バーンビート
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気温40℃を越える砂漠の中に、一際目立つ存在。3つ並んだそれはエジプト名物三大ピラミッドだ。紀元前2700年前から建造されたそれらは、再生を信じて太陽神を崇める文化の結集で、今なお多くの謎を抱えており、人々を魅了してやまない。
そんな神秘の建造物をトウヤははるか上空から見下ろしていた。
「すっげー!本物のピラミッドだ」
メンカウラー、カフラー、クフと並んだピラミッドにトウヤは大興奮。もっとよく見ようとするあまり、額が窓にぶつかっているのだが、お構いなしにピラミッドを見つめる。
『そんなに嬉しいのか?』
バーンビートが尋ねると、トウヤは「当たり前だろ!」と嬉しそうに叫ぶ。
「ピラミッドっていえばエジプトの象徴だし、世界の七不思議のひとつのなんだ。くぅうー、男のロマンをビシビシ感じるぜ!!」
興奮を抑えきれないトウヤは、自分の腿を叩いて発散させるも、それだけじゃ収まらない。できることならもっと間近で!いっそのこと、てっぺんに登ってぐるっとそこら一面を見渡そうじゃないか!
「なぁ、バーンビート!ちょっと降りてエジプト観光しようよ!」
『こら、トウヤ。本来の目的を忘れているぞ』
バーンビートが答えるより早く、シェリフから通信が入った。バーンビートとの会話は、バーンビートの通信機を通して地上を走るファイターズにも聞こえているのだ。
不意を突かれたトウヤは「うげっ」と変な声を上げる。
『エジプトに来たのはキーストーンがあるかもしれないからで、観光目的じゃない。ナイルの太陽を探すのが先決だ』
「ちぇー、それじゃ折角エジプトに来た意味ねーじゃん。つまんねーの」
四角は四角、真面目路線一直線のシェリフは、固すぎて困る。
人生山あり谷ありいろいろなんだから、たまにはハメを外して楽しんだっていいじゃないか。
トウヤのぼやきは声には出していないのに、伝わってしまったようでシェリフから『ほぅ』と冷たい声が聞こえた。
『どうやら北極の説教が足りなかったみたいだな』
「キーストーン探し頑張るぞー!!」
おーっ!と拳を掲げて意気込むトウヤ。
とんだ変りようだが、その背景にはトウヤとスカイヤーズが、前回、ホッキョクグマを見たいから北極に行ったのがばれたことにある。
シェリフから、宇宙防衛機構としての意識が足りないと大目玉をくらい、みっちりしごいてやるの宣言通り、シェリフ直々に宇宙防衛機構の規則やら心構えやら訓練やらを受けて、酷い目にあったのだ。
つーか、シェリフの奴!スカイヤーズは宇宙防衛機構だけど、俺は一般市民だっていうのを忘れてるよな!
『バーンビート、そろそろ降りてきてください。エネルギー反応があった地帯にさしかかります』
レスキューからの通信に、バーンビートは『解った』と返事をする。
『スカイヤーズ、ガルーダ。降りよう』
『『『了解』』』
バーンビートの右側を飛んでいたガルーダが翼を傾け、旋回しながら高度を落とし、反対側を飛んでいたスカイヤーズも同じように高度を落とす。バーンビートは機首を下げて着陸態勢に入る。
地上を走っていたファイターズは、先にロボットモードに変形していて飛行組が降りてくるのを待っていた。飛行組も着陸と同時にロボットモードに変形して合流。
周囲を確認すると、四方には誰もいない。誰にも見つからないのはいいが、つまんねーのとぼやいたファイヤーはあることを閃いた。
『なあ、バーンビート知ってるか?スフィンクスっていうのは、昼はただの石像だけど夜はエジプトの町を練り歩くんだぜ?』
何を言い出すのかと思ったら。ファイヤーの嘘にトウヤは呆れた。スフィンクスはただの石像、動くなんて誰が信じるものか。
バーンビートもこんな嘘に騙される筈が。
『へぇ、そうなのか。しかしあんなに大きなものが歩けば、町の人が踏みつぶされてしまうのでは?』
あった。
しっかり騙された上に、スフィンクスが動くことを心配するなんて。
これでリーダーなんだから、バーンビートの方が宇宙防衛機構としての意識が足りないんじゃないだろうか、とトウヤは頭が痛い。
『そう思うだろ?だけどスフィンクスはエジプトの守り神なんだから、町の人は逃げるどころかスフィンクスに寄ってきて握手やサインをしてもらうんだってよ』
『ううむ、そうなのか。いくら守り神だからって、自分より巨大な相手に握手を求めるとは…人間は凄いな』
『ああ、俺もそう思う。怪我するかもしれねーのにさ、人間っていうのは解らないよなぁ』
真剣に聞いているバーンビートに合わせるファイヤーだが、本当は自分の嘘にまんまとひっかかったバーンビートに、腹を抱えて笑いたい。それを必死で堪えるものだから、口元が妙に引きつっている。
気付けよ、と心の中でツッコミをいれるトウヤだが生憎、バーンビートは、スフィンクスが町を練り歩く姿を想像するのに忙しくてそんな余裕はないのだ。
本当、なんでこんな簡単な嘘にひっかかるんだろう。
生まれたのは1番昔でも、稼働時間が1番短いガルーダはファイヤーの嘘話に興味すら抱いていないようで、砂を掘るのに夢中だし(おかげで小さな山ができた)レスキューは「またか」というようにファイヤーの嘘を傍観している。
この中で比較的年下なのは、プテロンとエアホイルだが、もちろん2人はファイヤーの嘘を見抜いている。
あれ?シェリフは?
まさかシェリフも信じているってことはないよな…、とトウヤがおそるおそるシェリフを振りかえると、彼は俯いていた。どうしたんだろう?と心配になってよく見れば、彼の肩は小刻みに揺れていて、例えるならそう、怒りで肩が震えている…。
『ファイヤー!!いい加減にしないか!!』
火山が一気に爆発するように、シェリフの怒りも爆発、シェルショットも火を噴いた。
スフィンクスの嘘に加えて、ピラミッドに関する嘘も説明していたファイヤーは、鼻先を掠めていった弾丸に「わっ!?」と飛び上がる。
『お前はどうしてそうふざけてばかりなんだ!スフィンクスが仲間を呼んで朝までカラオケ大会をするなんてよく言えるな!』
そんな嘘ついてたの!?バーンビートもそれを信じちゃったの!?
すぐに嘘と解るような嘘なのに、ついたファイヤーにも信じたバーンビートにもトウヤは呆れて物が言えない。
『シェ、シェリフちょっとした冗談じゃねーか…』
シェリフの迫力にたじたじになるファイヤーだが、シェリフは許さない。ずんずん近づいてファイヤーとの距離を縮めていく。
あーあ、これじゃあキーストーン探しどころじゃないや。
シェリフの説教を受けるファイヤーをぼんやり見ていると、肩をちょいちょいとつつかれた。レスキューだ。
『トウヤ、私達もキーストーンを探しに行こう』
「私達も?」
レスキューの言葉がひっかかって眉を潜めれば、レスキューは小さく頷いて周りを見るよう促した。促されるまま周囲を見渡して、トウヤは「なるほど」と納得する。
いつの間にかプテロン、エアホイルとガルーダはキーストーンを探しに行ってどこにもいないのだ。残っているのはトウヤとレスキュー、それに説教をするシェリフとされるファイヤー、宥めるバーンビートだけ。
レスキューはビーグルモードに変形すると、運転席のドアを開けた。
トウヤは迷うことなく飛び乗ると、ドアは閉まり、シートベルトが装着されて出発する。
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