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バーンビート
1


防衛軍基地で最後のキーストーンを手に入れたバーンビート達。しかし、その代償にトウヤがガルバトロスに掴まってしまう。ガルバトロスは、キーストーンを全て渡すことを条件にトウヤを解放すると言ってきた。
取引場所は氷の大地、南極。
いよいよバーンビート達とガルバトロス達の最終決戦が。宇宙存亡をかけた最後の戦いが始まる――




地球上でもっとも寒い場所はどこだろう?
標高8840メートルのヒマラヤ山脈?氷の大地北極?
いいや、南極だ。

一瞬の間もなく吹き荒れる吹雪は、生きる者にとって過酷な環境でしかない。この地で命をはぐくむアザラシやペンギンもこの吹雪は堪えるようで、早く過ぎ去らないかとじっと耐えるのみ。
そんな極寒の地にポツンと座る人、いや2体のロボットがいた。
外見は人間の男女とそう変わらなくとも、氷点下の風を受けてもなんとも思わないところが彼等は人間ではなくロボットだと証言している。自身の顔から伸びた氷柱をパキンと折った片方のロボット、アブロが尋ねた。


「なあ、ディア。あのガキ大丈夫だと思うか?」
「はあ?アンタ、なんであんなガキんちょのこと心配しているのよ」


ガキというのは連れてきたトウヤのこと。きっと怒るだろうなというアブロの予想通り、ディアは片眉を吊り上げて怪訝な顔をしていた。
やっぱりそう思うよなと心の中で呟いたアブロは、周囲を見渡して幹部達がいない事を確認すると、決まり悪そうにその理由を言う。


「だってさぁ、人間っていうのは寒いところだと死ぬんだろ?アイツ、まだ子供なのに死んじゃったらちょっと可哀想かなーって…」
「アンタねぇ…」


人質の心配をするなんてよほどガルバトロスの部下らしくなく、加えて尻すぼまりになっていく相棒にディアは呆れの交じった溜息をつく。
そんなディアの反応を見て、アブロは言わなきゃよかったと後悔した。
トウヤが心配だなんて、他の幹部相手だったら絶対に言わないこと。相手がディアだから言ったのに、やはりこんな考えではガルバトロスの部下失格だろうか。

ウジウジ悩んでいるとディアに背中を叩かれた。落ち込む仲間を励ますような優しいものではなく、力いっぱい遠慮がないところが彼女らしい。
叩かれた背中がジンジン痛んで悶えていると、ディアは「ばっかじゃないの?」と言い切ったのでアブロはまた落ち込む。

そうだよなぁ。やっぱり俺って部下失格だよなぁ…。
キーストーンを奪い合い負け続けて散々な目にあったけど、いつの間にかアブロはトウヤを敵として見れなくなっていた。次こそは!と燃えているうちに、ライバル意識が芽生えてしまったなんて、本当、ガルバトロスの部下としてどうなんだろう。

はあ、と深いため息をついているとディアに「しゃきっとする!」と再び激を入れられた。


「ガキんちょなら心配いらないわよ。レスキューが作った特殊スーツを着ている限りこの環境には耐えられる。それに、キーストーンの取引材料なんだからギーグル達も手出ししないわ」


え?

アブロは自分の聴覚センサーが壊れていないかと疑う。
まるでディアも自分と同じく、あのガキんちょの心配をしているように聞こえて、ポカンと間抜け面でいるとディアはすっくと立ち上がって気まり悪そうに頬をかいていた。

あれ、もしかして…?


「全く、嫌になっちゃう。キーストーンを奪われたりやられたりで散々な目にあったのに、いつの間にかあのガキんちょの事を憎めなくなっちゃうんだから」


あー、嫌だ嫌だとディアが背中を向けたのを見て、アブロはさっきまでのウジウジはどこへやら。急に明るい顔になって飛び跳ねるように立ち上がると、ディアの肩に肘を置く。


「なんだよディアも俺と一緒だったのかー。だったらそうだって早く言ってくれればよかったのに」
「うっさいわね!こんなこと他の連中に聞かれたらただじゃすまないから言うに言えなかったのよ。……ちょっとアレ!」


ディアが指差した一点にアブロも目を向ける。吹雪の中徐々に近づいてくる3つの影。
間違いない。バーンビートX、プロファイター、スカイヤーズだ。


「アブロ!」
「了解!」


ディアの合図でアブロがスイッチを押す。地響きと共に氷雪が左右に割れて行き、隠されていた地下洞窟、ガルバトロス軍の基地への入り口が現れた。
ぽっかり開いた入り口を見下ろすディアとアブロの気持ちは、複雑だった。この中にはトウヤだけでなく、ガルバトロスもギーグル達幹部もビッグバン発生装置も待ち構えている。それが意味するのは最終決戦、長きにわたる戦いが集結を見せるこの瞬間を2人は待ち焦がれていた筈なのに、いざその時が来るとどう受け止めればいいのか解らない。

宇宙の支配を目指すガルバトロスを慕う気持ちは変わらない。
彼のカリスマ性は本物、なのにどうして今更この時に戸惑っているのか。


「きっと地球(ここ)だからだよな」


アブロの呟きをディアは聞き逃さなかった。アブロ自身、自分の口から出た言葉に驚いているようで、目を丸くさせている。そんなアブロにディアも「そうね」と仕方ないといった顔で答える。


「なんだかんだで、私達この地球が気にいっちゃったのよ。私達の命に比べて、地球の生物の命はとても短い。でもそのとても短い命の中で、一生懸命に生きて輝いていて羨ましいくらい好きなんだと思うわ」
「だからこの地球がめちゃくちゃになるのを、心のどこかで悔んでいるのか?」
「たぶんね。ガルバトロス様と宇宙防衛機構が真っ向から戦うんですもの。この地球はめちゃくちゃどころか、跡形もなく消滅しちゃうんじゃないかしら」


寂しさを滲ませるディアの横顔に、アブロは胸が締め付けられるような気がした。この地球に来た頃は、地球がどうなろうが知ったこっちゃなかったのに、最後の最後で気づかされるなんて。

空気を切り裂く音を一際凄まじくさせて、バーンビートX,プロファイター、スカイヤーズが基地に突入する。彼等が完全に中に入るのを待ってディアとアブロも基地に入ると扉を閉めた。
外からの攻撃には耐えられるよう設計されていても、中からの攻撃にはそう耐えられない。それでも閉めないよりは幾分マシかと頷いたディアとアブロの間に会話はなかった。

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あきゅろす。
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