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この四角い世界の上で
3


宇井と三鬼の対決で盛り上がりをみせる射的店だが、集まったギャラリーの熱気にやられた子供が1人。

誠だ。

大人達に押されて疲れ切った誠は、どうにかしてこの群衆から抜けだして楽になりたいという思いから小さい体をフル活用。大人達の中を必死にかき分けて外に出た。

ふう、と一息ついたのも束の間。なんだか頭がぼーっとするし、気持ち悪い。
もし宇井がいれば、人混みに酔ってしまったのだと解ったが、たかだか4才の誠に解る筈もなく。

人のいないところを探して、その場にしゃがみこむと、膝の上に頭を置いて、じっと気持ち悪さに耐えるだした。

初めは楽しかった祭りのにぎやかな音と雰囲気も、今の誠には雑音でしかない。
気持ち悪さが助長されて、もうちょっと静かになってくれないかなぁと無理なことを願っていると、自分に影がおりているのに気がついた。
自分がいないのに気付いて、阿部か寺脇のどちらかが迎えに来たのだろうか。

そう思って顔を上げたのだが予想は外れていた。

見下ろしているのは、誠の知らない男性。高木と同じ年の頃だろうか。
提灯の明かりを背中にしている為、誠からは彼の顔がよく見えず、目を細めてみたがやはり見えない。
男は屈んで、誠と目線を合わせた。


「君、お父さんかお母さんは?」


1人で蹲っている誠を見て、迷子と勘違いしたらしい。確かに今の状況はそう見える。むしろ、間違えるなと言う方が無理な話なのに、自分が迷子だと思っていなかった誠はとても傷ついた。

自分は宇井と橙南とはぐれたんじゃないし、2人がどこにいるかも知っている。だから迷子じゃないと言い聞かせたが、それもむなしく、男は誠の無言を肯定と捕らえていた。

人酔いしたせいで、誠の顔色が悪かったのも一因に違いない。納得したように2、3度頷いた後、誠をひょいと抱き上げた。


「お父さんかお母さんが探しているかもしれないから、お兄さんと一緒に本部に行こうか」


にっこりとほほ笑む彼には悪いが、誠は、ぼくはまいごじゃないと言いたかった。
ただ言う気力がなかっただけで、決して、もうなんでもいいやと丸投げになったわけじゃないと、誰に言うでもない理由を並べて、彼の胸に顔を埋めた。









自分の都合を丸っと無視されて、話を聞いた時にはすでに頭数に入れられていた実行委員会だが、高木はまんざらでもなかった。
元々祭り事は好きだし、自分が主となって参加するより裏でサポートする方なら自分向きだと知っているので、この役割はうってつけだと言えよう。
高木は、主にゴミ回収や、落し物の届け出、問い合わせ、時々来る迷子の対応するのだが、これが結構楽しい。


今頃、満とツインズも楽しんでいるのかな。


昨日、浴衣を着るんだと、はしゃいでいた双子が思い出される。あの喜びようからして、天井知らずの高いテンションの持ち主達は、いつも以上に宇井を振りまわすだろう。

満も御苦労だよなぁと苦笑しつつ、差し入れで貰った焼き鳥をぱくついた。これでビールがあれば最高なのに。

仕事中にビールなんてダメと解っていても、この祭りの雰囲気に流されない人が一体、何人いるだろう。
困ったなぁ、とあまり真剣ではない風に言っていると、向こうから来る人にまさかと目を疑う。


どうしてここに?アイツは5年も前に日本を出た筈だ。

見間違いじゃないか?
他人の空似ではないか?


瞬時にして浮かぶ考えも、全てが却下されてやはり彼だと認めざるを得ない。心臓の鼓動がやけに早く、大きく感じる。


「あ、トモ兄」


彼に抱かれていた誠は、高木を見つけて手を振ったが、高木には見えなかったどころか、誠がいると解ったのは彼に「よう」と声を掛けられてからだった。


「久しぶりだな、高木。元気にしていたか?」


自信に満ちた顔で、彼が笑う一方、高木は何年ぶりかになる友人との再会に言葉を失っていた。

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