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この四角い世界の上で
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神社に集まる人々、境内に並ぶ屋台と提灯。

今日は夏祭りだ。


カランコロンと下駄をならせる双子は、はやる気持ちを抑えきれない。人が多いからはぐれるというのと、浴衣で走れば転ぶという理由から、宇井と手を繋いでいなかったら走り出していたに違いない。
それでも急かすように引っ張る双子に、宇井も負けじと握り締めた手に力を入れた。

やがて祭り特有の賑やかさが目と耳の両方に伝わると、いよいよ双子のテンションは頂点に達する。今にも手を振り払って走り出しそうな双子に、首縄でも持ってくればよかったと宇井は後悔した。


「うっわー!すっげーにぎやか!」
「ねぇねぇ、わたあめたべたい!」


早速、祭りの雰囲気に感化された双子は、自分の行きたいところへ行こうと宇井の両手を引っ張って、まるっきり綱引き状態。これには流石の彼もお手上げだ。せめて1人だけなら背負うなり抱くなりして強制手段にでれるのにと溜息をつく。


「解った解った。まずはそこにある綿菓子だ。誠、お前も食うか?」
「たべる!」


橙南に続いて誠も綿菓子を希望。
綿菓子なんてただの砂糖なのだが、子供達はこれが大好き。
まあ、祭りの定番だしな、と宇井は綿菓子を買う列に並んだ。
2人で1つにしてくれないかなーとか思っても、誠と橙南では、綿菓子が入っている袋の好みが違う為、それぞれ買わなければならない。
たかが袋だろ、と思っても子供達にはそこが一番重要なポイントなのだ。


「はいよ。ボウズに嬢ちゃん、兄ちゃんに買ってもらってよかったな」


誠が選んだのは青い、戦隊ものがプリントされた袋。橙南はピンクの猫を選んだ。屋台のおじさんが渡してくれたそれを、双子は笑顔で受け取る。
すぐにも開けようとした双子に宇井の「待った」が入った。


「ここで食べると他の人に迷惑だろ。あっちの離れたところに行くぞ」


この人込みで、双子が綿菓子を上手く食べられるかと聞かれればそうでない確率は高い。もしかしたら綿菓子を他の誰かにくっつけてしまうかもしれないと危惧した宇井は、屋台の奥、木々が立ち並ぶ場所を指差した。

あそこなら人もこない上、自分も落ち着いて食べられそう。
視線を落とした先には、綿菓子ができるのを待っている間に、ちゃっかり自分用に買った焼きそばが。
さっきからソースの香りが自分を誘惑していてやまないのだ。

早くこの空き腹を…と思っていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ?宇井じゃないか」


来てたんだ。と続いた言葉に振り返ると、そこにいたのは阿部とまさかの三鬼と寺脇がいて、驚くには十分の組み合わせで会いたくない組み合わせ。実際、宇井の口からは「げ」と声が漏れた。

阿部は解るが、どうして三鬼と寺脇まで。
お前等が住んでいるのは隣市だろうがと喉元まででてきた言葉をなんとか飲み込んでいると、阿部の視線が双子に向いているのに気がついた。

そういえば、阿部がこいつ等に会うのは初めてだったか、と宇井は双子の背中を押す。


「ほら2人とも、挨拶しろ」


双子は肩を震わせた。人見知り?まさか。
待ち切れずにこっそり綿菓子を食べようとしたのをタイミング良く止められたからだ。口を開けたその時なんて、絶対狙っていたとしか思えない。


「まことです」
「とうなです」
「「ふたりあわせてツインズでーす」」


と声を合わせる様子はさながらコント。
ピースサインをして何気にポーズも決まっている。息の合った双子の自己紹介に、阿部が「おおー」と拍手を送っていたその傍らで、宇井がこのバカ双子、と頭を抑えていた。


「俺は阿部真司。宇井とは同じ学校に通っているんだ」


よろしくな、と笑う阿部に続いて、今度は自分の番だと言うように寺脇が一歩前に進む。


「俺は寺脇司。で、こっちは――」
「三鬼武士。宇井を倒すのはこの俺だ!」


三鬼の芝居がかった自己紹介に、宇井は呆れているが双子には好評らしい。

びしっ、と親指を指して宣言した姿に「おおー」と声をあげている。双子の反応から決まった!と悦に浸るのは三鬼の勝手だが、その声の裏には「あいかわらず、むりなこというなー」という幼いながらも酷く冷静な判断が隠されていた。

誰が何と言おうと、宇井は絶対に負けないのだ。と、双子は信じている。


「つーか、なんで三鬼と寺脇まで自己紹介するんだよ。お前等とはずっと前から会っているんだから必要ねーだろ」
「やだなぁ宇井。そこはノリってやつだよ」
「…なんだよそれ」


笑顔で答えた寺脇に、宇井が「意味が解らない」と頭を抑えるのと、三鬼が「そうじゃ!」と声を上げたのは同時だった。


「ここで会ったのも何かの縁!宇井!俺はお前に勝負を挑む!」
「縁も何も、お前いっつも俺に挑んでるだろーが」


冷ややかに答えるも、勝負に燃える三鬼には全く届かなくて、再び頭を抑える。
なんだか三鬼の背後にメラメラと燃えたぎる炎が見える気がする。折角、夏祭りを楽しもうと思ってきたのに、どうして勝負を挑まれるんだ。全くもってついていない自分が恨めしい。


「まあまあ、夏祭りなんだから勝負の内容をそれにすればいいだろ?そうすれば楽しめて一石二鳥」
「そうそう。楽しんでいこうぜ」


阿部も寺脇も、宇井に会った時点で三鬼が勝負を挑む事は予想していた(できれば外れてほしかったけど)。それが当たってしまったのなら、ちょっとでも楽しめる方向にもっていこうじゃないかという考えのようだ。

それに当事者ではない自分達は、いいものを見せてもらえるんじゃないかと楽しくて仕方ない。

弾んだ声とニコニコを笑う顔から、2人の本音を読みとった宇井は「見世物じゃねぇんだぞ」とぼやいたものの、それを聞きいれてくれるような相手じゃないことは解っている為、嫌々ではあるが頷いて勝負を受け入れた。


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あきゅろす。
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