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この四角い世界の上で
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「くそっ!宇井の奴、今日も逃げおって!今度こそ決着をつけてやる!!」


うおーっ!と雄叫びを上げているのは、七雲高校3年生の三鬼。打倒宇井に意気込むのは結構だが、熱血ド根性一直線のそれは、ちょおおおっとばかり時代を間違えていないか?と友人代表の寺脇はこっそり思う。

さて、隣市の学校に通う2人がどうしてここにいるかと言うと、ご存じすっかり恒例となった道場破りもとい、宇井満との真剣勝負でだ。もっとも、その勝負は今日も宇井本人が行方をくらませた為、お流れとなったのだが、どんな状況でも逃げきる宇井に、時代がもう4、500年前なら優秀な忍者になっていたに違いないと寺脇は真剣に思っている。


「三鬼、もういい加減諦めたらどうだよ?」
「いいや!俺は諦めん!!宇井に勝つまでは俺の気がおさまらんのだ!!」


燃え盛る炎を背負う三鬼に、やっぱり生まれる世代を間違えているよと心の中で呟いていると、視界の隅に黄色い傘をさした子供達の姿が入ってきた。

あれ?あの子達って。

なんとなく見覚えのある子供達に、寺脇の視線はそちらへ向けられた。


「誠くーん。これってもしかして」
「いうなよ橙南。いうとむなしくなる」


離れていても解る程に落胆する子供達、もとい誠と橙南の双子。
やっぱりそうだと思っていると、三鬼も双子に気付たようで「おい」と呼ばれた。


「あれって宇井が育てている双子じゃないか?」
「みたいだな。おーいそこのツインズ」


折角見つけたのだから声くらいかけるべきだろう。寺脇が声をかけると、双子はパッと振り返った。


「あー!寺脇くんと三鬼くん!」


寺脇と三鬼を見つけて、暗く落ち込んでいた誠と橙南の顔は一気に明るくなった。子供の表情はくるくる変わるというのは、こういうのを言うんだろうな、と寺脇は屈んで駆け寄ってくる2人を迎えた。


「こんなところで何してるんだ?宇井はどうした?」


周りを見ても保護者はいない。三鬼に見つかったら勝負を挑まれるのを面倒がって隠れているのかと思ったがそれもない様子。
2人でおつかいかな?と思いつつ尋ねてみると、誠と橙南は「あー」「うー」と言葉を濁して顔を見合わせた。


「迷子か」


フォローもなにもない三鬼の一言に、双子の肩がぎくりと震えた。
確かに迷子以外の何物でもないんだけど、もうちょっと双子のプライドを尊重してやろうよ、と寺脇が苦笑していると。


「……何やってんだ。お前等」


聞き覚えのある声に、4人が一斉にそちらを見ると宇井がいた。傘をさしていて、どうやら途中のコンビニで買ったらしい。
三鬼と寺脇だけではなく、双子の姿を見つけた宇井は眉間に皺を寄せて、こちらにやってくる。


「誠、橙南。なんでこんなところにいるんだ?」


静かに言う宇井は怒っていない。ただ不思議に思っているだけでも眉間の皺が別の感情を表わしている。案の定、宇井の顔を見るなり、双子はきまりの悪そうな顔をしていた。


「かさ、もってなかったから」


誠がそう言うと、宇井は「ああ?」と怪訝そうな顔をしたが、おずおずと差し出された傘を見て納得したように溜息をついた。


「トモ兄に行って出てきたのか?」
「ううん。いうのわすれた」
「このバカ」


即答に加えて宇井の拳骨が落ちた。

口と同時に手が出るなんて、子供相手なのに容赦ない。それでもまあ、三鬼と寺脇は「宇井だし」と納得してしまうのだけど。
双子もそれが当たり前のようで、むしろその拳骨が落ちたから説教は終わりと宇井に甘えている。さっきまでの決まりの悪さはどこへいったんだというくらいの変りようだ。


「ったく。俺を迎えに来たって、お前等、俺の学校がどこにあるか知らねぇだろうが」
「そうだっけ?橙南、しってるんじゃないの?」
「しらないよ。誠がしってるんだとおもってた」
「……よくそんなので、迎えに行こうなんて思えるな。ほら、早く帰るぞ。トモ兄が心配する」


はーい、と元気よく手をあげる双子。その双子の面倒を見る宇井は、さながら保父さんか。保父さん、もとい宇井は、双子を自分の両脇に連れてそのまま帰路を辿ろうと――


「「させるわけないだろ」」


このまま何事もなく帰れると思ったのか?まさか。

打ち合わせでもしていたのかというくらい息ぴったりに、三鬼と寺脇は宇井の肩を掴んで引き留めた。双子がいては流石の宇井も逃げ切れない。苛立ち気に舌を打たれも、ここはスルーさせていただこう。



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