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クッキング・ゴースト
幽霊と俺の共同生活三十三日目


トントントン…。
朝5時、咲夜は台所にいた。まだ暗い家の中に何かを切る音が響く。恐らく野菜類だろう。
「ふ〜。結構大変だな〜。」
咲夜は一言話すと野菜を切るのをやめ、鍋のふたを開けてその中の汁をお玉ですくい、味見をした。
「うん!オッケー!」
どうやらうまくできたようで、咲夜の表情はにこやかだった。
さらに咲夜は冷蔵庫から豚ばら肉を取り出し、フライパンで焼きはじめた。
「生姜少し足りないかな?まあ、大丈夫でしょ。」
どうやら生姜焼きを作っているようだ。弁当のおかずにでもするのだろうか。辺りには生姜の香りが立ち上っていた。

朝7時。俺が目を覚ますと、何だかいい臭いがしていた。
「まさか、母さん?帰ってきたのかな。」
俺の母さんは大企業の社長の秘書で、世界中のありとあらゆるところを飛び回っている。
だから、家に帰ってくることは年に5日。お盆と年末年始は帰ってくる。それ以外は家に居ることはほぼ無い。
ちなみに父さんは技術者で、今は種子島の宇宙センターに勤務している。
ちょっと前まではアメリカのフロリダにある、ケネディ宇宙センターに勤務していたが、種子島で技術者が欲しいということで日本に帰ってきた。
そんなわけで、俺の家には父さんも母さんも不在である。だから、いつも自分でご飯を作って食べるようにしている、わけではない。大体はコンビニやスーパーで買った安めのお弁当ですませている。
自慢じゃないが、俺の母さんは料理が上手い。その辺の小さな店よりもはるかに上手い。
そんな母さんが帰ってきたとなれば、当然、俺の弁当を作ってくれているのだろう。俺は期待に胸を膨らませてダイニングに向かった。


「あ、遊人。おはよう。」
そこにはご飯を盛る咲夜がいた。テーブルの上には目玉焼きとウインナー、そしてレタスとミニトマトが乗った皿がおいてあった。
「咲夜…。お前、料理できたのか…。」
「失礼ね。私だって料理くらいするわよ。」
「いや、そういうことじゃなくて、幽霊でも料理とか出来るんだな、って。」
「だって、物に触れれば幽霊でもなんでも出来るのよ。」
「そうか…。そうだよな。」
「分かった?じゃあ、早く食べて食べて。遅刻しちゃうよ。」
「あ、ああ。」
俺は言われるがままに目玉焼きをほおばった。
「うまっ!塩加減が絶妙だ。」
咲夜はそれを聞くと嬉しそうに微笑み、包みを渡してきた。
「これ、お弁当。」
俺はその包みを受け取って、咲夜にお礼を言った。


咲夜が作ってくれた朝ごはんを全部食べ終え、俺は咲夜が作ってくれた弁当を鞄に入れて、玄関に向かった。
玄関で、咲夜は「今日は家に居る」と言い、俺に向かって笑顔でこう言った。

「いってらっしゃい、遊人。」

それはまるで夫婦の会話のようで俺は何だか恥ずかしくなった。


俺が玄関のドアを閉めると、咲夜は真顔に戻り、呟いた。
「もう、時間が無いな…。」

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