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この青く晴れた空の下で
3



「次はS3、立花の試合だね。立花も強いよ」


付け加えるような一言に、志賀がピクリと反応した。
同じ2年生だからか、志賀と瀬野は互いに強いライバル意識をもっている。何かにつけて貼り合う2人を3年生達は、これって青春だよなーと見守っているのは本人達には秘密の話。

「立花は七雲中学出身で、部長をしていたんだよ。ちなみに七雲中学は都内で5本の指に入るテニスの強豪校」
「へぇ。…七雲って高校もありますよね?」


そう言って、志賀は辺りを見渡す。
確か七雲高校のユニフォームは、白をベースにして黄緑色と薄い灰色のラインが入っていた筈。ユニフォームを手掛かりに探していると、志賀より早く宇井が見つけてあそこにいるとフォーミングアップ中の彼等を指差した。


「あれが七雲高校。七雲高校も強いよ。特に部長が」


最後の言葉は志賀ではなく桐生に向けられたようで、桐生は苦虫をかみつぶしたような顔をする。
志賀には桐生がそんな顔をするのが意外だったが、宇井にとっては予想通りの反応でおもしろい。桐生が睨むのもお構いなしにケラケラと笑う。


「健太は、七雲の部長にこてんぱんにやられてるからねー」
「黙れ」


突き刺すような一言に、「おお、怖い怖い」とおどけてコートに目を向けた。

S3、瀬野対沖田。
トスの結果、サーブは沖田からとなり瀬野はレシーブ位置につく。
沖田は、ボールをバウンドさせて狙いを定めているのだが、瀬野の注意は沖田ではなくもっと奥にあった。応援女子。
さっきのD1で、福山・木村ペアが完敗させられたのをかなり根に持っているようで、視線が痛い。ブスブス突き刺さる視線に、向ける相手が違うだろ!とつっこみたくなるのをぐっと堪えて、試合に集中――


「沖田くーん!がんばってー!あんな人に負けないでー!」


他の声援とは比べ物にならない程、甘くて高い声に、瀬野の何かが切れた。バチンと音を立てて、我慢のダムが崩れ落ちる。


「……」
「……」
「泉さん呼べばよかったかな…」


目を大きく開けて、泣くのを一歩手前の瀬野に、宇井がぽつりと呟けば、桐生もその方がよかったかもしれないと静かに頷く。
いくら梅ヶ丘の女子が多くても、泉がいれば。あの笑顔で応援されれば、例えラスト1ポイントからでも挽回する体力、気力がわいてくる。逆転勝ちだってできそうだ。

俺だって!俺だって!

心の中で泣き叫ぶ瀬野は、先程の2人と同じく、女子に応援される梅ヶ丘が羨ましかったのだ。
羨ましいやら悔しいやら、いろんな感情がごちゃ混ぜになって一般的に言う妬みを動力源に、瀬野は今までで一番迫力のあるプレイを見せた。

瀬野が得意とするのはネットプレー。
シングルスでのネットプレーは不利だと思うかもしれないが、瀬野の場合はそうじゃない。ポーチにでることで、バックライン時より短い移動でボールを打ち返す。

だったらロブをあげて、瀬野の頭上をこすまで!

沖田はバックラインぎりぎりを狙ってロブをあげるが、瀬野の人並外れたジャンプ力により、ロブボールは恰好のスマッシュボールに変る。後ろに大きく跳んで打ったジャンピングスマッシュが炸裂。
今度は、瀬野が届かないくらい高いロブをあげようと思っても、今度は滞空時間が長いため、追いつかれてワンバウンドで打ち返される。
意表をついて前に落としたら、ローボレーで自分の足元に返された。
元から、ボレーには絶対の自信がある瀬野だが今日は1番と動きがいい。その話の裏には、相手チームに対する妬みがあったりするが、試合なんだしとりあえず勝てばそれでいいだろう。

結果、6−2で勝ったが、ベンチに戻ってくる哀愁漂う悲しい姿に、宇井はかける言葉が思い浮かばない。代わりに、試合に勝って勝負に負けたという言葉が浮かんだが、さすがにその言葉をかけるわけにはいかないので、そっとドリンクだけを差し出した。

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あきゅろす。
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