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バーンビート
1


あー…これって現実?それともまだ夢の中?


トウヤは自分の頬をつねって、痛みを感じるとようやくこれが現実だと受け止めた。もっとも、彼としては受け止めたくなかったが痛みを感じた以上、これはどうあがいても現実なのだ。


『どうだ?トウヤ。ここが私達の基地だ』
「うん、いいんじゃない?」


そうだろ?と得意げに笑うバーンビートに、それ以上何も言う気が起きなくて、脱力する。
日曜の朝早く、バーンビートから「ちょっと外に出てこれないか?」という通信を受けて窓の外を見ると、バーンビートがそこにいた。
これには一発で目が覚めた。

バーンビートは、真っ赤なボディに流線形が美しいスポーツカーと融合している。そんな車が住宅街、それもこんな朝早くの風景には全く持って不釣り合いだ。目立ち過ぎる。

控えめにではあるが、クラクションを鳴らしたバーンビートにせめてライトにしてくれ!とか大人達にばれちゃまずいんじゃなかったのかよ!とか、いろいろ言いたいことはあったが、とにかく誰かに見つかる前に家から離れなければという思いから、トウヤは急いで家を飛び出した。その時間は間違いなく最短記録だったが、だからと言って喜んでいる暇はない。

阿吽の呼吸で運転席のドアを開けたバーンビートに、文字通り飛び乗って、連れてこられたのがここ。今は使われていない古い地下トンネル。

しかし、その地下トンネルはもう地下トンネルとは呼べない程、様変わりしていた。
いくつものコンピューターと巨大モニターが並んでいて、コンクリートむき出しの壁にはいくつもの太いケーブルが束をなして這っている。
SF映画でしか見た事のない秘密基地に、トウヤは足を踏み入れていた。


『あ、バーンビート!トウヤ!』
『ねぇねぇトウヤ。僕達の基地、凄いでしょ』


トウヤに気がついたプテロンとエアホイルは、嬉しそうに基地を自慢した。自分達も頑張って基地づくりをしたんだと言う2人は、まるで人間の子供の様。

入った時は、現実逃避で忙しかったが落ち着いて見ると、確かに凄い。2人が自慢したがるのもよく解るので、トウヤはにっこりと笑って答えた。


「うん!まるで映画の中に入ったみたいだ!」
『でしょ?本当はね、早くトウヤに見せたくて、僕かプテロンがトウヤを迎えに行こうとしたんだ。でもバーンビートがダメだって言ってさ』


そこまで言うとエアホイルは頬を膨らませた。よほど、バーンビートにダメだと言われたのが不満らしいが、トウヤはバーンビートに感謝している。

確かにバーンビートに迎えてもらうよりも、空を飛べるプテロンかエアホイルに迎えてもらう方が早く着くだろう。しかし、だからと言って住宅街にジェット機を着陸させるのはごめんだ。
プテロンもエアホイルも、バーンビートから他の人達には内緒だと言われなかったのか疑問に思う。

いや、でもバーンビートも結構人目をひくような事をしているから、どっちもどっちか。


『それではスカイヤーズ。トウヤを頼む』
『『はーい』』


先生のいいつけを守る生徒よろしく、手を上げたプテロンとエアホイル。次の瞬間、トウヤはプテロンにすくい上げられ彼の手のひらに座っていた。このまま基地を案内してくれるらしい。


『トウヤ小さいし、うっかり踏んじゃったら大変だもんね』
『ぷち、ん?ぎゃー!!じゃシャレにもならないよ』


あはははは!と愉快そうに笑うプテロンとエアホイルだが、トウヤにとっては笑いごとではない。乾いた笑みで返すトウヤにシェリフが声をかけた。


『やあトウヤ。来ていたんだな』
「おはよう、シェリフ。なぁキーストーンってどうなったんだ?」
『まだ解読中だ。こっちにおいで、レスキューとファイヤーが解読しているよ』


そう言って歩き出したシェリフの後をトウヤはついていき――正確にはプテロンについてもらってだ――キーストーンの解読作業を行っている場所へ行った。

台座に置かれたキーストーンは光り輝き、その表面に刻み込まれた文字を頭上に映し出している。光を受けているだけで活性化はしていないらしいが、それでも輝くキーストーンはきれいで思わず見とれてしまう。
その映し出された文字をレスキューとファイヤーが解読しているのだが、コンソールに肘をついているファイヤーは、どうみたって解読に匙を投げているようにしか思えない。これにはシェリフも予想がついていたのか、呆れるような溜息を漏らす。


『ちょっと目を離すとこれだ。ファイヤー、ちゃんと解読作業をするんだ』
『んなこと言ったって、こんな古すぎる文字どうやって解読しろっていうんだよ』
「そんなにその文字って古いの?」


ファイヤーの言葉に、トウヤは顔を上げてプテロンに尋ねた。


『うん。とっても古いんだ。今よりずっとずっと昔に使われていて、もう伝説級だよ』
『僕達の惑星って無駄に長い歴史だから』


混ぜっ返して笑うエアホイルにトウヤは「ふーん」と納得する。なんとなく感じていた事だが、やはり自分達とバーンビート達では、生きている年数がかなり違うらしい。
これぞ異文化コミュニケーション。


と、突然正面のモニターが赤く光り出した。コンソールに向かったシェリフが慌ただしくキーをたたけば、モニターにウインドウが開かれて、トウヤの知らない文字、バーンビート達の惑星の文字だろう――が羅列している。


『バーンビート、キーストーンの反応だ』


シェリフの言葉に緊張が走る。

バーンビート達はガルバトロスの企みを阻止するために地球にやってきた。
しかし今のところ、ガルバトロスの動きで解っているのは、彼等がキーストーンを探しているということだけ。キーストーンにどんな能力が秘められているのか、刻まれた文字は何を意味しているのか依然として謎は多いが、ガルバトロスに繋がる糸はこれしかない。
全員が固唾をのんで、シェリフの次の言葉を待った。


『…だめだ途絶えてしまった』


肩を落とすシェリフに、誰もが落胆の息をついた。

キーストーンが活性化したのはほんの一瞬で、場所を特定する前にエネルギー反応が途絶えてしまったのだ。それでもシェリフはその僅かな反応から、エネルギー発信源のおおまかな位置を特定した。

モニターに広がる世界地図上に、一カ所だけ赤く点滅している。中南米、そこはジャングルだ。


『すまない、これ以上の絞り込みはできなかった』
『十分だシェリフ。よし、今からジャングルに向かうぞ。トウヤ、ついてきてくれるか?』
「もちろん!」


バーンビートに言われなくたって、トウヤは最初からそのつもり。ジャングルといえば冒険の宝庫、男のロマン!
くぅー、たまらない!

トウヤが期待に痺れる隣で、ファイヤーが自分を指差して言った。


『バーンビート、俺も行くぜ』


やる気満々のファイヤーだが、彼の場合は解読作業という、デスクワークが嫌で逃げたいのが丸解りで、途端にシェリフが真一文字に口を結んで厳しい顔つきになる。


『ファイヤー、お前ってやつは!』
『いいじゃねぇか。な、バーンビート』


シェリフを遮って言うファイヤーに、どれだけ解読作業が嫌なんだよとトウヤは呆れる。そしてバーンビートの出した答えは。


『スカイヤーズは私と一緒にジャングルに飛んでくれ。ファイターズはそのまま解読作業を頼む』
『『やったー!』』
『そんなっ!』


途端にあがる歓喜の声と抗議の声。もちろん、前者はスカイヤーズからで後者はファイヤーからだ。隊長の判断にも関わらずもう反対をするファイヤーに、とうとう我慢ならないとシェリフのシェルショットが火を噴いた。


『指示に従え!』
『おう……』


実力行使とはこのこと。
背中に受けたシェルショットの痛みを我慢しつつ、解読作業に戻ったファイヤーにトウヤはご愁傷様と思わずにはいられない。加えてシェリフだけは怒らせてはいけないな、と横目で彼を見上げた。

腕を組んで仁王立ちしているシェリフはそれはもう大層な迫力で。何があっても彼の逆鱗に触れてはならないと身震いした。


『トウヤ、ジャングルに行く前にこれをあげよう』
「何?何?」


ちょいちょいと手招きをするレスキューに飛び移ると、レスキューは銀色の棒の様なものをくれた。受け取ったはいいが、一体何に使うんだろうとトウヤはさまざまな角度から眺めたが、さっぱり解らない。お手上げだ。何に使うのか見当もつかなくてレスキューを見上げると、答えを教えてくれた。


『圧縮酸素ボンベだよ。普通の酸素ボンベ100本くらいあるかな』
「え!?こんなに小さいのに!?」


レスキューは事なし気に言っているが、トウヤは驚きだ。
受け取った酸素ボンベは手の平に収まる大きさ、普通の酸素ボンベより遥かに小さいこれに、100本分の酸素が詰め込まれているなんて信じられない。


「ありがとう!レスキュー!」
『どういたしまして。気をつけて行ってくるんだよ』


任せてよ!親指をたてて返事の代わりにすると、レスキューも同じように親指を立てた。


『トウヤ、行くぞ』
「解った!」


酸素ボンベをポケットに入れて、バーンビートに乗り込んだ。

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あきゅろす。
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