し違うぜ、三嶋さん。俺はそんなに高望みをしている訳じゃない。この町は狂ってる。自由が奪われているというのに、それに疑問すら持たない。」
「ふむ…。つまり、この町の束縛からの解放ということか。」
「まあ、だいたいはそういったところだ。」
「いい考えだと思うよ。この町は犯罪が少なく、スラムも無い。人々には恒久の平和が保証されている上に平等という素晴らしいものまである。だが、そのために自由が奪われている。平等と自由は決して相容れるものではない。例えていうなら、隣り合っていながらも互いに交わることのない平行線のようなものだ。」
「でも、今の政府はこの町は自由と平等が共に保証されている、とかほざいてやがる。テレビ番組もそれを意識したものしかやってないし、書籍もその通りだ。」
「おそらく政府からのプロパガンダだろう。公開する情報をコントロールすることによって人々を洗脳している。実に巧妙かつ幼稚な策略だ。」
「まったくだぜ。」
「ふむ。意見が一致したようだね。僕は全面的に君に協力しよう。」
三嶋は不敵に微笑んだ。

〈*前〉〈次#〉
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!