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バーンビート
4


「これは渡せない」


顔をあげた内海が見たのは、軍が拘束した少年、トウヤであった。
キーストーンを奪われた内海はギリっと歯をぎしりをすると、トウヤに襲いかかる。キーストーンを奪うつもりだ!


「それは軍のものだ!返せ!!」


目をギラつかせる内海は尋常じゃない。キーストーンを奪おうとトウヤの両手を掴む力も、人間とは思えないほど強力で、トウヤはキーストーンを離さないように、腹に抱えるようにして守る。


「嫌だ!これはバーンビート達のものだ!軍にもガルバトロスにもやるもんか!!」
「聞き分けのないガキめ!」


力任せに瓦礫に押し付けられて、トウヤはうめき声をあげた。
その声が途切れるより早く拳銃を抜いた内海は、迷うことなくその銃口を、唯一露わになっていた頬に付きつける。初めて感じた金属の冷たさにトウヤは息を飲む。


「あと5秒待ってやる。それをこっちに返せ」


安全装置は解除済み。あとはこの引き金を引くだけで、トウヤは確実に死ぬ。
今まで何度もピンチを乗り越えてきたが、今回だけは逃れられそうもない。それでも内海を睨みつけたトウヤは。


「絶対に嫌だ」


と言い切った。
決して揺らぐことのないトウヤの意思に、内海は「そうか」と呟くと引き金に指をかける。見た目や声は地球の子供と変わりないが、これもあのロボット達と同じ、地球外生命体だと信じて疑わない内海に、ためらいも罪悪感もない。


『そいつを離せ』


地を這うような低い声。押しつぶさせそうな程、強烈なプレッシャーを感じた内海は、銃をトウヤから放した。声に従ったのではない。自分を守る為である。
新たに銃口を向けた先にいたのは黒いロボット。全ての光を吸い尽くすような黒は、絶望を連想させて恐怖を煽った。握っている銃が何の役にも立たないのは明白だ。

銃は逸らされても、瓦礫に押し付けられているトウヤだったが、身をよじってなんとか内海の肩越しにロボットを見た。

ガルバトロス。

予想はしていたが、間近で見るガルバトロスに、トウヤの息は詰まり、インドでの戦いが思い浮かぶ。

あのバーンビートが、ガルバトロス相手ではまるで歯が立たず、装甲には大きな亀裂がはいり中の配線が見えるほどボロボロに。負ける一歩手前だったのをガルーダの復活により間一髪のところで、勝てたのだ。

内海の意識はガルバトロスに向けられていて、もうトウヤを拘束していなかった。
逃げるチャンス。
しかし、トウヤは動けないでいた。一刻も早く逃げなければと頭では分かっているのに、足に力が入らない。自分の体ではないのかと叱責しても、足はおろか指先一本さえ動かせない。

ガルバトロスは、恐怖に戦くトウヤと内海を見下ろすと、トウヤに手を伸ばす。徐々に近づいてくる鋼鉄の手は、さっき付きつけられた銃とは比べ物にならない程、怖ろしい。むしろ、銃程度ならいくらでも我慢できると思ったほどで、反射的に固く目を瞑ったトウヤは、自分が掴まれて、更に足が地面から離れていくのを感じた。


『こいつはもらっていく』


ガルバトロスは、トウヤを捕らえたままジェット機に変形した。捕らえられたトウヤはコックピットではなく、収納庫に放り込まれた。そもそもガルバトロスが変形したジェット機にコックピットなどない。


『撤退だ』


ガルバトロスの命令を受けて、幹部達は即座に攻撃を止めて撤退の体制に入る。シェリフがシェルショットを構えたが、バーンビートがそれを制した。


『バーンビート!』
『解っている。しかし、今はだめだ』
『だが!』


反対しようとしてシェリフはバーンビートの手が震えているのに気がついた。バーンビートとて、ガルバトロスを見逃したいわけではない。今すぐにでもブースターの唸りを上げて飛びたいのだ。

しかしトウヤが無事でいられるだろうか?

バーンビートにとってかけがえのない仲間であるトウヤが人質に取られている以上、下手に手出しはできない。任務と自分の感情に板ばさみになったバーンビートはどれだけ辛いだろう。
シェリフは、何も言わずにシェルショットを下した。


『解ってくれてありがとう、シェリフ』
『トウヤも我々の大切な仲間だからな』


だろ?と言外に含ませるとバーンビートはしっかりと頷いた。

宇宙生命体の自分達と地球人のトウヤは何もかもが違う。
言語、寿命、構成組織、思考回路とあげていけばきりがない。
それでもトウヤは自分達にとって仲間なのだ。言語、寿命、構成組織、思考回路の何もかもを越えて、絆で結ばれたかけがえのない仲間なのだ。


『しっかし、実際問題これからどうするんだ?あのチビを人質に取られちゃこっちは迂闊に手出しできねぇし、そもそもどこに連れて行かれたのかすら解らねぇんだぜ?』


困り果てたファイヤーは両手を挙げて降参のポーズを示す。
プテロンとエアホイルも頭を抱えていると、レスキューが静かに言う。


『恐らく、ビッグバン発生装置のところにいると思います。ガルバトロスは発生装置がある場所を知っている筈ですから』
『何だって!?』


今の言葉を疑ったファイヤーに、レスキューはしっかりと頷いて肯定する。

ビッグバン発生装置は一体どこに?いや、それよりどうしてガルバトロスが装置のありかを知っているんだ?

瞬時にして疑問が浮上するが、レスキューはその全てを見通すように話を続けていく。


『石板に全て記されていたと言ったでしょう。キーストーンは装置の一部であると同時に、装置自体へ導く地図だと解ったんです』
『おい、レスキュー!なんでそんな大切な事を黙ってたんだ!?』


喰ってかかるファイヤーだが、これにはさすがのレスキューもムッとなった。


『私だって言おうとしました。だけどファイヤー、貴方がそうさせてくれなかったんです』


え?と間抜けな顔をするファイヤーにレスキューは『やっぱり忘れていたか』と溜息をつく。しかし今はその時のことを言っている時ではなく、レスキューはバーンビートに向きなおす。


『バーンビート、今まで見つけたキーストーンは持っていますか?』
『ああ、ここにある』


バーンビートは、胸にあるエンブレムが開いてキーストーンを取り出した。

赤、黄色、青、緑、藍色。

5つのキーストーンは共鳴するように光り輝き、バーンビートの手を離れると、ひし形のキーストーンは左右に細長く伸びたその一片を中心にしてひとつに集まりだす。

こんなことは初めてだ。

そして更に驚く事に、キーストーンはバーンビートが持っていたものだけではなく、内海のポケットからも現れた。
最後の一つ、橙色のキーストーンが他のに引き寄せられていくのを見て、内海は目を見開く。


「あの小僧が持っていたのではなかったのか!?」
『恐らく、ガルバトロスに捕まる直前、貴方に託したのでしょう』


トウヤ本人がいない為、レスキューの予想が本当に正しいかは解らないが、バーンビート達はそうに違いないと思っていた。
キーストーンの重要性を知っているトウヤだから、ガルバトロスに渡したくない一心で内海に託したのだ。キーストーンがないと知られれば、自分の身が危なくなるかもしれないのに、それでもトウヤはキーストーンを内海に託した。



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あきゅろす。
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