この四角い世界の上で
弁当箱を選ぼう!
春の頃の季節は新生活の時期らしく、どの店も新生活をサポートするグッズや本が所狭しと並べられて、客はこれからの新生活を少しでも快適にすべく商品を見て回っている。
弁当コーナーにやってきた宇井は、やっぱりこの時期は新商品が充実しているな、と1人呟いて、両手に連れている双子に「どれにする?」と尋ねた。
この春から誠と橙南が通う幼稚園は弁当制で、今日はその為の弁当箱を買いに来たのだ。
学生、家事、子育て、バイトの四拍子で忙しい宇井には、給食制の方が楽だろうが、2人分の給食費だってばかにならないし、第一この辺りの幼稚園は全て弁当制なので仕様がない事。
そのうえ高校生の自分も当然給食制ではないのだから、これからは自分の分と一緒に作ればいいだけかと考えなおしていると、手を引っ張られた。
「ぼく、レンジャーマンのおべんとうばこがいい」
誠が選んだのは、子供に人気のスーパー戦隊シリーズ弁当箱。
男の子なら誰もが欲しがるもので、自分にもこんな時があったなと昔を思い出して一言。
「却下」
「なんで!」
即答かつ、ばっさり切り捨てる宇井に誠は抗議するが、それも却下。理由は単純。絶対、来年は使わないから。
スーパー戦隊シリーズといえば、1年おきに新シリーズがはじまる。いくら今のシリーズが好きでも、新しいシリーズが始まればそれまでのはころっと忘れるもので、新しいのを欲しがるのは目に見えている。
たった1年しか使わない弁当箱じゃ勿体ない。だから却下。
まだ納得いかない誠だが、これ以上言っても宇井が買ってくれるのはまずないと解っているので、大人しく元あった場所に戻しに行く。
誠とすれ違うように橙南もやってきて、宇井に「これがいい!」と差し出した。
橙南が持ってきたのは、三角形のおにぎり専用の弁当箱。
おにぎり専用と言っても、宇井の両手ほどの大きさで、多少のおかずも入るらしい。最近はいろんな弁当箱があるんだなと感心したところで。
「却下」
「なんで!」
誠と全く同じ言葉で抗議する橙南に「見てたのか!?」と言いたくなるのをぐっと堪えて、弁当箱を指差した。
「毎日おにぎりでいいのか?」
「……」
おにぎり専用の弁当箱ということは、逆をいえばおにぎり以外には使えないと言うこと。意味を理解した橙南は、まわれ右をして弁当箱を戻しに行った。
自分で選ばせるのは初めてではないが、なんだか不安を感じた宇井は、頭をガシガシとかくと一応、こっちでも選んでおくかと弁当箱を見始める。
誠と橙南はまだ子供だから、自分の使っている弁当箱の半分ほどのでいいだろう。つーか、このさいタッパーでもいいんじゃないか?
手ごろな大きさだし、蓋になにか絵がかいてあれば、弁当箱っぽいし。安いし。
これなんてどうだろう。
ちょうど目の前にあったタッパーを手に取り、眺めていると。
「「それはやだ」」
ハモった声で拒否された。
いつの間にか誠と橙南がそこにいて、白けきった目で宇井が持っているタッパーを見ている。流石に弁当箱とタッパーの違いはつくようだ。
チッ、と舌うちをした宇井は、タッパーを戻して双子が持ってきた弁当箱を受け取った。しかし今度も却下の対象。
誠が持ってきたのは、2人で使うならともかく誠1人にはまだ大きすぎるし、橙南のもってきた弁当箱は、両脇のロックがしっかりしすぎて子供には固すぎる。
どうしてこう却下されるものばかり持ってくるかな、と宇井は呆れに似た溜息をついた。
「お前等、もうちょっとマシなの選べよ」
「タッパーえらんでいるひとに、いわれたくない」
「それに、あたしたちは、いつだってほんきだよ」
「嘘つけ」
持ってきた弁当箱で橙南の頭を小突いてやると、パコンと間抜けな音がした。
たいして痛いわけでもないのに、頭を抑える橙南を笑っていると、双子の後ろにちょうどいい弁当箱を見つけた。
誠を退かして弁当箱をとる。
子供に人気のキャラクターが描かれているし、大きさは小ぶりなので問題ない。蓋ははめるタイプで単純なので、子供でも簡単にできる。カラーバリエーションも豊富だから、誠と橙南がそれぞれの好きな色を選べるほどある。
最大の問題は、誠と橙南が気に入ってくれるかだが。
「おい、これならどうだ?」
誠と橙南に聞くと、双子は宇井の差し出した弁当箱を見て、たちまち笑顔になる。
これで決まりだと宇井が確信した直後、双子は声を揃えて「「これがいい!」」と叫んだ。
よし、決まり!
何種類もある中から選んだ結果、誠は青い弁当箱を。橙南は赤い弁当箱を嬉しそうに持って、レジに走っていく。
その喜びように、他の人の迷惑になるから走るな!と注意する宇井の手には『幼稚園のお弁当』とかかれた新生活に向けての本が握られていた。
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