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最後になるかもしれない
幽霊と俺の共同生活四十二日目


「正直、かなり危険な状態です。」
医師が俺達に告げる。全員が信じられないといった表情でそれを聞いた。
連絡を受けたのは事故から一時間後くらいで、その時には既に手術は始まっていたそうだ。
「くそっ…!!」
龍亮が壁を蹴って悔しそうに言う。
「結局俺達は何もできねぇのかよ…。不甲斐ない、不甲斐ない。くそっ…!!」
龍亮はそのまま壁に額を押し付け、叫ぶように泣いた。声すら出さなかったが、瞳からは大粒の涙が流れている。
梨愛と麻里奈も泣いている。魁生と巧斗は必死に誰かに電話をかけていた。
「なんでこんなことに…。」
俺は小さく呟いた。


ことの発端は約二時間前。そのころ俺は咲夜と帰宅途中だった。
梨愛と鏡花もちょうどその時に帰っている途中だったのだろう。いつもと変わらない日常…のはずだった。
学校から少し離れた十字路を梨愛と鏡花は歩いていた。その時だった。信号を無視した一台の乗用車が鏡花に突っ込んだ。鏡花は弾き飛ばされ、全身を強打した。さらに悪いことに、そのまま20メートルほど引きずられたのだ。
梨愛が呼んだ救急車が到着する頃には、鏡花は虫の息だったという。


「鏡花…。」
俺はカーテンに阻まれて見えない鏡花に声をかけ続けた。咲夜も同調してくれる。だが、いつまでたっても返事がかえってくることは無かった。
「あの遊様、鏡花は死んじゃうのですか?」
麻里奈は健気にも俺に答えがわからない質問をしてきた。俺はそれに答えることが出来なかった。
ちょうどその時、鏡花の父さんから電話が入った。俺はことのあらましをすべて伝え、病院に来るように催促した。ちなみに鏡花の父親は大企業の社長で、スケジュールは分刻みである。だが、それでも必ず行くと言ってくれた。俺は礼を言い、加えてこう言った。
「俺達にできることは何でもやりますから。」
今思うと無責任だった。自分の言葉に責任を持っていなかった。
「遊人、今、お医者さんから聞いたんだけど、鏡花はもっても2日。仮に目が覚めたとしても重い後遺症が残る可能性が高いって…。」
巧斗が情報を提供してくれた。
俺はそれを聞き、分かったと言った。俺はさらに続けた。
「大丈夫。鏡花ならきっと大丈夫だ。」
なんの保証も確信もない。だが、俺はそう言うことで自分にも言い聞かせていたのかもしれない。とにかく、現実とは思えなかった。
「私、やってみる。」
咲夜がいきなり言った。俺が何をだよ、と聞き返すと、咲夜は
「私が鏡ちゃんの体に入って、鏡花の意識を取り戻すの。良いでしょ?」
「危険すぎる。ダメだ。」
「私はもう死んでるからさ。鏡ちゃんにはもっと生きていてほしいし。」
「でも…。」
「大丈夫。時間かかるけど、大丈夫だから。」
そう言って咲夜はどこかに消えてしまった。

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