[携帯モード] [URL送信]

この四角い世界の上で
仲直りの方法


珍しいこともあるものだ、と目の前の双子を見て、宇井は思う。

何がそんなに楽しいのかいつもへらへらと笑っている(特に橙南)双子が、眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしているだけでも珍しいのだが、今はお互いの顔を極力視界から排除しようと別々の方向を向いて朝ご飯を食べている。
これは非常に珍しく、自分が朝食の準備をしている間に何かあったのか?
味噌汁をすするふりをして、お椀の影から双子を見ていると、テーブルの真ん中に置かれた卵焼きに箸を伸ばしていたが、相手も同じタイミングで同じ卵焼きに伸ばしていた為、すぐにひっこめていた。
箸を伸ばすのも同じタイミングなら、ひっこめるのも同じタイミング。それに終わらず、ふん、とそっぽ向くタイミングまで同じなのだから、本当に喧嘩をしているのか疑わしくなる息の合い様だ。


「(仲がいいのか悪いのか)」


まぁ、そのうち喧嘩も収まるだろ、ずずっと味噌汁をすすりながら宇井は結論付けた。



今日は祝日で学校が休みの上に、バイトも休みの宇井はリビングで教科書とノートを広げていた。子育てとバイトに追われているが、高校生の本業は学業だ。
来週に控えた期末試験に向けて、問題にとりかかる。

黙々とテスト勉強をしているリビングはとても静かで…静か?

このリビングには宇井だけではなく、双子もいる。元気いっぱいではしゃぎ盛りの双子がいるのに、どうしてこんなに静かなんだ?
顔は俯けたまま横目で双子のいる方を見れば、双子は背中合わせになってそれぞれで遊んでいた。
喧嘩した今日は一緒に遊びたくないらしく、誠はおもちゃのくるまを動かして、橙南はブロックを積み上げてタワーを作るのに夢中になっている、様に見えた。


「(意地っ張り)」


問題を解く手を止めた宇井は、シャーペンを置いて頬杖をつき、いよいよ双子を観察する体制にはいった。
普段から1人遊びをしているならまだしも、いつも2人で一緒に遊んでいるので、別々に遊ぶのはつまらないようだ。くるまを走らせる手もつまらなそうに動くだけで、ブロックを積み上げるのもただ上に置いていくだけで何の貼り合いもない。
時々、相手の方を振り返ろうとするのだが、意地が邪魔をするのかちょっと首を動かしただけで終わってしまう。ここで同じタイミングで動いてくれれば、何かしら進展するのに、こういう時に限ってバラバラのタイミングで体が動くのだ。
傍から見れば一緒に遊びたいのは丸分かり、仲直りしたいのも丸分かり。ただちょっと意地っぱりなだけで。最初の一歩が踏み出せないだけ。

うっわ、何コイツ等すっげー面倒。

徐々に笑いが込み上げてきて、クックと喉の奥で笑った宇井は立ち上がると、誠と橙南の間に座った。
急に宇井が間にきて驚きつつ、宇井を振りかえった双子のタイミングは同じ。宇井は口角をちょっとだけ吊り上げて、右腕を誠に、左腕を橙南に伸ばすと、ぎゅっと抱きかかえて仰向けに。
双子も道連れにされて、宇井の胸を枕にして仰向けになった。当然、双子は暴れたが腕力で敵う筈がない。無理矢理おさえこむ。


「いきなりなにするんだよ」
「休憩だ休憩。ちょっと寝るからお前等抱きまくらになれ」
「じぶんかってー」
「何とでも言え。俺は寝る」


そう宣言した宇井は、目を瞑って本当に眠り始めた。

規則正しく上下する宇井の胸に耳を当て、双子はお互いの顔を見る。別の方向を見たくても、宇井にがっちりと抱かれている為、全く動けない。
暫くは目線を反らして相手を見ないように努力していたが、気がつけば相手を見てしまう。

言ってしまおうか。

頭の上へ視線をあげれば、一定間隔で聞こえてくる宇井の寝息。嘘ではなく、本当に寝ているのを確認した双子は、おずおずと相手に手を伸ばして仲直りの握手をした。


ごめんね、と同時に謝る声を聞いて、宇井の口角は双子に気付かれる事なくつり上がった。




あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!