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この青く晴れた空の下で
6



「(そろそろ腕にくるんじゃねーか?)」


苦手なコースに加えてドライブ回転の強いボールを打って、大道寺は冬海の様子を伺う。ボールの回転が増す程、ラケットにうける衝撃は大きく、腕への負担も大きくなる。完治していない腕でどこまでもつか。それとも試合が終わる方が先か。

試合は大詰め。大道寺はマッチポイントを迎えていた。
狙うは冬海が最も苦手とするコース!


「そう簡単には負けませんよ」
「!?」


打ち返された!?そんなバカな!!

冬海の宣言どおり、大道寺のフィニッシュボールは打ち返されて、彼の足の間を抜けていった。フェンスにぶつかったボールは、てんてんと弾んでここにいると主張する。


「(どうして冬海は打ち返せた!?あれはアイツにとって1番苦手なコース、おまけに強いドライブ回転がかかっているんだぞ!?)」


信じられない面持ちで冬海を見る大道寺だが、彼はただニコリとほほ笑むだけ。たまたまなのか?
解らない。

混乱する中、大道寺はサーブの構えをとる。
狙った場所はもちろん冬海の苦手な低めのバック――


「また!?」


打ち返された!

しかし今度は大道寺も打ち返す。また冬海の苦手なコースを狙うのだが、またも冬海は打ち返す。さっきまではその場所を狙えばおもしろいようにポイントが入ったのに、どういうことだ。

大道寺が混乱している様子は、応援している東城達にも見て取れて、東城もまた急に動きが変った冬海に混乱している。
自分と試合をした時の動きと違う、と――

全てを解っている響は、愉快そうに喉の奥でクックと笑う。


「大道寺は氷雨の弱点や苦手なコースを知り尽くしているつもりだろうが、そいつは間違い。アイツがばらまいた餌だ」
「餌って、まさか部長!」


ハッと気付いた東城に、響は「そのとおり」だと肯定をして、コートを指差し見るよう促す。


「よぉく見とけ。コイツが氷雨のやり方だ」


見れば冬海と大道寺のラリーが続いている。コートの全面を使っていたさっきから徐々に範囲が狭まり、今はお互い一歩も動かずにラリーをしている。単調なリズムだが、一寸分の狂いもないラリーに瑞穂から歓声があがる。


「部長、すっげー!」
「一歩も動かないで打ち返すなんてマジ、凄いっス!!」
「いつまでも同じところに返してないで、とっとと決めろー!」
「決勝戦進出だ!!」


大道寺の勝利を確信して盛り上がっている瑞穂だが、当の本人は「バカ野郎!」と内心叫んでいた。

一歩も動かずに打ち返すのが凄いと言っているが、よく見てみろ、冬海も同じ様に打ち返している。

それに、同じところに返すなと言っているが、自分だって他の場所に打ちたい。だけどそこにしか打ち返せないのだ。


「(くそっ!他の場所に打ち返したらポイントをとられる!ポイントを取られない為には、そこに打ち返すしかねーんだよ!)」


気付けばゲームカウントは5−5.

一度でも確信してしまった勝利を逃してしまい、焦りと困惑が募る大道寺。対して冬海は涼しい顔。


「(冬海の奴、最初からこれを狙ってたんだな!)」


冬海が5ゲームも落としたのは、大道寺に間違った弱点と苦手なコースを覚えさせる為。そこを狙ってマッチポイントまで楽にきたが、最後の最後で打ち返されて、ショックを受けない選手はいない。
再び弱点をついても、そこは弱点ではないのだから冬海は難なく打ち返してラリーへ。ラリーを続ける間に、支配権を徐々に自分のものにし、大道寺が別の場所を打てないようにした。もし打ってしまったら、即、大道寺の失点になるようにして。


「ロブをあげてもスマッシュで打ち返される。バック側を狙ってもあのボールの回転じゃ、後ろにアウトするだろうし。ああ、前に落としたらもちろんサイドに逃げるボールを打たれて終わり。だから結局、大道寺さんは部長のフォアに打つしかないって事っスか」
「そういうことだ、東城。氷雨のテニスは精神的にくるからやりたくねーよな」


自分達の仲間でよかったと笑う響の影で、東城が「本当にいい性格をしている」と呟いたのだが、響は敢えて聞こえないフリをした。


『ゲームセット ウォンバイ 蒼夏 7−5』




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