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この四角い世界の上で
2


「勝負の内容はここ、射的」


夏祭りの勝負事にはぴったりだろ?と言う阿部に宇井も三鬼も頷いた。
確かに今日並んでいる屋台で、これ以上うってつけのものはない。殆どの屋台は焼きそばやたこ焼といった食べ物だし、あとはくじびき屋があるがそれでは勝負にならないだろう。


「寺脇、多く落とした方が勝ちなのか?」


代金を支払って受け取った銃の使い方を確認したり、標準を合わせたりしながら宇井が尋ねた。


「いや、それだとつまらないから今回は先に1番上の段にあるアレをとったほうが勝ちってことで」


勝負を受けたからには、絶対に負けたくない。

宇井は静かに、三鬼は激しく。闘争心を燃やす2人は、コルク弾をつめた銃を握って寺脇が指した賞品に狙いを――


「「……」」


定めて絶句した。

アレを狙えって言うのか?待て冗談だろ?


宇井と三鬼はギ、ギ、ギ、と油の切れたブリキよろしく振り返れば、なんと笑顔で頷かれたではないか。
やっぱり狙う賞品はアレであっているらしい。


大きなウサギのぬいぐるみ。
真っ白、ふわふわ、ファンシーの三拍子が揃ったぬいぐるみは、それはそれはかわいいものだ。
女の子なら誰もが喜ぶこと間違いなしの賞品で、実際、橙南も目を輝かせている。

しかし、それを狙うのが蒼夏高校一、クールな男と呼ばれる宇井と、七雲高校の番長、三鬼だとギャップが激しすぎる。ドン引き対象、間違いなしだ。
現に屋台のお兄さんは、笑いを堪えている。いくら口元を隠そうが、肩が震えていれば世話ない。

絶対楽しんでいると確信した宇井と三鬼は、凄みを利かせて寺脇を睨んだが彼は素知らぬ顔。それどころか「解っていないなぁ」と肩をすくめられて、怒りは高まる一方。心の中で、解ってないのはテメェの方だと悪態を吐いた。


「並んでいるやつの中で、難易度が1番高いのがあれなんだよ。さっさと始めないと、ギャラリー増えるぞ?」


寺脇に言われて後ろを向けば、いつの間にか人が集まってきていたので宇井と三鬼はぎょっとのけぞった。
恐らく、真剣な面持ちで銃を握る2人から、勝負事が始まると解ったのだ。注目されていると解った宇井は、この場から立ち去りたい衝動にかられた。
握っている銃を返して、阿部と一緒にいる双子を回収してこの場を離れるのは簡単だ。しかしそうすればこの勝負は三鬼の勝ち。
それは彼のプライドが許さない。

だったらどうする?と問われれば簡単なこと。三鬼より先に賞品を落とせばいいだけ。


宇井は銃口を向けて狙いを定めた。

狙いはウサギのぬいぐるみの隣に置かれた小さな板。
ぬいぐるみの代わりに、これを落とせば賞品をもらえる。


ざわめきも意識から遮断させ、全神経を集中させて、引き金を引く――





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