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この四角い世界の上で
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朝食を終えて、洗濯と掃除も終わらせたお次は買い物。
食料品はまとめて買った方が楽なので生鮮食品以外の保存がきくものを買いに行く。財布と一緒にマイバッグを持つのは主夫の基本だ。


「じゃあ出かけてくるからな」


ベランダで日向ぼっこをしている双子が「いってらっしゃーい」と言うのを聞いて、宇井は家を出た。




「(しかし、本当にいい天気だな)」


見上げれば青い空に白い雲。あの梅雨空はどこへいったのだろうと疑問に感じるほど晴れていた。

誰もがこの時を待ち焦がれていたようで、通り過ぎる家々には大量の洗濯物が干してあって、布団を叩く音も聞こえる。子供達は皆一様に外へ出て思う存分、走り回ってはしゃいでいる。

公園を通りかかれば、ブランコで遊ぶ子供達が目に入ってきた。

もっと高く漕ごうと力いっぱいブランコを揺らす子供達は、誠と橙南より少しだけ年上か。笑い声が響くその光景を見ているうちに、家のベランダでひなたぼっこをする双子が浮かぶのは当然だろう。

そして、浮かんだ双子が、あのまま飽きるまで日向ぼっこをしているんだろうなと思えば、なんとなく頭痛がしてきた。

こんなに天気がいいのに、どこへも出かけず日向ぼっこなんて。
2人とも体を動かすのは大好きな筈なのに、今日に限ってはどこかの老人よろしくひなたぼっこ。
梅雨明け早々、双子がどうしてひなたぼっこを選んだのかは謎だ。この子達みたいに公園で遊ぶなりもっと他にやれることはあるだろうに。


「(育て方間違えたか?)」


子育てに便利なマニュアルなんてなく、手探りなりにも必死にやってきたつもりだが……そこそこうまくやっていると思っていただけに落ち込む。


「あ、満君」


花屋の前を通り過ぎる時、店員に声をかけられた。
ちょっと気分が下降気味な宇井は、軽く頭を下げるという素っ気ない挨拶だったが、彼女、名古は気にしない様子で更に話しかける。


「今日は久しぶりのいいお天気ね。花達も嬉しそうに笑っているわ」


柔らかな笑みを浮かべる彼女は、そう言って店先に並んでいる花を撫でた。

撫でると言っても、花が傷つくのを恐れて花弁に触れるか触れないかの程度。とても優しい手つきから、彼女が心の底から花を好いているのが解る。だから宇井も、花は笑わないし、まして喋ることもないが、彼女が言うのだからきっとそうなのだと小さく笑った。


「そうそう、土曜日に夏祭りがあるんだけど、満君知ってる?」
「夏祭り?って言うと氣比神社の?」
「そう、それなんだけど実行委員会がちょっと人手不足らしくて…。本部にあと2、3人ほしいって言うんだけど、誰か都合のいい人知らない?」


頬に手を添える名古は困り果てた様子で、実際本当に困っているのだろう。本当は宇井に頼めれば1番早いのだが、高校生を夜遅くまで付き合わせてはいけないと遠慮しているらしい。

双子を育てている宇井にとって、その遠慮はとても助かるもので、代わりに誰かいないかと考える。


「あ、1人なら心当たりがあります。あの人なら絶対引き受けてくれますよ」
「本当?助かるわ、それじゃその人に明日の夜8時から公民館に来てくれるよう伝えてくれる?打ち合わせがあるみたいなの」
「解りました」


本人の了承を得ずまま着々と進められていくが、祭り事は大好きな人だからきっと引き受けてくれると確信していた。


「(何より暇だし)」


心当たりのある人物とは、彼女いない歴、早7年の高木智和。
職業柄、いろんなところに行く為、彼女をつくる暇がないんだと主張する男である。




「っくし!!…?誰か俺の噂でもしてるのか?」



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あきゅろす。
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