バーンビート
3
修道院目指して猛ダッシュする複数の影。トウヤ、ディア、アブロの三人だ。
現在、トウヤが一歩リード。トウヤの後ろを走るディアは、目の前の背中に苛立ちを覚えて「チッ」と小さく舌打ちをすると銃を構えた。そのまま引き金を引けば、トウヤの脇を弾丸が掠めていく。
自分のすぐ近くにある看板が、突然弾けたのを見てトウヤは全身から血の気が引いた。
「あっぶねー!銃なんて危ないだろ!当たったらどうするんだよ!」
振り返ったトウヤは、銃を撃ったディアに猛抗議をする。もちろん走るペースは落とさずにだ。
「うるさいわね!アンタを狙ったんだから当たったら当然でしょ!アタシ達の邪魔をすると恐いわよ!」
そう言ってまた銃を構えたディアに、トウヤも慌ててブレスのボタンを押して赤いスーツと新装備のヘルメットを装着。間一髪、ディアが放った銃弾は、トウヤの背中に命中したものの、なにせレスキュー特製スーツ。軍使用の防弾チョッキが、足元に及ばない程耐久性に優れているので、焦げ跡ひとつつけられない。
全く効かなくて驚いていると、トウヤがまた振り返る。その手には銃に似たものが握られていた。
「お返しだ!」
トウヤが引き金をひくと、赤い光線がディアとアブロの間を走った。ディアとアブロの二人は、それが実弾より破壊力のあるエネルギー弾だと解ると全身から血の気が、もといオイルが引いた。
「ちょっとガキんちょ!なんでアンタが銃なんて持っているのよ!?銃刀法違反で捕まるわよ!」
「先に撃ったのはそっちだろ!大体、これはレスキューが作ってくれた特別な銃だから人間には無害!お前等専用だ!」
「人間はよくて俺達はダメだって?そんなの差別じゃないか!差別はいけないんだぞー!」
「差別じゃない!区別だ!つーか、俺が悪者みたいに言うなよ!悪者はお前等だろ!」
「アタシ達は悪者なんて名前じゃありませんー」
「アブロとディアっていう名前があるんですぅー。人の名前くらいちゃんと覚えてこいよなぁー」
「何コイツら!すっげーむかつく!ぜぇぇぇぇったいお前等なんかにキーストーンを渡してたまるか!!!」
ぎゃーぎゃーと低レベルな口喧嘩をヒートアップさせて、トウヤ達は修道院に飛び込んだ。修道院の中に入った瞬間、ブレスの反応は強さを増してトウヤにキーストーンの居場所を知らせる。
どの方向だ?
まだ正確な位置が掴めないトウヤは、ブレスを突き出して360度回ってキーストーンの反応を探す。
「ディア!キーストーンはこの真上だ!」
一番早く正確な位置を捕らえたのは、アブロだった。キーストーンは天井の装飾に利用されているらしく、先に見つけて得意満面のアブロだが、返事をしたのはディアの期待を裏切ってトウヤだ。
「サンキュー、アブロ。おかげでキーストーンを探す手間が省けたぜ」
そう言って、トウヤはブレスを真上にかかげた。パシュン、と軽い射出音を共に飛び出したフックつきワイヤーは、装飾の一部にひっかかり、外れない事を確認するとブレスが自動的に巻き取りを始めて、トウヤの体が宙に浮く。
どんどん天井に近づいていくトウヤを見上げて、アブロは自分の頭を両手で抱えた。
「ああっ、しまった!!」
「このバカ!そんなに大声で話すから、ガキんちょにも聞こえちゃったじゃない!」
ディアは壁際に急いだ。本当なら拳骨のひとつも落としたいところだが今はその時間も惜しく、ディアは壁の僅かな突起に手と足をひっかけて登り始めた。
一流ロッククライマーも脱帽するロッククライミングをみせてくれるディアに対して、トウヤは天井にひっかけたワイヤーを巻きとるだけなので、自動的に上へ上へと登って行く。
やっとのことでディアが天井に到達した時は、キーストーンはすでにトウヤの手の中。
藍色に輝くキーストーンを羨ましそうな目で見つめるディアは、ゼイゼイハアハアとよほどロボットらしくない荒い呼吸で、トウヤは「大丈夫?」と声をかける。
「に…人間の、ガキに、しんぱ…い、されたく…ないわ、」
「あ、そう?でもさ、これくらいの運動で息があがるなんて年じゃないか?」
「う、る、さ、い!こう見えてまだ稼働年数2500年目よ!」
「十分年寄りじゃん!」
「なんですって!?」
女性に年齢の話が禁句なのは、人間だけではなくロボットにも言えるようで、ヒステリックに叫んだディアは爪を伸ばしてひっかいた。しかしトウヤが一瞬早くワイヤーを垂らして降下した為に、ディアの爪は空をかいただけ。あとちょっとだったのに!とディアが悔しさに喚いているうちに、地上に降り立ったトウヤはさっさと修道院を後にする。
モン・サン=ミシェルと麓の集落には、修道士を含めて40人前後しかいない。いつもは寂しく感じられる人数だが、湾の上ではバーンビート達の激しい戦っているのを見ると今日に限ってはそれだけの人数でよかったと思う。
ファイターズが合体したプロファイターは、ギーグルと戦っている。接近戦を得意とするプロファイターは、ファイターランスを振りかざしてギーグルを攻める。間合いを詰められたギーグルは、プロファイターの突きを見極めて、ファイターランスを掴むと肩越しに投げた。プロファイターは二回、三回と回転して空中でバランスを取り戻したが直後、ギーグルのブラスターから発射されたエネルギー弾を受けてしまう。
仲間の悲鳴にバーンビートXが振り向くと、ガーディーが「おっと」と嘲笑う。
『他人より自分の心配をした方がいいぜ』
ガーディーのナイフクローがバーンビートXの胸を攻撃する。鋭い痛みにバーンビートXは、バーニングソードで応戦、しかしガーディーは一瞬早く後退して攻撃をかわすとギーグルの隣に立つ。
プロファイターもバーンビートXの隣に並び、ファイターランスを構えるとバーンビートに言う。
『バーンビートX、トウヤはキーストーンを手に入れたようだ』
『なら、これ以上の戦いは無意味だな』
プロファイターの言葉を聞いてバーンビートXが頷くと、プロファイターはガーディーとギーグルに突撃。
単身突っ込んでくるとはあまりに無謀で、プロファイターと同じく接近戦が得意なガーディーが立ちはだかる。ファイターランスとナイフクローがぶつかりあい、金属の音が続く。プロファイターの注意がガーディーに向けられているのを見て、ギーグルはほくそえむ。彼のブラスターは、プロファイターに向けられていた。
これで終わりだ!
『プロファイター!』
バーンビートの鋭い一声に反応して、プロファイターはサッと身を引く。ギーグルの攻撃に気付いたからではない。ガーディーとギーグルがプロファイターの行動の意味を理解した時には、もう遅い。
バーンビートのエネルギーはチャージ完了!
『バーニングバードアターック!!』
炎の色をした鳥は、ガーディーとギーグルを呑みこむ。終に、二人の幹部を倒したかと期待したが、ガーディーとギーグルは逃げただけで喜ぶにはまだ早かった。
『逃してしまったか』
すうっと自分の隣に飛んできたプロファイターに、バーンビートは『ああ』と呟く。
『毎度毎度、逃げ足の速い連中だ』
『しかし、キーストーンは私達の側にある』
バーンビートが地上を見下ろし、プロファイヤーも彼にならって見下ろすと、トウヤがこちらに向かって大きく手を振っているのが見えた。もちろん宇宙生命体の彼等だからできる芸当だ。
トウヤが二人によく見えるように突き出した手には、藍色のキーストーンが握られており、トウヤが手を振る度に光を反射させていた。
残るキーストーンはついにあと一つ―――
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