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バーンビート
2


アヤメの注意も一歩遅く、トウヤは誰かにぶつかった。完全にトウヤの前方不注意、ぶつけた鼻を摩りながら相手を見ると、発掘現場にはそぐわない軍服。防衛軍の人だ。

軍人らしい厳つい体格と表情に、ぶつかったトウヤは勿論、カズキ達もしりごみしてしまう。


「ご、ごめんなさい」
「こっちこそぶつかって悪かったな。大丈夫か?」


そう言ってにっ、と見せた笑みに、肩の力は抜けた。恐いのは見た目だけで中身は優しそう。トウヤ達も笑顔を見せた。


「はい、でも防衛軍の人がどうしてここに?」
「ここはロボット達が最初に現れた場所の近くだからな。パトロールコースに入っているんだ」
「そういえば柊先生も言ってたな。軍の人が来るって」


頭の後ろで手を組んで言うカズキに、トウヤ達も確かにと頷いた。

この旭町には多くの防衛軍が待機している。外に出れば必ず見かけるし、本物の戦車のすぐ隣を通った事もある。最初の頃は滅多に見れない軍にはしゃいでいたトウヤだが、最近では監視されているような気分でどこか落ち着かない。
防衛軍は自分達を守ってくれるのだと誰もが言っても落ち着かない大きな理由は、自分だけが謎のロボット達の正体、宇宙防衛機構のバーンビート達だと知っているからだろう。

トウヤはさりげなく手をポケットにつっこんで、ブレスを隠した。


「橘さーん」


後ろから聞こえる声に振り向くと、防衛軍の人がもう2人いた。さっき呼んだ橘とはこの人のことなんだろうな、とトウヤ達は目の前の彼を見やると、手を上げて応えていたのでやっぱりそうだと確信する。


「もう行かないと。それじゃ、またな」
「「「「さようなら」」」」


仲間たちの元へ向かう彼に手を振って見送れば、彼も同じように手を振ってくれた。自分達が歩き出すまで手を振り続けてくれる彼は、やっぱりいい人だと改めて思った。

十分離れたところでカズキが「なぁなぁ」と喋り出した。どうやら、さっきの防衛軍の人を随分気に入ったようだ。


「防衛軍の人ってもっと怖い人達ばかりだと思っていたけどさ、案外優しそうな人もいるんだな!」
「そうね。私、ロボット達が現れたら、真っ先にあの人に言うわ」
「僕も。それにあの人、通学路の辺りによくいるし」
「え、ソウタ、それ本当?」


反射的に尋ねたトウヤにソウタは頷いた。


「うん。登下校の時に見るよ。昨日も学校の坂の下にいたし」
「へぇ、そうなんだ。それじゃあ、俺も何かあったらあの人に言おっと」


頭の後ろで手を組んで、上機嫌のトウヤだが、内心は冷や汗がだらだらとでていた。防衛軍がすぐ周りにいるのは元から解っていたが、改めて言われるともっと近く、今も後ろにいるんじゃないかと気がかりになって仕方ない。

今まで特に気にしていなかったが、今度からは気をつけないと。一体、いつどこでバーンビート達の存在に気付かれるか解ったものじゃない。


「(あーあ、なんで俺がこんな気持ちにならなきゃいけないんだ)」


隠し事がこんなに大変だとは思いもよらなかった。秘密基地にいるバーンビート達がまったくもって恨めしい。

沈んだ気持ちを少しでも明るくさせたくて空を見上げると、戦闘機を2機見つけた。その戦闘機は片方が青い色で、もう片方が水色なのは気のせいだろう。

なんとなく目があったような気がするのも気のせいだ。

翼の下から腕が出てきて、地上に、トウヤに手を振っているように見えるのも気のせいだ。


――あっれー?なぁエアホイル、もしかして僕達に気付いてない?
――おかしいな。そうだ!プテロン、もうちょっと高度落としたら気がつくかもよ
――あ、それいい!


なーんて会話が聞こえてくるのも気のせいだ。

だってバーンビートの仲間で、戦闘機に変形できるプテロンとエアホイルは、人間に見つかってはいけないと宇宙防衛機構の規則に定められている為、その正体は絶対秘密なのだ。こんな防衛軍がパトロールしているすぐ上を飛んでいる筈がない。いくら秘密基地で待機しているのが暇で暇で仕方ないからって、ちょっと羽を伸ばしに、なんてことをしていい筈がない。


「(つーか、あれシェリフとファイヤー、それにレスキューじゃん!!)」


遠くに見えるは、まごうことなきファイターズ。今日も今日とてシェリフがサボり癖のあるファイターに業を煮やして説教をして、それをレスキューが必死に宥めている。それを見たトウヤは頭が痛い。

ああ、一体どこに顔を――もといボンネットを見合わせるパトカー、消防車、救急車があるのだろう。

ここにリーダーであるバーンビートがいないのがまだ救いだ。彼までいたら、本当に人間には正体を隠す気があるのか疑うところだ。
っていうか、バーンビートまでここにいたら俺の知っている事全部、大声で叫んでやる!生中継の全国ネットで叫んでやるぞ!

はぁ、とトウヤが肩を落とした向こうで、実はファイヤーウィングとドッキングして遊覧飛行するバーンビートがいたのだが……知らない方がいいだろう。


「トウヤ、どうかしたか?」
「いや、カズキなんでもない…」


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