バーンビート
6
「おい、がきんちょ。もう目を開けても大丈夫だぞ」
振動も光も感じなくなった頃、アブロに言われてトウヤは恐る恐る目を開けた。不安と恐怖を胸に抱き、徐々に見えてくる景色に「あ」と声をあげる。
ビッグバン発生装置があった場所にはもうなにもない。あるのは瓦礫の山だけで、ビッグバン発生装置が破壊されたのだと解った。
これで地球の、宇宙の平和は守られた!
「バーンビート!」
バトルクロウから飛び降りたトウヤは、バーンビートXに駆け寄った。途中、不安定な足元に躓いたりもしたが、構わずに走り続ける。
「やったよ!バーンビート!地球も宇宙も守れたんだ!」
ガッツポーズと笑顔でバーンビートXを見上げた途端、まるで風船がしぼむようにトウヤの顔から笑顔が消えていく。前に突き出していた拳はだらんと力なく垂れ下がり、悲しみにくれていた。
「お別れ、なんだな…」
『ああ』
バーンビートXが頷く。
バーンビート達が地球に来たのは、ガルバトロスの宇宙征服を阻止するためで、ガルバトロスもビッグバン発生装置も消滅した今、バーンビート達が地球に留まる理由はない。
言葉に出してしまうと余計寂しさを感じた。胸がぎゅっと締めつけられて、目の周りが熱くなる。
バーンビートX達を見上げる視界が滲んで、ようやく涙を流しているのに気付いたトウヤは袖でぐいっと拭ったが、涙は止まる事を知らずに流れ出て、始末におえない。
あーあ、泣き顔見られるなんてかっこ悪いと苦笑するもそれは不格好なぐしゃぐしゃ顔で、バーンビートXは膝を折った。
『トウヤ。君がいたから、私達はガルバトロスの計画を阻止して宇宙を守ることができた。君のおかげだ本当にありがとう』
「お礼を言うのは俺の方だって。バーンビート達がいたから…」
それ以上の言葉は言えなかった。言いたくても、涙が邪魔をして言えないのだ。ぐすぐすと鼻を鳴らして泣くトウヤは、バーンビートXの足にしがみついた。
「行かないでよ、っバーンビート!ずっと、ずっと地球にいてっ、ずっと…俺の友達でいてくれよ!」
終に声に出して泣きだしたトウヤをバーンビートXは宥めるように優しく撫でる。期待して顔をあげたトウヤだったが、バーンビートXは悲しげに首を横に振るだけ。
『私達には次の任務が待っている。いつまでも地球に留まってはいられない』
本心を言えば、バーンビート達だってずっと地球にいたい。
この地球は、宇宙のどの星より美しくて神秘的でかけがえのない仲間に出会えた。
それでも、バーンビート達は行かなくてはいけないのだ。
どこかで宇宙の平和が脅かされているかもしれない。誰かが恐怖に怯えて泣いているかもしれない。そんな皆を守る為に――
バーンビートX達は合体を解いて、トウヤを見下ろす。巨大ロボット達がずらりと並んだ姿は圧巻で、宇宙の平和を守る正義の味方に相応しいと思った。
『ねえ、トウヤ。僕と遊べてすっごく楽しかった!』
プテロン。
『僕達、ずーっと友達だからな』
エアホイル。
『トウヤ、今まで本当にありがとう』
シェリフ。
『どうぞお元気で』
レスキュー。
『じゃあな。トウヤ』
ファイヤー。
『ガルーダ、トウヤ、忘レナイ』
ガルーダ。
皆がトウヤのことを忘れないと言ってくれている。
トウヤだって皆の事を忘れない。
『トウヤ。どんなに離れていても私達は友達であり仲間だ。私達は君のことを決して忘れない』
「はは、最後だっていうのに、固いなぁ。バーンビートは」
最後くらいもっとくだければいいのに、どこまでもバーンビートは真面目なんだから悲しさも忘れて笑ってしまう。そうか?ときょとんとするバーンビートに、他の皆もそうだと笑った。
まあそれがバーンビートらしいといえばらしいのだけど、と皆を見上げたトウヤはもう泣いていない。泣き顔ばっかり見せてちゃ、男じゃないぜ。
言葉を交わすわけでもなく、じっと見つめ合うトウヤとバーンビートに、シェリフが遠慮しがちに声をかけた。
『バーンビート』
バーンビートは頷いた。
迎えが来たのだ。
『トウヤ、お別れだ』
バーンビートの声を合図にしたように、空から光の柱が降りてきて、ギアーズとバトルクロウ、そしてガースを包んだ。3人は柱の中を上昇していき、続いて柱はバーンビート達を包む。
先の3人同様、光の柱を昇っていくバーンビート達にトウヤは大きく手を振った。
「ばいばいバーンビート、皆!今までありがとう!!」
『さようならトウヤ!』
数日後、トウヤはカズキ達と一緒に下校していた。
町中にいた防衛軍はすでに撤退しており、町には静かさと平和が戻っていた。
「あーあ、何か面白いことでもねーかな」
頭の後ろで手を組むカズキは、かなり退屈な様子で空を仰ぐ。
そんなカズキにソウタがひょいと顔を出した。
「だったら発掘現場に行こうよ。また新しい出土品が出たんだって」
「いいわね!これを使っていた人はどんな思いでこれを使っていたのかな。お皿だったら家族と一緒に食べた?それとも恋人と?って想像するのはとってもロマンティクじゃない?」
ソウタに同意したアヤメは、恋物語を思い浮かべているのか、はあ、と憧れの息を漏らす。トウヤは横目で見やった。
どうやらあの遺物は歴史の1ページが変わるほど、凄い発見だったらしく、旭町ではこれを観光資源にできないかと現在模索中らしい。ちょっと前まではバーンビート達巨大ロボットが旭町を騒がしていたのに、その座を遺物に奪われた挙句、人々の頭の片隅に追いやられてしまったのだから少し寂しい。
トウヤはふと振り返った。そこにあるのは自動車の修理工場。
古タイヤが積まれた隣にあるのは、以前は燃えるように赤かったであろう車体も、今ではくすんで錆びだらけ、スクラップにされるのを待つばかりの車で、バーンビートが融合していたあのスポーツカーだ。
ご丁寧なことに、バーンビートが融合解除すると、あのスポーツカーは元のオンボロ車に戻って元の場所に戻っていた。
もうそこにバーンビートがいないと解っていても、そのうち動いて、あの炎を写した真っ赤なロボットに変形するのではないかと期待しては、そんな筈ないかと寂しさを感じてしまう。
「おーいトウヤー、置いてくぞー」
「ま、待てよ」
自分を呼ぶカズキ達の声にハッとすれば、いつの間にかカズキ達はずっと先にいる。置いてけぼりにされていたのに気付いたトウヤは、慌てて走り出した。
「(なあ、バーンビート。
俺さ、バーンビート達に会って最高の男のロマンを知ったよ)」
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