幽霊と俺の共同生活四十五日目 「鏡花はさ、ミステリアスで可愛かったよな。」 鏡花の通夜で龍亮が言った。既に午後10時をまわり、残っているのは俺と龍亮と梨愛だけだった。咲夜は見当たらない。 「そうか?ミステリアスではあったけど可愛くはないだろ。」俺は昔を懐かしみながら答えた。 「どっちも違う。オレが一番近くにいたから分かる。鏡花は凄く人見知りで、優しかったし、気が弱かった。みんなの前では無理してたんだよ。」 梨愛が語りだした。でもここからが長かった。 「オレが鏡花と知り合ったのは小学校の時でな、その頃は鏡花はほとんど何も話さない無口な人でさ。オレも友達になるまで随分かかったよ。それに頑固でさ、いろんな人に迷惑かけてよ。そのたびにオレまでとばっちり食らって。でも、楽しかったな。お前らもそうだろ?少なくともオレはそうだ。何を考えてたのか分かんないけど、何かを追い求めていたのかもしれない。たまにワケわかんないこと言い出してさ、難しすぎて分かんなくて。でも鏡花は必ず答えを導きだそうとするんだ。努力家だよ。オレなんて足元にも及ばない。すごい人だったよ、鏡花は。」 そこまで話すと梨愛は目をこすった。眠くなってきたのか、涙が溢れそうだったのかは分からないが、それからは何もしゃべらなくなった。 他人が考えていることは自分には分からない。梨愛のいう通りだ。俺は今、龍亮が何を考えているか知らない。もちろん梨愛もだ。人が考えていることが分からないなら、幽霊ならなおさらだろう。 俺はいつまでたっても現れない咲夜のことを考えながら梨愛の話を聞いていた。 「おい、遊人。大丈夫か?」 いつの間にか眠っていたようだ。目を開けると龍亮がのぞきこんでいた。 「もう1時だぞ。そろそろ帰らねぇと。」 「あ、ああ。そうだな。」 俺と龍亮は帰り支度をし、お詫びとお礼を鏡花の父さんに言って家路についた。 「なあ、遊人。俺らってさ、鏡花のなんだったんだろうな。友達?ただのクラスメート?どうだったんだろ。」 「知らねぇよ。そんなもん鏡花しかわかんねぇよ。他人のことなんか分かんないんだよ。」 「だけど…、俺は少なくとも友達だったと思ってるよ。」 「俺は親友だったと思ってる。」 「結局は心の持ちようだな。」 「そういうこった。」 俺と龍亮は深夜の歩道を悲しいような、それでいて後味が悪くない感じで歩いていた。 空には満月が輝いていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |