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この青く晴れた空の下で
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それは彼等にとってとても重要な事だが、彼等以外の人からは注目どころか興味の対象にすら値しないようなもの。

テニス部が支部予選を優勝で突破した翌日、図書館の一角に、4人の生徒が声を潜めて話し合っていた。人気のない…というより彼らしか利用者がいない今、声を潜める必要はあるのかと疑問なのだが、まぁそこは図書館のルールを尊重するということで。


「テニス部の連中、やりおったなぁ」


訛りの強い口調で話す彼、篠ノ女飛鳥がクスクスと笑う。
その笑みは、テニス部が優勝したことに対する喜びより、これからの彼等の行動が楽しみだという期待の意味合いか。
笑う篠ノ女を横目に捕らえて、麻生圭介は背もたれに預けていた体を起こし、思う。

確かに、あのテニス部は、いつもどおりだった日常にちょっとした刺激をくれるので、今後の動きにも興味がある。
ただしそれは、自分もテニス部と一緒にいたいという意味ではなく、あくまで自分は傍観者という立場での話。桐生と2年生の2人は別にして、あの能天気なテニス部と一緒にいるのは、ごめんだと呟いた。


「でもよかったわね」


耳に心地よい澄んだ声。
彼女は泉朔耶。
本人は目立つのが苦手な為、あまり表にはでてこないが蒼夏で一、二を争う美女。
そんな控えめなところがいいんだよ!とテニス部の志摩が後押しする声が聞こえてきそうだ。


「テニス部の皆、やっと試合にでれるようになったから勝ってよかったわ」
「ん?テニス部って前からあるんやなかと?」


泉の話を聞くと、まるでテニス部が最近できたかのよう。篠ノ女が尋ねると、黒髪の生徒、椿一雪が「ああ」と答えた。


「篠ノ女は転校生だから知らないな。俺達が入学した時、テニス部は廃部したばかりだったんだ」
「廃部?なんで」
「テニス部が他校とトラブルを起こしてな」


椿はそう説明するも、彼の意識は篠ノ女ではなく麻生に向けられている。麻生もそれに気付いているようで、自分の意識下から椿の排除に努めていた。
椿と麻生の、明らかになにかある雰囲気に、篠ノ女は気づいたが「ふぅん」と間延びした返事をするだけで、それ以上、深く追求しない。他人に触れられたくない話は、誰にだってあるものだと。


「ちゅー事は、今のテニス部はロッタ達が旗揚げしたんかー」


頭の後ろで手を組んで天井を仰いでいると、麻生が頷いた。


「そうだ。冬海、響、志摩、テンプル、それに宇井の5人がテニス部の設立メンバーだ。とはいっても、部として認められたのは今年からのことだけどな。それまでは同好会と同じ扱いで、おまけに5人の在学中に部への昇格は無理だと言われていたんだ」


そう、誰からも無理だと言われていた。


麻生は心の中で繰り返し、2年前のことを思い浮かべる。

自分達の入部と入れ違いに廃部したテニス部。一時は、関東大会に出場する強豪校だったが、それ以降は都大会出場すら危うい弱小校となり、とどめが他校との喧嘩による廃部。そんな部活を復活させたところで何になる。
誰もが無意味だと笑うと、設立メンバーの5人は困ったように笑って言ったのだ。


――だってテニスが好きだから


テニスが好きだから部活をつくる。
テニスが好きだから試合に出たい。
テニスが好きだから全国制覇したい。

単純な理由、だけど強いその理由を聞いた時、麻生の胸が強く掴まれた。


「ねぇ、椿君。今度テニス部に入った1年生ってどんな人なの?宇井さんがとても嬉しそうにしていたんだけど」


泉に話をふられて、椿はポケットからメモ帳、通称椿ファイルを取り出した。
新聞部の椿は蒼夏のことをいろいろ知っている。今、泉が尋ねた新入生のことから2年生、3年生、教職員、果ては学校に出入りする業者の人まで…といっても、その大半は誰でも知っているどうでもいいことなのだが。

パラパラとページをめくってすぐ、その手が止まった。東城のページを見つけたようだ。


「東城未来。今年の中学生大会優勝者だそうだ」
「…椿君、それだけ?」
「ああ、それだけだ。新入生の情報はまだ3クラス分しか終わっていない」


あっさり言う椿に、聞いていた泉は力が抜けた。

わざわざ椿ファイルを取り出したから期待したのに、たったそれだけなんて。それだけなら別に椿ファイル出す必要はなかったんじゃないの?



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あきゅろす。
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