バーンビート
3
ビッグバン発生装置のある部屋から飛び出したバトルクロウは、通路を飛び続ける。通路の先は真っ暗でどこまで続いているのかまるで解らない。
一体、バトルクロウはどこへ行くつもりなのだろう。
「ディア!アブロ!お前等俺をどこに連れていくつもりなんだ!さっさと下せー!」
バトルクロウに攫われたトウヤは、球状の檻の中で必死に抵抗を続けた。精一杯の助走をつけて体当たりしたり、ブレスにあるレーザーを使ってみたりと色々やってみたが檻はびくともしない。
見た目はシャボン玉のくせして、この頑丈さはなんなんだとむかついていると、バトルクロウはパッと檻を手放した。
重力に従い落下するトウヤ。
確かに放せと言ったのは自分だけど、この高さで放すなよ!
そんな事を思っている間にも地面との距離はなくなり、あっという間に0。全身打撲の痛みを覚悟したトウヤだったが、檻がクッションになったおかげで怪我ひとつない。
おまけに衝撃で檻が破れたのだから、なんてラッキーなんだろう。
「よし!今のうちに逃げるぞ!」
檻さえ壊れてしまえばこっちのもの。早くバーンビート達のところへ!と走りかけたトウヤの目の前にバトルクロウが降り立った。
相手がいくらお間抜けコンビのディアとアブロでも、バトルクロウを操縦しているとなれば話は別。
絶体絶命のピンチなのは変わらなくて、じりじりと後ずさっていると、コックピットからディアとアブロが飛び降りた。
オリンピック選手なんて足元にも及ばない立派な着地を決めた2人は、警戒心をむき出しにしてこっちを睨むトウヤに、やれやれといった様子で肩をすくめる。
「ちょっとガキんちょ、アンタ怪我はない?」
「寒くないかー?」
おーい、と両手を口に添えて言うアブロにトウヤは面食らう。
怪我はないか?寒くないかだって?なんで敵のお前達が俺のことを心配するんだ?
不思議に思うも、そういえばさっきもバトルクロウはギーグルの手から助けてくれたのではないだろうか。
バトルクロウがトウヤを攫わなかったら、トウヤはギーグルに殺されていたか戦闘に巻き込まれていた。これまでいくつもの活躍をしてきたトウヤだって、いくらなんでも最終決戦に巻き込まれて無事でいられるわけがない。
そうなると、自分を助けたディアとアブロの目的がますます疑問になるのだが…。
全く訳が分からなくて悩むトウヤに、ディアは腰に手を添えて「フン」と偉そうに鼻を鳴らす。
「アタシ達だって頼まれたのよ」
「頼まれた?一体、誰に」
『ワシじゃ』
声に驚いて振り帰れば、一体いつからそこにいたのかアメジスト色のロボットがいた。
トウヤはこのロボットに見覚えがあった。発掘現場で爆弾をセットしていたロボットだ。
「アンタが俺を助けてくれたのか?」
まだ半信半疑のトウヤが尋ねるとロボットは『そうじゃ』と答えた。
『ワシの名前はガース、この基地で開発研究をしておる。お前さん、名前は?』
「トウヤ、赤井トウヤだ」
ガースの質問に対して、トウヤは不思議なほど素直に答える。
敵のガース相手に呑気に自己紹介なんてしている場合じゃないのに。素直に答えてしまったのには、助けてもらったことが関係しているのだろうか。
それを確かめるべくトウヤは、今聞いた名前をメモリするように繰り返しているガースに尋ねた。
「なあ、どうして俺を助けたんだ?俺はバーンビート達の仲間だっていうのに」
『……ワシにとっては宇宙がどうなろうと、ガルバトロスの企みもどうでもいい事なんじゃよ。ただのぉ、遥か昔に計画され、あと一歩のところで凍結された8819プロジェクト。あの結果をこの目で見てみたかっただけじゃ』
そう言ったガースの視線はどこか遠くに向けられていて、恐らくプロジェクトが凍結された時代を見ているのだろうとトウヤは感じた。
科学者というのは、未知の領域を求めて仮説を立て、実験を行いその結果を成果にする者。
その科学者であるガースなら、8819プロジェクトが実行された場合、結果が成功でも失敗でも彼は満足するに違いない。成功すれば未知の領域が既知になる。失敗すればそこから得たデータで新たな仮説を元に次の実験を行うまで。
静かに聞き入っていたトウヤの隣で、ディアとアブロが「ちょっと待ったー!?」といつもの間抜けな声をあげる。
「ガース!?今、さっき宇宙がどうなってもって言ったわよね!?」
「それってひょっとしたら宇宙が滅亡するとかそんな風に聞こえたんだけど!?」
ヒイイ!と青ざめるディアとアブロにガースは何を今さらと冷めた視線。トウヤも「何、言ってんだよコイツ等」とやっぱりなお間抜けコンビに白けていた。
『今頃何言っとんじゃ。ビッグバン発生装置が起動すれば、確かに新たな宇宙が誕生するが、今ある宇宙と共存はできん。どっちかが滅びるしかないじゃろうて』
「「え!?」」
「おまけに、コントロールがめちゃくちゃ難しいから下手したらエネルギー暴走で地球をきっかけに他の惑星も、連鎖反応でどんどんバランスが崩れていって、最後には宇宙が滅亡するってレスキューが言ってたぞ」
「「ええー!?」」
ガースに続いてトウヤの説明でディアとアブロは大絶叫。
大絶叫の後は、力無く座り込み放心状態になった2人を見て、ひょっとして知らなかったのか?とガースもトウヤも首を傾げる。
一応、ガルバトロスの部下なんだからこれくらい知っていてもいい筈なのに。って言うか、知らないで今までキーストーン集めていたのかよとつっこみたい。
「ちょちょちょ、ちょっと何それ!?それってすごくヤバいじゃない!」
「ガルバトロス様が宇宙の支配者になるだけだろ!?この戦いに地球どころか宇宙の運命までがかかっているなんて、全っ然聞いてないぞ!?」
「マジかよ!?はあ…、お間抜けコンビだと思っていたけど、まさかここまでとはな」
「「……」」
痛いところをつかれて返す言葉がないディアとアブロに、トウヤはやっぱりお間抜けコンビだと心の内で苦笑して、「よし」と気合を入れた。
「行くか」
顔をあげたトウヤは、膝の汚れを払い落して今来た道を振りかえった。通路は一本道なのだから、どう進んだってバーンビートX達やビッグバン発生装置があるあの場所に辿りつくだろう。
「ちょっとがきんちょ。アンタ、さっきの場所に戻るつもり?たかが人間のガキ1人があそこで何ができるって言うの」
何もできる筈ないと言い張るディアに、アブロも「そうだそうだ」と加勢する。ディアとアブロの言う事はもっともだ。
トウヤがあの場所に戻ったところで、何かしらの役に立つとは思えない。
「俺だってバーンビート達の仲間なんだ。だったら行かないでどうするんだよ」
バーンビートX達が戦うのを応援したい。最後を見届けたい。
トウヤの決意は固く、その顔を見たディアとアブロは、カメラアイを一瞬丸くさせた後、自分達も覚悟を決めたと唇を引き締める。
トウヤの言葉をまねるわけではないけれど、最後がどうなろうと、ここで行かなきゃ本当にガルバトロス様の部下失格だ。
向かってくるトウヤに、ディアとアブロは手を差し出した。
「手ぇ出しなさい。がきんちょ」
「歩いていったら間に合わないからな。優しいお兄さんとお姉さんが乗せてってやるよ」
「プッ、自分達で優しいって言うなよ」
呆れながらトウヤはディアとアブロの手を掴んだ。ディアとアブロはトウヤの手を握り締めて、コックピット目指してジャンプ。驚くべき跳躍力を見せてくれた。
「アブロ!がきんちょ!ぶっ飛ばして行くわよ!」
「「了解!」」
バトルクロウに乗り込んだ3人は、急いで来た道を引き返す。
全速力で飛ぶバトルクロウはあっと言う間に見えなくなっていき、一人残って若者達を見送ったガースは、ぽつりと呟いた。
『ワシはビッグバン発生装置を発動させてみたかった。じゃが、研究の場を無くす宇宙の崩壊は望んでおらん。ガルバトロス、お前さんはそんな装置を発動させてどうするつもりじゃ?』
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