[携帯モード] [URL送信]

この青く晴れた空の下で
5




「で、あれだけ東城君が頑張ってくれたのに、なんで健太が負けてるの」


そう言って宇井は話を振るが、桐生は真一文字に口を結んでだんまりを決め込んでいる。当の本人だ。何も言いたくないだろう。
S2の桐生対坂口の試合は、宇井が言ったように坂口に軍杯があがった。これがD2のように、暑さ云々が関係していたら彼女もここまできつく言うことはなかっただろうが、桐生には暑さなんて関係なく、坂口の方が強かっただけというの至極単純な話。

桐生と坂口のテニス歴を比較すれば、結果なんて目に見えていたのだが、そんなことで宇井が許す筈もなく、更に桐生に詰め寄る。


「健太が勝てば、蒼夏の勝ちが決まったのに3−6で負けるってどういうことよ。いくら相手が強いからって、空気読まないにも程がある」
「煩い、負けたものは仕方ない」
「開き直りか」


間髪いれずのツッコミ。そのタイミングは本職のお笑い芸人も脱帽するほど見事なものだが、肝心の桐生はノーリアクションのため、宇井は更にきつく睨みつける。

この野郎、都合が悪いと黙りやがって。それでも元武士か。サムライスピリットも捨ててしまったのか。

目は口ほどに物を言う。この場合は口以上にか。
宇井に詰め寄られて、たじたじになっている桐生を見かねた響は、仕方ないと助け舟を出した。


「橙南。もういいだろ。次の氷雨が勝てばいいだけなんだから」


少しでも明るくいけばと、軽い口調で言ったのだが、生憎逆効果になってしまったようで、宇井の眉は更に吊り上がる。


「銀竹、忘れた?氷雨の腕はまだもう少し時間がかかる。私は、都大会に氷雨は出したくないって言った筈よ」


今にも胸ぐらを掴みそうな彼女に、響は両手を上げて降参のポーズを見せる。こうみえて自分は平和主義者だ。


「忘れるわけねーだろ。だけどな。ほら」


見てみろ、とコートを顎で示された宇井は、眉間に皺を寄せたままコートに目をやり、頭を抑えた。
響が示したのは、やる気満々の冬海。

宇井としては、痛めた腕が完全に治るまで試合にでてほしくない。だからわざと冬海の試合はいつもS1にもってきて、S2までで試合の決着がつくように調整してきた。
その配慮を無視するなんて、冬海は一体何を考えているんだか。
部長の困った行動に、宇井はショックのあまり言葉もでない。しかし、冬海の気持ちもよく解る響としては、同意も反対もできない微妙な立場だ。


「今まで大人しくしていたけど、氷雨だって本心では試合がやりたくて仕方ねーんだよ。第一、腕だって経過観測ってやつで、実際には治ったも同然なんだから心配いらねーって」


むしろ心配なんて、するだけ無駄。ケラケラと笑って冬海の試合に目を向ける響だが、笑顔とは反対に彼の頭の中は、試合前に上越と話していた事が繰り返されていた。



『アンタ達“は”強いよ。だけど2年生コンビとルーキーはどうだ?』
『響、今日は暑いね』



あの時は気付けなかったが、上越はこの暑さが最大の敵になるのを解っていたのだ。経験値を積むことばかりを考えて、比較的スタミナのない瀬野と志賀それと東城を連続で試合に出していた自分達のオーダーミスも。


「(今後の課題になりそうだな)」


はぁ、と1人ついた溜息は誰にも気づかれる事なく、暑い日差しの中に溶けていった。


back

5/5ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!