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バーンビート
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春には優しく包み込んでくれた日差しも、まるで肌を刺さんばかりに強くなる。朝からひっきりなしに聞こえるセミの鳴き声が暑さをいっそう際立たせていて、お願いだから少し黙ってくれないかと無理な願いを思う季節、夏。

子供にとっては1年で1番嬉しい休み、夏休みが始まっていた。


これで自由レポートがなかったらいいのに。


トウヤは毎年夏休みに出される自由レポートが嫌で仕方ない。
自分の興味があるものについて調べるというこの宿題には毎年毎年悩まされていて、今回もどうしようかと悩んでいたらカズキ、ソウタ、アヤメに一緒にやらないか?と誘われた。

断る理由なんて全くないトウヤは即座に頷いて、夏休みの初日を市立図書館、しかも開館と同時にやってきて事前に決めたレポートのテーマであるエジプト文明に関する資料集めに勤しんでいる。


「エジプトの本、エジプトの本、っと…」


ずらりと並んだ本棚を見上げて、自由レポートに使えそうな本はどこだ?と本の背を指で辿っていく。

片っぱしから探すのは面倒だけど、普段、図書館なんて来ないからどの本がどこにあるのか見当もつかない。こんなことなら、ソウタにどの辺りを探せばいいか聞いてくればよかった。


「あ、『エジプトの伝統と遺産』だって。これでいいんじゃねーか?」


見つけた本を手にとって、適当なページを開くと、うん、それっぽい。
エジプトを代表するピラミッドやスフィンクスのことも書いてあるし、ナイル川での儀式もあって、これ一冊でもいいのが書けそう。

トウヤはウキウキと上機嫌で、カズキ達が待つ学習コーナーに戻っていった。


「トウヤ君、おかえり。いい本見つかった?」


トウヤを見るなりソウタは尋ねて、トウヤは「もちろん!」と得意げになって本をソウタに渡す。
座る傍ら「本当に見つかったのか?」とカズキがからかうように言ってきたので、トウヤは「本当だっつーの!」とムキになって返す。


「俺だって本の一冊や二冊、見つけられるさ。それよりカズキはどんな本を探してきたんだよ」
「俺か?俺はこの本だ」


じゃん、と自ら効果音を担当して出したのは『エジプトの伝説』という本で、一体これのどこに、そこまで自信たっぷりに言えるんだろうと不思議でならない。

するとトウヤの考えている事が伝わったのか、カズキはページをめくって「ここ読んでみろよ」と本を開いたまま渡す。受け取ったトウヤは、何があるのか期待半分、どうせ大した事ないんだろうと失望半分で開かれたページを読む。


「えーっと?『エジプトにはナイルの太陽と呼ばれる伝説の石があり、緑に輝くその石を手にした者は富と権力もその手に納める』へー、富と権力か、男のロマンだな!」
「だろ?ナイルの太陽って名前もワクワクしないか!?」
「するする!ナイルの太陽かぁー。どんな石なんだろうなぁ」
「きっと、すっげーデカくて、すっげーキラキラしてて、おまけにすっげー高いんだぜ」


トウヤとカズキがどんどん盛り上がるのを、呆れ顔で見ているアヤメ。頬杖をつく彼女は「どうして男子ってこうなんだろう」と2人を年下に見ていた。

そんなアヤメの隣で、トウヤが持ってきた本を見ていたソウタが「それって多分、ペリドットのことだよ」と一言。
ナイルの太陽の正体をあっさり言われたトウヤとカズキは「へ?」と2人揃って間抜け顔でソウタを見る。


「エジプトって太陽神を崇めているし、古代エジプト人はペリドットの事を『太陽の宝石』って呼んでいたんだ。だからきっと『ナイルの太陽』はペリドットのことだよ」
「ぷっ、トウヤ君もカズキ君もすっごく間抜けな顔しているわよ」


我慢できないと笑いだしたアヤメ。トウヤとカズキはアヤメに笑われたことでさっきまでの興奮が一気に冷めきってしまい、カズキに至っては「煩い!」と恥ずかしさを誤魔化すように怒った。ムキになるあたり、アヤメに「子供っぽい」と言われて、更に恥ずかしいことになるのだけれど。

トウヤも恥ずかしくなって、どの項目を自由レポートに使おうか一生懸命に探す。何度かページをめくると古代エジプト人が使っていた象形文字や記号のページに移り、目に入った記号の一つに思わず大声をあげてしまいそうになった。


「(あれってバーンビート達の古代文字じゃねーか!?)」


寸でのところで堪えると、トウヤはもう一度写真を見ようと大きく深呼吸をする。
だってほら、もしかしたら見間違えかもしれないし。

気持ちが落ち着いたところで、もう一度写真の記号を見てキーストーンと石板に書かれていた古代文字を思い浮かべて比べてみると、ますます両者は同じに思える。

うっわ、こんなことってありえるの?

旭町には8819プロジェクトの石板、インドにはガーディアンのガルーダ、世界各地にはキーストーン。
そしてエジプトの古代文字。

バーンビート達の祖先、結構いろんなところに痕跡残してくれるじゃねーか。いくらその時に生物がいなかったからって、好き勝手しすぎだぞ。


「トウヤ君、どうかした?」
「ええ!?何でもないよ、ははははっ」


随分ぎこちない笑い方に、アヤメはまだ腑に落ちないようだが、これ以上つつかれてはマズイ。何とかしようと、トウヤは慌ててソウタに話を振った。


「な、なぁソウタ。ナイルの太陽について他に何か知っているか?」
「うん。と言うより、トウヤ君が持ってきた本にも書いてあるよ。ナイルの太陽をめぐる争いが起きるようになり、多くの血が流れ、王はこれ以上の犠牲を出さないよう、ナイルの太陽をどこかに隠したって」
「で、隠された場所っていうのは?」


ナイルの太陽に負けず劣らず目を輝かせるカズキだが、ソウタは残念そうに首を横にふる。


「今まで多くの考古学者やトレジャーハンターが探したけど、見つからなかったみたいだよ。王様が誰にも見つからない場所に隠したんだから当然だよね」


ソウタの話からナイルの太陽が見つからないと解ったカズキは、途端に男のロマンを感じなくなったのか「なーんだ」とつまらなそうに机に寝そべる。
だらけきったその態度にアヤメが注意をしても右から左へ抜けていく。


「(ナイルの太陽、か…)」


輝く緑の石。古代文字もあることだし、このパターンでいくとキーストーンとみて間違いないだろう。

バーンビートに言っておくか、トウヤはカズキ達に気付かれないようにブレスのボタンをこっそり押した。




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あきゅろす。
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