眠れぬ夜
トイレ 1
廊下を歩いていると、不動がいた。
彼は僕の事など素知らぬ風でスレ違って行く。
なんだか心に隙間風が通ったような気がした。
不動にとって僕は性欲を吐き出す為の存在にしか過ぎない。気分が向いた時だけ僕を抱く。ただそれだけ。
「・・・ッイ、おい、鷺ノ宮!」
大きな声で呼ばれて僕は吃驚した。隣にいた友人が心配そうに僕を覗き込んでいる。
「どうした?顔が真っ青だぞ。保健室に行くか?」
僕はびくっとした。保健室は・・・。
「何でもないよ。心配するな、ちょっとトイレに行ってくる。」
僕は吐き気がした。
何だろう、この靄がかかったような気持ちは。
トイレでうがいをしたら、幾分吐き気が治まった。
「フゥ。」
溜め息がもれた。鏡を見ると青白い顔がある。こんな顔の男を不動はよく抱けるな。
あいつなら綺麗な女が寄って来るだろうに。
どうして僕を抱くんだろう?嫌がらせにしたって男を抱いて気持ちが良いワケないだろう。
「はぁ。」
チャイムが鳴った。教室に戻らないと。
トイレから出ようとしたら、入口に不動がいた。
僕はビクッと体が震えた。不動の鋭い視線が痛いほど僕の心を突き刺す。早く此処から離れなくては。
僕は不動の脇をすり抜けようとした。そしたら不動に腕を掴まれた。
「不動、授業に遅れるから離してくれ。」
だが不動は一向に離してくれない。それどころか僕をトイレの個室に連れ込んだ。
「ツっ。不動?」
不動に突き飛ばされ、背中を強かに打った。
「退いてくれ」
「脱げよ」
僕は吃驚して不動を見た。
「えっ?」
「聞こえなかったのか?脱げ!」
不動は固まっている僕に構わず、服を脱がしにかかった。
「や、止めろ!」
僕は必死に抵抗した。不動に敵わないって分かっていても今は嫌だった。
「不動!嫌だ!」
不動は僕の抵抗に気が削がれたのか舌打ちし、脱がすのを止めた。
ホッとしていると、不動の拳が僕の腹部に一発入った。
「ううっ。ッゲホ」
僕は吐いてしまった。
「はあ。はあ。」
膝がガクッと落ちて体が崩れそうになったが不動が腋に腕を入れて、抱き起こした。
僕は涙が出た。そんな僕に不動は吐き捨てるように言った。
「何抵抗してんだ?俺の便器のくせに」
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