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バーンビート
5


トウヤの咄嗟の判断に感嘆している横で、集まったキーストーンは隣同士、パズルのようにピタリとくっつき合い、一枚の花の様な形になった。今までバラバラに保管していた為に気付かなかったが、これが本来の形なのだろう。


『レスキュー、地図ってどこにあるの?』


エアホイルが尋ねると、レスキューはキーストーンの地図を手に取り、

『これがそうです』と皆に見せた。
『でもそれって、古代文字が書いてあるだけじゃなかったっけ?』


プテロンが言う。
キーストーンには古代文字が刻まれていて、これを読み解く作業は石板とともに苦労させられた。嫌な思い出を浮かべるプテロンにレスキューはまたも頷く。


『はい。キーストーンに刻まれているのは古代文字です。しかし、この文字に隠されてもうひとつ、装置への地図が刻まれていたんです。それが読めるのは6つのキーストーンが全て集まった時』


レスキューがそう言った瞬間、キーストーンに刻まれていた文字に光の筋が走り、新たな座標が浮かび上がる。何百万年の時を越えて起動したそれを、バーンビート達は食い入るように見つめた。


『南極か』


バーンビートの呟きにレスキューは静かに頷く。
キーストーンが示した場所は、地球上でもっとも寒い場所、南極だったのだ。


『ガルバトロス達もそこに』


レスキューの言葉に今度はバーンビートが頷くと、プテロンが横やりを入れる。


『ちょっと待って、どうしてガルバトロスがそこにいるって解るの?だってキーストーンは全部ここにあるんだから、ガルバトロスが場所を知っている筈ないでしょ?』


プテロンの言い分はもっともだ。
ガルバトロスはキーストーンの情報を何一つ持っていない。
それなのにどうして彼等がそこにいると思うのだろうか。

これに関して、バーンビートは重い口を開かなければならなかった。
話したくなかった為、今まで後回しにしてきたがこれ以上後回しにはできない。
しかしバーンビートより早く、ガルーダが口を開いた。


『ガルバトロス、ガルーダ封印シタ』
『『ええ!?』』


ガルーダの思わぬ発言に、プテロンとエアホイルは驚いた。
ガルーダが封印されたのはキーストーンが封印されたのと同じ時、それなのにガルバトロスがガルーダを封印したとはどういうことだ?
プテロンとエアホイルの二人がバーンビートを振りかえると、バーンビートは決意したように顔をあげた。


『宇宙防衛機構がガルバトロスを追いかけ続けているのは、プテロンとエアホイルも知っている事だ。だが、ガルバトロスは――』



「宇宙防衛機構の元一員だって!?」


ガルバトロスに掴まったトウヤは、防衛軍の基地から遠く離れたところにいた。薄暗い為周囲がはっきり見えないが、おそらくここはガルバトロス達の基地、そしてビッグバン発生装置の場所だろう。

じっくり観察したいところだが、それよりもガルバトロスの話だ。
さっきガルバトロスは昔、宇宙防衛機構に所属していたと言った。ガルバトロスが宇宙防衛機構にいたということは、バーンビートの仲間ということになる。

そんなまさか。ガルバトロスは敵だ。宇宙を支配しようとしている悪い奴だ。

信じられないでいるトウヤをガルバトロスは一瞥すると、『本当のことだ』と唸るように言う。過去に何の未練もないのか、その声には昔を懐かしむ様子も思い出に浸る様子も全くない、淡々と事実だけを告げている。


『宇宙防衛機構は全宇宙の安全、秩序を守る為に造られた最高機構だ。その任務は様々で、俺やバーンビートの様に現場に赴く機動部隊の他、情報部員、記録者、更には科学者もいる』


ガルバトロスの話にトウヤは聞き入っていた。
点のひとつひとつがゆっくりと線で繋がっていく。


「…今まで気付かなかったけど、気がつかなきゃいけないことがあったんだ。どうしてお前が石板のことを知っていたのか、どうして石板を持たないお前等がガルーダのことを知っていたのか」


呟くように言うと、ガルバトロスは口元のパーツを僅かに動かした。まるで笑っているようだとトウヤは思った。


「そもそも8819プロジェクトはバーンビートでさえ、おとぎ話と思っていた。それなのに、どうしてお前は本当の事を知っていたのか」


全ての点が線で繋がる。


「お前は最初から全部知っていたんだ」


今度こそガルバトロスは笑った。楽しいから笑うのではなく、ようやく全てを理解できたかと見下す笑いであったが、確かに笑った。


『ああ、そのとおりだ。お前達の言葉で言うと、俺は代々宇宙防衛機構に属していた一族の末裔だ。そして俺の何代か前の奴は科学者でな、そいつは、8819プロジェクトのメンバーでもあった。そいつはプロジェクトに誰よりも熱意を注いでいたが、上層部はエネルギーの暴走による宇宙崩壊を恐れてプロジェクトを中止させた』


ガルバトロスは徐に立ち上がると、トウヤに一歩近づいた。
一歩とはいえ、ガルバトロスの一歩はトウヤを簡単に踏みつぶす。ぐっと体に力を入れたトウヤだが、ガルバトロスはトウヤを通り過ぎ、その後ろで立ち止った。
トウヤは、そこに何があるのか解ったような気がした。それでも振り向けばそこにあるのは予想通りのもの。


『これがビッグバン発生装置だ』


ガルバトロスが言う。

装置という名前から、トウヤはレバーやらスイッチやらでゴテゴテとした機械の塊を想像していたが、実際にはガルバトロスの背丈より更に大きな扉があるだけ。
左右に開く扉にはキーストーンと同じ古代文字と、記号がびっしりと刻まれていて、キーストーンをはめる場所であろう空洞も見えた。

この扉が一体何で出来ているのだろうと考えようとしてやめておく。解ったところでどうしようもないし、第一これは、地球上のどの言葉も当てはまらないものでできている。
それよりこの状況でひとつだけ解っていることがあり、トウヤを勇気づけた。


「残念だったな!俺ごとキーストーンを奪ったつもりかもしれないけど、俺は持っていない。キーストーンはバーンビートの手に渡っているさ!キーストーンがなければそれもただのガラクタだろ!」


トウヤは意気揚々と叫んだつもりだったが、ガルバトロスには虚勢と取られてしまった。ガルバトロスはトウヤを見下ろし、悪あがきだと嘲笑う。


『小僧、俺はお前がキーストーンを持っていないのを知っている』
「なんだって!?それじゃどうして俺をここに連れてきたんだ!」


いよいよガルバトロスは声をあげて笑う。トウヤは何がおかしいんだと怒りを覚えるも、ガルバトロスがトウヤの理解力を更に見下すだけだった。
そしてトウヤの恐怖を煽るように、ガルバトロスはずいっとその顔をトウヤに近付けて言う。


『解らないのか?俺はお前とキーストーンを交換する為に、お前を攫い、ここに連れてきたのだ。キーストーンを手に入れたと同時に、ビッグバン発生装置を起動させられるようにな』



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