鳳凰の宮学園
視線 1
制服に着替えて学園に向かう準備を整えると、リビングのソファーに座っている久我山に声をかけた。
「久我山、早く着替えて!学校に遅れちゃうよ。」
僕はのんびりタバコを燻らせている久我山を急かした。
だけど、動く気配はない。
ソファーに近付くと、久我山が僕の腕を取って引き寄せた。
腕の中に収められ、僕は抱き締められた。
「久我山?どうしたの?」
返事がなかったので、顔を上げて久我山を見ようとしたら、僕の髪の毛の中に指を滑りこませて触れてきた。
「久我山、放して。学校に行こう。ね?」
話しかけても一向に久我山は喋らない。
どうしたんだろう?
何か合ったのかな?
僕が考え込んでいると、久我山は僕の耳元で話し始めた。
「前の学校、辛くて辞めたのか?」
「え?」
久我山がどうしてそんなことを言うのか分からなかった。
「中学ん時、無視されたって。高校もそうだったのか?」
嗚呼!
僕はさっき久我山に話した事を思い出した。
「違うよ。でも心配してくれてありがとう!」
「そっか、ならいいんだ。気になっちまったもんだから。」
ポリポリと頭を掻きながら照れたように言う久我山をみて笑みが溢れる。
「中学の時無視されたのは、理由が分かって解決したんだ。」
「そう、なんだ。・・・なぁ、理由、聞いてもいいか?」
「うん。ささいなことだったんだよ。僕が図書委員をしていて残っていた時に、同じ委員をしていた女の子が男子に告白されたんだ。でもその子は好きな男子がいるからって断ったんだよ。そしたらその好きな男子って何故か僕になっていて。僕みたいな地味な男に負けたってのが気に入らなかったみたい。」
久我山は目が点になっていた。
「そんなのが理由かぁ?下らねぇ!」
「ははっ。僕もそう思うけど、告白した男子にとっては重大だったんだよ。クラスで・・・、学校一のイケメンだったし。でも1ヶ月程したら、誤解が解けて謝りに来てくれたんだ。」
「そうなのか・・・。でも1ヶ月も辛かっただろう?」
「そりゃあ、ね。誰とも話せないって、悲しいし寂しかったよ。あんな経験はもう2度としたくない。」
僕が笑顔で言うと久我山は髪の毛を弄っていた指を引き抜いて、軽く頭をポンポンとあやすように叩いた。
「これからは俺がいるから、な!」
久我山の一言が嬉しくて僕も一言頷いた。
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