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この四角い世界の上で
1


今日は何の日
普通の日?
特別な日だよ
誠と橙南の誕生日
おめでとう


 パーン
 パーン

クラッカーの音が響いて、色とりどりのテープが飛び交う室内。この年の子供は、大きな音を聞くと驚くか怖がると聞くが、目の前にいる双子は手を叩いて喜んでいる。
ツインズらしい、とクラッカーを握る高木は思った。


「すっげー!みみにビリビリきた!」
「みてー。ピンクのかみのけー」
「そうだな。解ったから捨てるぞ」


折角、宇井に自慢したのに、素っ気なく返された上にピンクのテープは橙南の頭から取り除かれて宣言通りゴミ箱へ。不機嫌そうに頬を膨らませても、異論は認めない。宇井からすれば、火薬の匂いがついたものを頭に乗せるなってんだ。


「全く、満は容赦ないなぁ。無邪気な子供になんて事をするんだ」


ケラケラと笑う高木は、そう言って袋を取り出した。青と赤の袋はもちろん今日の主役、誠と橙南への誕生日プレゼントだ。


「ツインズに誕生日プレゼント。どっちか好きな方を選びな」


さあどうぞ、と袋を並べられて双子は顔を見合わせた。


「すきなほうっていったって、どうせなかはいっしょだろ?」
「どっちえらんでもおなじじゃん」
「おや?そんな事言うなんて、俺からの誕生日プレゼントはいらない――」
「「トモ兄、ありがとー!!」」


プレゼントがいらないなんて誰も言っていない。最後まで言い切る前に、双子はそれぞれのプレゼントを受け取って抱きしめた。そりゃあもう、取り上げられないようにがっちり抱きしめていて、現金な行動は高木の笑いを誘った。

素直に袋を留めているセロハンテープをはがせばいいのに、何故かバリバリと豪快に破いて取りだしたので、宇井はゴミ箱を用意してやったが、目の前のプレゼントに夢中になっている双子にそんなものが見えているもんか。たちまち散らばる包装紙の残骸に、お前等わざとやってるんじゃねぇだろうな?と言いたくなる。
ちゃんと後片付けしろよという目で眺めていると、双子から歓喜の声が上がった。


「ぼうしだ!」
「かっこいー!」


誕生日プレゼントは帽子。紺地にロゴが入っているそれは、双子の予想通りお揃いでこれからの季節に役に立つに違いない。
赤の袋を開けた橙南はやっぱり女の子で、帽子を被るとまず鏡を見に走っていった。それに対して青の袋を開けた誠は、いろいろな角度から帽子を眺めていた。


「気に入ったか?」
「うん!ありがと、トモ兄」


笑顔全快でお礼を言われれば、選んだかいがあったというものだ。
誠の笑顔につられて笑う高木が誠の頭をぐしゃりと撫でてやると、戻ってきた橙南が「誠だけずるい!」と叫んで高木に駆け寄ってくる。わざわざ帽子を脱いで待つもんだから吹き出しながらも、誠と同じように撫でてやった。
橙南が満足そうに笑ったところで高木の手が離れていくと、双子は今度は揃って宇井を見つめる。
その目は誕生日プレゼントの期待に満ちていて、目は口ほどに物を言うとは正にこのことだ。


「満、ツインズがお前からの誕生日プレゼントをほしがってるぞー」
「解ってるよ」


宇井だってちゃんと双子のプレゼントを用意している。取り出したのはオレンジ色の包み。ただし大きさが違う。
宇井はいつもそうだ。高木はお土産にしろプレゼントにしろ、双子には同じものか色違いを与えるが、宇井は必ず違うものを与える。双子だからって何もかもお揃いじゃなくていいだろうというのが宇井の主張らしい。


「ほらよ」


ワクワクしている双子は「ありがとー」と声を揃えて包みを開け始めた。今度も包装紙をビリビリ破って散らかしている双子に、溜息をもらして頬杖をつく。叱ろうかと思ったが、今日は誕生日だから特別だから勘弁してやる。それに、部屋が散らかるより、自分が選んだプレゼントを喜んでくれるかの方が気にならないと言えば嘘になる。
双子の欲しいものは大体把握しているつもりだが、先日、いざ買いに行くと土壇場になってこっちの方がいいかとかでも確か…いや、でも…と悩みに悩んだ経緯があるのは秘密の話。
だから双子がどんな反応をするだろうかとても気になっていて、いつもと同じクールな顔に見えても、心臓はドキドキなっているし手にはじんわり汗もかいてきた。


「わー!ミニカーだ!」
「えほんー!」


誠には赤いミニカーで、橙南には新しい絵本。どうやら気に入ってもらえたらしい。プレゼントにはしゃぐ双子にホッと胸をなでおろした宇井は、キッチンに向かった。


「よかったなー、誠。かっこいい車じゃないか」
「うん!」
「ねーねー、トモ兄。えほんよんで」
「慌てるな橙南。絵本は寝る前に読んでやるから、今は」


あっちを先にしよう。そう指でキッチンを示してやれば、ケーキをもってきた宇井に、双子はまたも歓声を上げた。

折角の誕生日なんだから誕生日ケーキを忘れちゃいけない。5本のロウソクを乗せたケーキの真ん中には、チョコレートでまことくんとうなちゃんおたんじょうびおめでとうの文字がかかれていて、双子を喜ばせた。


「誠、橙南。火つけるから消せよ」
「あ、満ちょっと待て。今部屋の電気切るから」


そう言って高木は、電気のスイッチを切りに立ちあがった。カチッと音がして照明が消えると、部屋の明かりはロウソクだけ。僅かな風で揺れ動く火は、不規則に揺れて双子の顔に陰影を作り出す。


「とーな、せーのでふこうな」
「うん。せーのっ!」


同時に息が吹かれた次の瞬間、ロウソクの火は消えて部屋は暗闇に包まれた。




HAPPY HAPPY BIRTHDAY
DEAR DEAR MY LOVER




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