バーンビート
2
ひし形の結晶、キーストーンは、見つけた時のように発光していなかったが、それでも光を反射してキラキラと輝いている。綺麗だなぁ、とトウヤが思っているとバーンビートは「ん?」と声を上げた。
「どうした?バーンビート」
『その結晶に刻まれている文字は、遥か昔、私達の惑星で使われていたものだ。どうして地球に…』
「え?それじゃこれって宇宙文字!?」
それってすっげー男のロマンじゃん!
一気にテンションが上がったトウヤは、さまざまな角度からキーストーンを眺めて、バーンビートに尋ねた。
「で?これって何?何て書いてあるの?」
『解らない』
ま た か よ
本日2度目となるその言葉に、トウヤのテンションは急降下した。
宇宙の危機だって言うのに、戦うのが解らないづくしの宇宙防衛機構で本当に大丈夫か?
「なぁ、バーンビートの他に誰かいないの?」
お願いだからいてほしい、という強い色合いを含んで尋ねるとバーンビートは「もちろん」と答えた。
『彼等も私と同じように地球の機械と融合している筈だ』
「融合?」
『そうだ。私達は君達と違って、自分達の精神を機械に融合することができる』
それを聞いて成程とトウヤは納得した。
バーンビートが現れてから、どうしてあのスクラップ車が新車同然に変っていたのか不思議で仕方なかったのだが、バーンビートが融合したからと解ればそれで説明がつく。
曇りの全くないガラスに触れて、暫く文字通り生まれ変わった感触を確かめる。
「でも、相手の狙いが解らないのに、どうやって戦うんだ?」
ひとりでに開いたダッシュボードにキーストーンを入れて、トウヤは疑問に思った。おまけにバーンビートは地球にきて日が浅い。自分達の惑星とは全く勝手の違う地球で、どうやって情報を集め、戦うのだろうか。
『そこでトウヤ。君に頼みたいことがあるんだ』
「俺に?」
自分を指差して尋ねると、バーンビートのスピードメーターが動いた。無言だったが「YES」らしい。
『私達はこの惑星にきたばかりで、ここの事をよく知らない。だから任務を遂行するために掛け橋になってくれないか。それと、ガルバトロスの気配や異変を感じたらすぐに知らせてほしい』
「オーケー、オーケー。なんだか面白そうじゃん」
ロボットの宇宙人と友達になった小学生なんて滅多にいない、って言うか自分が初めてに決まっている。そう考えただけでトウヤの胸はワクワクした気持ちでいっぱいになる。
嬉しくて仕方ないトウヤに、バーンビートはスピードメーターを動かした。
『では君といつでも連絡ができるように、それに新たな機能を加えよう』
それってどれ?と反射的に考えたトウヤだが、なんとなくバーンビートが自分の腕時計を見ているような気がした。勿論目なんてどこにもないから、あくまでも、そんな気がするだけなのだが。
一応、腕時計をスピードメーターに見せるように腕を上げると、メーターが動いた。やっぱりこれなのか。
そう思った瞬間、スピードメーターから赤い小さな光が飛び出して、見ている間に腕時計に吸い込まれた。
一瞬の閃光、反射的に目を瞑った。
恐る恐る目を開けてみると、トウヤのありふれたオレンジ色の腕時計は赤い色に、しかも五角形を逆さにしたような形に変っていた。それがバーンビートのエンブレムだとも気付く。
「バーンビートこれって?」
『少し改良させてもらった。それを使えばいつでも私と連絡がとれる』
「へぇー。なんか正義のヒーローって感じでかっこいいじゃん」
いろいろな角度から時計を眺めて、トウヤははしゃぐ。
明日、学校に行ったらカズキ達に自慢してやろう。絶対羨ましがるに違いない。
浮かんだ3人の顔に、トウヤはへへっと笑った。
『それともう1つ、これはとても重要なことだが』
「まだ何かあるの?」
今度はどんなワクワクが待っているんだろう、と目を輝かせるトウヤだが、バーンビートの言葉はその期待を裏切った。
『私達のことは誰にも言ってはいけない秘密だ』
「何で!?」
思いがけない言葉にガーン、とショックを受ける。
せっかく明日皆に自慢してやろうと思っていたのにこれはなんだ。酷いじゃないか。
子供の気持ちは純粋かつ、繊細なんだぞ!と心で叫ぶトウヤにバーンビートはその理由を話す。
『私達の技術はこの地球よりずっと進んでいる。もし私達の事が大人に知られると、その技術を自分達にも応用しようとするに違いない。私達の文明が影響したとなると、地球独自の文明は本来の発展か確実に外れてしまう。私達はそれを危惧している』
「……」
急に無口になったトウヤだが、バーンビートに反対しているのではなく、何だかややこしい話になったと考えているだけだ。
技術だとか文明の発展だとか言われても、普通の小学生にその重大さは理解しきれない。バーンビートの言った言葉の意味がよく解らず、腕を組んでしばらく考えていたトウヤだが、突然頷くと親指をたてた。
「オッケー。皆には秘密ってことなんだな。任せとけよ!」
トン、と胸をたたいて言い切ったトウヤにバーンビートが「頼むぞ」と答えるといきなり通信が入ってきた。
『バーンビート。ギーグルとゴンドルを見つけたよ』
『向こうはまだ僕達に気付いていないみたいだ』
『解った。すぐに行こう』
ギュルルル、と唸り声を上げてバーンビートは急速発進した。反動でシートに押し込まれたトウヤだが、すぐに体を起して尋ねる。
「バーンビート。今のって仲間から?」
『ああ。プテロンとエアホイル。頼れる仲間だ』
「頼れる仲間、ねぇ…」
きっぱりと言い切ったバーンビートには悪いが、隊長が隊長だし、部下にしても名前からしてどうも弱そうに思える。まだ見ぬバーンビートの仲間に、トウヤは不安を感じていた。
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