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この四角い世界の上で
3


誠と橙南を先頭にして、宇井と三鬼、寺脇は双子を後ろからゆっくり追いかけるような形で歩いていた。宇井と会えば即、試合を申し込む三鬼も今だけは大人しく双子を眺めている。


「誠と橙南に会うのも久しぶりだな。最後に会ったのはいつだったか?」
「春休み前だろ。花見するんだ!ってお前等、俺達を巻きこんだくせに」


忘れたのかと言う宇井の視線に、三鬼も寺脇も「そうだったか?」と言葉を返す。ただし同じ言葉でも、三鬼は自分の記憶にないのか首を傾げて、寺脇は巻きこんだ事実をとぼけているという違いはあったが。

尚も向けられる視線に寺脇はもう降参とばかりに話題を変えた。


「だけどさー、いまだにツインズの親役が宇井なんて信じられないよな。だって普通にいい子に育っているし。宇井の悪い影響受けなくてよかったなー」
「へぇ、そう思っていたのか。よし寺脇、ちょっとそこの露地に入れ。ちょうどその先で下水道工事しているからな」


やだなぁ宇井、軽いジョークじゃないかと笑うものの、安心はできない。背筋が冷たく感じるのは、どうも雨のせいとは言えないようだ。

あれ?これってもしかして話題変更には成功したけど、これじゃあますます状況を悪くさせただけ?

それを肯定するように、宇井は口元をひきつらせてじりじりと近寄ってくる。徐々に縮まる2人の距離。寺脇の脳内は、レッドアラートが鳴り響いていて、警戒レベルを最大にすると、慌ててく双子の前にでた。


「ちょっと待った宇井!ここでおれをやったらツインズの教育上、よくないぞ!」
「だからそこの露地に入れって言ってんだろ。三鬼、誠と橙南の面倒をみててくれ。すぐに終わる」
「げっ!?お前、本気!?三鬼、ツインズ助けてくれ!!」
「「寺脇くん、がんばれー」」
「骨は拾っといてやる!」


だから安心しろ!と方向違いの手助けをしてくれる三鬼に涙して、寺脇は宇井から逃れるべく走り出した。
ツインズもツインズで、この状況を楽しんでいるところやっぱり宇井の影響を強く受けている。子供は父親の背中をみて大きくなるものだと、昔からの言葉を思い出した。


「(だけど、やっぱり宇井はツインズのいい父親だよ)」


だって、ツインズがここにいるのは宇井に傘を届けたかったから。

ろくに道も覚えていなくて、宇井が喜んでくれるという気持ちが先走った為に迷子になってしまったけど、それでも2人でこうして来たのは、宇井が大好きで大好きで仕方なかったから。

宇井もそれに気がついているから、間に合わせで買った傘ではなく、双子が持ってきてくれた傘をさしている。こっちも双子のことが大好きで仕方ないのだ。


「まて寺脇!」
「待てって言われて待つ奴がいるか!」


バシャバシャと水しぶきをあげての鬼ごっこ。そろそろ誠と橙南もまざりたがる頃かな、と思っているとやっぱり。ツインズは声を揃えて「おにごっこだー」とはしゃいでいる。


「おい誠!水たまりの中を走るな!橙南も!傘ささねーと風邪ひくぞ!」
「完全に父親だな」
「だな」


寺脇の存在はどこへやら。双子を追いかける宇井を見た三鬼の感想に、寺脇も頷いた。
雨に濡れるのも構わず双子は走り回って、そして宇井に追いかけてもらうのを楽しんでいる。

高校生が子育てするとあって、いろいろと心配や不安があったがうまくやってるようだ。

きゃーきゃー騒いで喜ぶ双子に、やっぱりいい父親だ。と三鬼と寺脇は笑った。




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