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この青く晴れた空の下で
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全国高等学総合体育大会、通称インターハイ。
その第一歩となる支部予選を一週間後に控えたテニス部では、最終調整を兼ねて、試合形式が行われようとしていた。これから始まる長く険しい道のり。そのオーダーをどうするかは、この試合形式で決まる。


「とりあえず7人総当たり戦だ。勝敗結果は俺に報告してくれ」
「「「「「「無理だろ(でしょ)」」」」」」


即座に上がった否定の声。1人2人ならまだしも全員から上げられた声に、響は不思議そうに眉を潜める。


「何か不満でもあるのか」
「大アリに決まってるっつーの」


むしろない方がおかしい、と言外に含んだテンプルの目は冷たい。
他の皆も力強く頷くものだがら思わず、なんてまとまりのある部活なんだろう!と感動してしまう。
もちろん、わざとらしい勘違いだが。


「総当たりってことは全部で42試合。…たった1日で消化しきれるか!」


今にもかみつきそうな勢いのテンプルを前にして、響はふむと顎に手を添えて考える。
確かに今日1日で42試合も消化するのは不可能。しかしこのトーナメントは今日1日で終わらせたい。となれば、ここは妥協案でいくか。


「それじゃ2つに分ける。1コートには氷雨、桐生、瀬野。2コートには遼、ロッタ、志賀、東城。人数のバランスは悪いけど、これならできるだろ?」
「ああ、それならいい。それじゃ2コートはまず俺と志賀の試合な。遼、審判してくれ」
「了解」


メンバーがそれぞれのコートに歩いて行く中、ただ1人、そこに足をとどめたままの者がいた。東城だ。
東城は睨むような目で響を見る。先輩に対してそれはどうかと思うが、響も東城が何を言いたいのか解っているので、非難するのでも逸らすでもなく受け止めた。


「東城、何か言いたい事でもあるのか」
「俺と冬海部長を別々にしたのってわざとっスか?」
「よっぽど氷雨と試合したいようだな」


ニヤリと笑った響に、東城は当然だと口を尖らせる。
入部時のミニゲーム以来、東城は倒すべき相手を冬海に定めていた。圧倒的な実力差で負けたのが相当ショックだったらしいが、これは冬海や響にとっては喜ばしい。
負けた時の悔しさは、勝った時の嬉しさより何倍も心に響く。きっと東城は、悔しさをバネにしてもっともっと強くなるに違いない。

東城の気持ちはともかく、自分達の狙い通りに事が運んでいることに心の中でほくそ笑んだ響は、東城の背中を押した。


「氷雨へのリベンジはまた今度にしろ。今日は遼とロッタ、志賀に勝ってこい」


背中を押された東城は、まだ何か言いたそうに唇を尖らせていたが、2コートから志摩が早く来いと叫んでいる声にも逆らえない。
不貞腐れつつも、2コートに歩いて行く東城の背中を、腕を組んで満足そうに見送っていると、東城がいなくなったのを見計らって、今度は冬海が響に近づいてくる。


「お疲れ様です。マネージャーさん」
「おう。東城の奴、お前に負けたのが相当悔しいみたいだぜ」
「でしょうね。今、僕がもてるありったけの力をもって試合をしましたから」


言葉とは裏腹に、笑顔全開で言う冬海。いっそ清々しいまでのその笑顔に「鬼」と呟いた。聞こえるように言ったつもりだが、何の反応もないところを見ると、彼の耳には届かなかったらしい。
なんとも嘘くさいが。


「そういや、具合はどうだ?行ったんだろ?」


冬海の右腕に目をやりながら尋ねると、冬海も自分の右腕に視線を落とす。
見た目からは何も解らないが、実は2年前、冬海は事故で腕を痛めたのだ。怪我をした時は、再びラケットを握れるのか心配したが、治療の甲斐あってこの2年間でかなり回復した筈。果たして試合に影響はあるのだろうか。


「今のところ、短時間のプレイなら問題ないんですが、連続してのプレイと長時間のプレイは避けるようにと言われました。でも夏には完治予定です」
「つー事は、お前の出番はS1で固定だな」
「えー…」
「文句言うな。つーか、1回は試合できるんだからまだマシだろ」


睨みを利かせて言えば、冬海は慌ててホールドアップ。降参を示せば、響もそれ以上言わなくて、視線を冬海から1コートで行われている桐生と瀬野の試合に移した。


「桐生君、強くなりましたね」


感心するような冬海の物言いに、響も小さく頷いて同意する。
桐生は入学当初、剣道部に所属していた。姿勢の良さと物事をまっすぐに見据える彼の視線をみれば、納得する人も多いだろう。

そんな彼が剣道部を辞めたのは、1年の秋。
練習の厳しさに嫌気がさして退部というのはよくある話だったが、桐生の場合は違う。小学校の時に剣道を始めて、中学では部長を務めあげ、高校にあがれば即レギュラー入り、都大会優勝の実力者にも関わらず辞めたのだ。

剣道一筋だったのにどうして?考え直したら?と思う人は多かったが、1度決めた彼の意思は変わらない。
そして、竹刀の代わりにテニスラケットを握るようになって1年半、努力の甲斐あって桐生は、見違えるほど強くなった。


「桐生は元々動体視力もいいし、パワーもあるからな。何より剣道で鍛えた瞬発力、あれが大きい」


そう言って響はフェンスにもたれかかる。
瀬野は桐生の足元を狙っているが、ボールがそこに到達するより早く、桐生が間合いを取り直すので中々狙い通りにはいかない。これが響の言う瞬発力だ。



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あきゅろす。
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