バーンビート
2
「プテロン。お前とエアホイルが北極に行きたいって言った理由って、ホッキョクグマに会いたいからだろ?」
基地を飛び出してから暫く、答えが解っているくせに尋ねるトウヤに、プテロンは『もっちろん!』と楽しげに答えた。バーンビートが話す時のように、プテロンが話す度に計器が揺れている。
『そういうトウヤもでしょ?』
「へへ、当たりー。なんたってホッキョクグマは、陸の肉食動物の中で1番大きいんだ。北の王って呼ばれているんだぜ?」
『「男のロマンじゃないか!」』
仲良く声が重なって、2人はケラケラと笑い転げた。すると、こっちの楽しげな様子が伝わったのかエアホイルがすぅーっと機体を回転させて、並んで飛ぶ。
『ねーねー!ホッキョクグマってどれくらい大きいのかな?』
『大きいって言っても、人間との比較だから僕達よりは小さいよね』
もしこの会話をシェリフが聞いていれば、彼の雷が落ちたに違いない。しかし彼はバーンビート達と一緒に地球の反対側、南極に向かっているので、そんな心配するだけ無意味。
ストッパーのない会話は、どんどん加速していく。
『僕、ホッキョクグマと相撲してみたいなー。でもって絶対勝つ!』
「相撲って…プテロン、意外な趣味だな」
『はいはーい!僕はホッキョクグマに乗ってみたい!ガルーダはホッキョクグマに会ったら何をしてみたい?』
くるりと回転したエアホイルは、ガルーダに尋ねた。すっかり遠足気分で、本来の目的であるキーストーン
ガルーダは暫く間を置いた後。
『ホッキョクグマ、何?』
プテロンとエアホイルの高度が、がくんと下がった。
「うわー、ここが北極か!」
プテロンから降りたトウヤは、まず歓声をあげた。
見渡す限りどこまでも氷が続く白い世界。トウヤとプテロン、エアホイルは美しい氷の世界に溜息をもらした。
はー、と息を吐けば白い靄が。日本は夏でも、北極に季節はないのだ。
「このどこかにキーストーンがあるかもしれないんだよな」
周囲を見渡しながら、トウヤはブレスのスイッチを押してキーストーンの反応を調べた。
キーストーンは活性化している時だけではなく、不活性化でも反応はする。ただ、不活性化の状態では反応も微弱な為、ある程度近くまでいかないとレーダーに捕らえられないのだ。
レーダーモードに変った文字盤は、中心にトウヤを示す赤い点を写すだけ。どうやらこの近辺にはないらしい。
「とりあえず、始めようぜ。一応、来たからには探さないとな」
『だよねー。じゃあエアホイルはこっち、ガルーダはそっちを。僕とトウヤは向こうを探すよ』
「え?なんで俺はプテロンと一緒なんだ?」
プテロンの指示に返事をするエアホイルとガルーダの傍ら、トウヤは自分を指差して尋ねた。探索エリアは広いのだから、1人でも人手を多くして4人バラバラで探した方が早いのではないか。
『だってトウヤは人間だから、もし何かあったら大変じゃん?』
『この辺りはアザラシが出入りする穴もあるみたいだし、その穴に落ちたらいくらレスキューのスーツ着てても溺れちゃうよねー』
『それよりまず息が続かないし』
あははは!と相変わらず、トウヤにとっては笑いごとではないことに笑ってくれる。毎度のことすぎてトウヤ本人も、一緒に笑っているのだから慣れって怖い。
愉快そうに笑うトウヤ達を、ガルーダは何も言わずに見ていた。
『……』
「ん?ガルーダ、どうかしたか?」
到着してから一言も喋らないガルーダを不思議に思って、トウヤが尋ねると、ガルーダは『アレ』と少し離れた場所を指差した。
目を凝らすと、雪の中に青く輝くキーストーンが!
「マジかよ?やったー!」
到着して早々、キーストーンを発見できたトウヤは、嬉しさのあまり走りだした。キーストーンを埋めている雪を払いのけてやると、今までに見つけたのと同じ、ひし形の形をしたキーストーンが露わになる。
キーストーンゲット。今日はガルバトロス達の邪魔も入らないし、楽勝だったな。
トウヤがキーストーンに手を伸ばしかけると同時に、影が降りた。
え?何?と顔をあげてみたものは。
「ホ、ホッキョクグマ!?」
トウヤが顔をあげた先にいたのは、北の王ホッキョクグマ。しかも身の丈5mはゆうに超える巨大なホッキョクグマだ。恐らく立ちあがった背の高さはプテロンとエアホイルとそんなに変わらない。
男のロマンだと憧れていた動物の登場に、感動するかと思いきや血の気が引いて真っ青になったトウヤは、恐怖に固まって指1本も動かせない。
だって大きすぎる!
「プテロン!なんでコイツこんなに大きいんだよ!?」
なるべく刺激しないようにと小声で叫ぶトウヤ。寒い北極なのに、背中は嫌な汗でびっしょりだ。プテロンは腕を組んで考えだして、エアホイルも顎に手を置いて考えて。
『『解んなーい』』
期待した俺がバカだった!
あはー、と間抜けな笑顔さえみせる2人に、トウヤは涙を流した。
俺の人生もここで終わりか。短かったなぁ…。
いい思い出、悪い思い出の両方が走馬灯のように浮かんで、これ完全に死亡フラグじゃね?と思っているとホッキョクグマは、トウヤと自分の間にあるキーストーンに気付いて、興味深そうに匂いを嗅ぎ出した。
嫌な予感がする。
スンスンと鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぐホッキョクグマを見て、トウヤはそう感じ、プテロンとエアホイルの方を振り向くと彼等もトウヤと同じく嫌な予感がするのか、訝しげにホッキョクグマを見つめている。
ガルーダは…何を思っているのか解らない。
『トウヤ、この雰囲気って…』
「俺もエアホイルと同じ事考えてる」
相談しなくたって解るこの後の展開に、トウヤは頷くとまだ匂いを嗅いでいるホッキョクグマに視線を戻した。ホッキョクグマはキーストーンを鼻でつつき、軽く揺らした次の瞬間、ぱくりと加えて飲み込んだ。
キーストーンがホッキョクグマの口に消えた瞬間、トウヤとスカイヤーズは「やっぱり!」と自分達の予想通りの展開に溜息をつく。ガルーダは何も言わずに見ていた。
キーストーンを食べてしまったホッキョクグマは、ゆっくりと向きを変えると、巨体を揺らしながら元来た道を戻っていく。残されたトウヤ達は無言でその背中を見つめて、十分に距離ができたところでようやく口を開いた。
「キーストーン…食べられたな」
『色が青だったから魚にでも見えたのかな…』
「青魚は健康にいいんだってよ。…それで、どうする?」
折角見つけたキーストーンは、ホッキョクグマの腹の中。そう簡単には取り返せないぞと呟いたトウヤに、プテロンは『そんなの決まってるよ』と簡単に答えた。
「何かいい考えがあるのか?」
プテロンに期待をよせるトウヤ。だが、その期待とは裏腹にプテロンはその場に座り込む。続いてエアホイルも座る。
それで終わりだ。
「で、どーするんだよ」
座って終わりじゃキーストーンは手に入らない。第一、早く追いかけないとホッキョクグマ自体、見失ってしまうかもしれないのだ。
すでに見えるか見えないかくらい離れてしまったホッキョクグマとプテロン達を交互に見やるトウヤは、気が気でならない。
そんなトウヤに、プテロンは大丈夫だとひらひらと手を振るだけ。
『食べられちゃったものはしょうがないし、自然にでてくるのを待つしかないよ』
「自然にって…げぇっ!いくらキーストーンだからって俺、絶対そんなの触らないからな!」
プテロンの案を全力で却下するトウヤは、すぐさま別案を求めてガルーダを振りかえった。
「ガルーダ!何かいい考えはないか!?」
『プテロン、エアホイル、ホッキョクグマヲ押サル。ソノ間ニ口ヲ広ゲテ、キーストーンヲ引ッ張リ出ス』
「ダメに決まってるだろ!」
ぐっと拳を握りしめてガルーダは気合い十分。実力行使にでるつもりだが、トウヤは全力で待ったをかける。正義の味方がそんなことしていいと思っているのか!
ガルーダの案もあえなく却下。全く進まないこの状況に、溜息をつくトウヤ。その背中には哀愁が漂っていた。
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