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バーンビート
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雲ひとつないまさに青天と呼ばれるこの日、旭小学校5年3組の生徒達は課外授業で発掘現場にやってきた。

遥か昔、先人達が残した遺物。少し前までは、この旭町始まって以来の大発見、歴史的観点からも貴重な発掘だと世間を騒がせたが、この頃は突如現れた謎の巨大ロボット達にその座を奪われて、その存在をすっかり忘れられていた。

男のロマンだなんだと胸を熱くさせたトウヤですら、遺物の存在をすっかり忘れていて、そういやそんな事もあったなーと頭のどこか隅の隅の方で思い出しつつ、担任の柊の話を聞いていた。


「現場には発掘品の他に、調査の為の機材もある。調査員の人達が掘った穴なんかもあるから、十分気をつけるように。もちろん、調査員の人達の邪魔はしない事、いいな」


念押しして言えば、「はーい」と声を揃えて返事をする生徒達。それを聞いて頷いた柊は、隣にいる調査員を振りかえって、どうぞと自分の場所を差し出した。

場所を差し出された調査員は、何度も頭をさげながら一歩前に進んで、生徒達をぐるりと見渡す。腰が低くてなんだか頼りない感じがするが、この発掘チームで1番偉い人なんだってよ、と隣にいるカズキが囁いた。


「えー、私がこの発掘チームの隊長で、明常大学教授の日比野勝也といいます。皆さん、よろしくお願いします」


仄々とした彼の笑顔につられて、子供達もにこりと笑みを返す。

あー、なんだか縁側で日向ぼっこしているみたい。

そう感じたのはトウヤだけではないだろう。のんびりした雰囲気の中、日比野による今回の発掘調査に関する話が始まった。


「今回発掘されたこの鏡、これは紀元前のものである儀式に使われたものだと判明しました。昔の人はこの鏡に神が宿ると考えて、祭っていたわけですね。例えば、皆さんは卑弥呼という女性を知っていますか?彼女はかつて邪馬台国という大きな国を治めていました。その時、彼女は鏡を使う事で――」


右から左にすぅーっと抜けていく。
だって聞いていても訳が解らないのだから仕方ないじゃないか。

こっそり周りの様子を伺えば、アヤメの頭は時々揺れていて、眠らないように睡魔と必死に戦っているのが解る。担任の柊もあくびをかみ殺して眠気と戦っていて、他の生徒達も似たようなもの。カズヤに至っては、寝息を立てる熟睡っぷりだ。

誰も聞いていない…と思いきや、一人だけ日比野教授の話を熱心に聞いている生徒がいた。

一言も聞きもらすまいと耳を大きくして、更にメモをとっているソウタに、こういやコイツがいたか、とトウヤは苦笑する。発掘された当初はあまり興味を示していなかったが、発掘品が徐々に増えていくにつれて彼の関心も高まっていった。

最初から騒いでいたトウヤ?

そりゃあ、発掘された瞬間から男のロマンだと騒いでいたのだ。勿論、大いに興味を抱いている。しかし長い話を聞くのはどうも苦手で、早く発掘現場を見に行きたいと、段々重くなってくる瞼を必死に堪えていた。


「教授ーっ!!」


一体いつになったらこの話は終わるんだよ。誰もがうんざりしている長い長い講義を、調査員の声が打ち破った。突如割り込んできた調査員に全員の注意が向けられる。何か重要な出来事があったのだろうか。

全速力で走ってきた調査員は、日比野教授に辿りつくと、息を整えるのも間も惜しい様で肩を弾ませながら報告する。


「新たな、遺物が発見されました。今度のは、とても大きく、建造物みたいです!」


顔が赤いのは何も走ったからではない。興奮を抑えきれない彼は、早く実物を見てほしいと日比野教授の腕をひくと、もの凄いスピードでそのまま発掘現場に連れて行ってしまった。

残された5年3組の生徒達はポカンとした顔で、どうすればいいものかと揃って柊を見ると、柊自身もこの状況をどうしようかと頭を掻きながら考える。


「とりあえず…俺達も行ってみるか」


抑揚のない声は、本当にとりあえず考えただけなのが丸分かりだったが、それでも発掘現場を見にいくのには変わりない。発掘現場を間近で見れるチャンスに、トウヤは内心、拳を突き上げた。

新たな発掘品!これぞ男のロマン!!

調査員が報告した新たな発掘品とは一体どんなものだろう。列の1番後ろを歩いているトウヤ、カズキ、ソウタ、アヤメの4人は考えを巡らせる。


「あの調査員、建造物って言っていたけど家ってことか?」
「うーん、儀式に使われていた鏡が見つかっているんだし、家じゃなくて神殿とかじゃないかな。あと、祭壇とか」
「なんにしても!男のロマンだよな!!」
「トウヤ君ったらそればっかりね」


クスクスと笑うアヤメだが、彼女もワクワクしている。ただそれを表立ってみせないのは、はしゃぐのは子供のする事と思っているから。
いつもなら、ちょっとお姉さんぶったアヤメの態度にムッとするトウヤだが、今はそんなことも気にならない程に浮かれている。今にも小躍りしそうな雰囲気だから、前に人がいることも全く気付かない。


「あ、トウヤ君!前!」
「へ?わっ!」



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