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Dream Novel
act.2

女なんて、単純で、浅ましくて、それなら、振り回されるんじゃなくて、振り回す方が賢いやり方に決まってる。


  2.挑発的な彼女。


夜、コニ―と別れた俺はフィルチに見つからないように道を選びながら寮までの道を帰っていた。
彼女が言った通り窓から見える夜空に雲は1つもなくて、星と上弦の月が我が物顔に光っている。

あと一週間もすれば次の満月でそれが俺の心を躍らせた。毎日が満月だったら、こんな風に欲求不満の解消をしなくても良いのに、と本気で思う。
無駄なことと分かりながらも、早く太れ、と月に念を送りつつ、グリフィンドール塔まで帰り、『太った婦人』には罰則帰り、と誤魔化して寮に入った。

日付が変わった談話室は、レポートが出されるか、試験の近い5月辺りじゃないと人影がない。だからこそ、明りの無い部屋になんとも思わなかったし、寧ろ都合が良いとさえ考えて、寝室へ続く階段に向かう。
その途中で、やけに談話室が暗過ぎる事に気付いた。先程眺めた空ならば、明かりが消えても十分に室内を照らすほどの光を送れるはずである。談話室にある窓に、ふと目をやった瞬間、俺の心臓は情けなくも驚きに跳ね上がった。
月の光に型取りされた様に、黒い人影がくっきりと浮かび上がっている。影の横から漏れる光がその横顔を照らして、それがカイ・ジンナイである事を告げていた。
窓枠に頬杖をついて、いつもの様な落ち着いた視線で月を眺めている。微笑んでいる様にも泣いている様にも見える表情には、確実に何かを愛おしむ様な優しいものが含まれているのが見て取れた。ただ、『それ』が何に対して向けられているかなんて分かる筈もなく、彼女が何を考えてるのかなど、欠片も読めない。
衣擦れの音がしなかったところを見ると、此方に気付いていないか、気付いていても反応しなかったか…。
一瞬だけ、このまま寝室に向かうかどうか、迷った。しかし、結局俺は、窓に向かって声を掛ける。

「カイ」
「…何」

掛けた声に少しの身動ぎも無く返したところを見ると、やはり此方に気付いていたのだろう。静かに返ってきた声に、俺は彼女の方へ歩み寄った。

「何やってんだ?」
「…『天体観測』」

そう言ってから、ふと自分の言葉を検討し、「否、『測』はしてないな…」と訂正する。

「…天文学、お前好きだったっけ?」
「いいや。あんまり好きじゃないね」

視線を逸らさずにカイはそう答えた。ジェームズや、俺ほどではないにしても、ある程度何でも卒無くこなす彼女からそんな言葉が返ってきたのは正直意外で、俺は「何で?」と重ねて問う。

「…なんか、虚しくなる」
「『虚しく』?」

訊き返した俺に、そこで初めて顔向けた彼女の表情は、いつも見ているはずの微苦笑で、けれども、月明かりで全く違う印象を受けた。

「無限かどうかは分からないけど、今、この地球に存在している魔法族とマグルとをひっくるめた全ての人間の人生を注ぎ込んでも網羅できないほどの広さを持つ宇宙の中で、銀河系が出来て、太陽系が出来て、地球が出来た。
そっからまた水が出来て凄い確率で生命が生まれて、数億年掛けて私達みたいな生物に進化した。
まぁ、本当に笑っちまうくらい奇跡的な存在な訳だよ。人間って生き物は。
それが、魔法族だのマグルだの、闇の陣営だの対抗勢力だの、ちまちまちまちました事に必死こいて、争っては死んでってる。
…そして、その『死』さえ、天文学的には何の価値もない。
…宇宙ってのは大き過ぎる。いい意味でも悪い意味でも、ね」
「……お前、いっつもそんなこと考えてんの?」
「考えたくないから好きじゃないんだよ。『天文学』」

いっつもそんなこと考えてたら頭破裂するか、生きる事に意味見出せなるかのどっちかだっつの。と彼女は笑い飛ばす。

「…ま、単純に見てるだけなら嫌いじゃない。」

夜空に目を戻す彼女の視線を何となく追ってみた。瞬く星がちかちかして、少しだけ目に痛い。

「ぉ、大犬座発見」

おどけた口調でそういうカイに、空に向けた目を凝らしたが、生憎、全く以って分からない。


女なんて、単純で、浅ましくて、それなら、振り回されるんじゃなくて、振り回す方が賢いやり方に決まってる。


  2.挑発的な彼女。


夜、コニ―と別れた俺はフィルチに見つからないように道を選びながら寮までの道を帰っていた。
彼女が言った通り窓から見える夜空に雲は1つもなくて、星と上弦の月が我が物顔に光っている。

あと一週間もすれば次の満月でそれが俺の心を躍らせた。毎日が満月だったら、こんな風に欲求不満の解消をしなくても良いのに、と本気で思う。
無駄なことと分かりながらも、早く太れ、と月に念を送りつつ、グリフィンドール塔まで帰り、『太った婦人』には罰則帰り、と誤魔化して寮に入った。

日付が変わった談話室は、レポートが出されるか、試験の近い5月辺りじゃないと人影がない。だからこそ、明りの無い部屋になんとも思わなかったし、寧ろ都合が良いとさえ考えて、寝室へ続く階段に向かう。
その途中で、やけに談話室が暗過ぎる事に気付いた。先程眺めた空ならば、明かりが消えても十分に室内を照らすほどの光を送れるはずである。談話室にある窓に、ふと目をやった瞬間、俺の心臓は情けなくも驚きに跳ね上がった。
月の光に型取りされた様に、黒い人影がくっきりと浮かび上がっている。影の横から漏れる光がその横顔を照らして、それがカイ・ジンナイである事を告げていた。
窓枠に頬杖をついて、いつもの様な落ち着いた視線で月を眺めている。微笑んでいる様にも泣いている様にも見える表情には、確実に何かを愛おしむ様な優しいものが含まれているのが見て取れた。ただ、『それ』が何に対して向けられているかなんて分かる筈もなく、彼女が何を考えてるのかなど、欠片も読めない。
衣擦れの音がしなかったところを見ると、此方に気付いていないか、気付いていても反応しなかったか…。
一瞬だけ、このまま寝室に向かうかどうか、迷った。しかし、結局俺は、窓に向かって声を掛ける。

「カイ」
「…何」

掛けた声に少しの身動ぎも無く返したところを見ると、やはり此方に気付いていたのだろう。静かに返ってきた声に、俺は彼女の方へ歩み寄った。

「何やってんだ?」
「…『天体観測』」

そう言ってから、ふと自分の言葉を検討し、「否、『測』はしてないな…」と訂正する。

「…天文学、お前好きだったっけ?」
「いいや。あんまり好きじゃないね」

視線を逸らさずにカイはそう答えた。ジェームズや、俺ほどではないにしても、ある程度何でも卒無くこなす彼女からそんな言葉が返ってきたのは正直意外で、俺は「何で?」と重ねて問う。

「…なんか、虚しくなる」
「『虚しく』?」

訊き返した俺に、そこで初めて顔向けた彼女の表情は、いつも見ているはずの微苦笑で、けれども、月明かりで全く違う印象を受けた。

「無限かどうかは分からないけど、今、この地球に存在している魔法族とマグルとをひっくるめた全ての人間の人生を注ぎ込んでも網羅できないほどの広さを持つ宇宙の中で、銀河系が出来て、太陽系が出来て、地球が出来た。
そっからまた水が出来て凄い確率で生命が生まれて、数億年掛けて私達みたいな生物に進化した。
まぁ、本当に笑っちまうくらい奇跡的な存在な訳だよ。人間って生き物は。
それが、魔法族だのマグルだの、闇の陣営だの対抗勢力だの、ちまちまちまちました事に必死こいて、争っては死んでってる。
…そして、その『死』さえ、天文学的には何の価値もない。
…宇宙ってのは大き過ぎる。いい意味でも悪い意味でも、ね」
「……お前、いっつもそんなこと考えてんの?」
「考えたくないから好きじゃないんだよ。『天文学』」

いっつもそんなこと考えてたら頭破裂するか、生きる事に意味見出せなるかのどっちかだっつの。と彼女は笑い飛ばす。

「…ま、単純に見てるだけなら嫌いじゃない。」

夜空に目を戻す彼女の視線を何となく追ってみた。瞬く星がちかちかして、少しだけ目に痛い。

「ぉ、大犬座発見」

おどけた口調でそういうカイに、空に向けた目を凝らしたが、生憎、全く以って分からない。

「…さっぱりだな。皆同じに見える」
「お前…御大層な星の名前貰っといて…」
「好きでこの名前なわけじゃない」

彼女の台詞に苛ついて、早口で返す。
斯くいう俺も、天文学は好きじゃない…というか、はっきり言って、嫌いだ。理由は簡単。見たくもない見覚えのある名前が次々と登場するから。
カイだって、多分そんな事は言わなくても分かっただろう。グリフィンドール…否、ホグワーツ中で俺の実家嫌いは有名なのだ。

「…私は好きだけどなぁ、『シリウス』」

静かな笑みと共に、彼女が呟く様に言った言葉にどきりとする。

「…なんで」
「別に、今更、お前の名前が『ジョン』だろうが『マイケル』だろうが『ボブ』だろうが、全く構わないっちゃ構わないんだけどな。
…太陽の次に明るい恒星の名なんて、お前にぴったりじゃないか…?」
「…っな…っっ」

カイが口にするとは思っていなかった言葉に、思わず声を詰まらせる。多分少しだけ紅くなっているだろう頬がばれないように、一歩下がって暗がり入った俺には視線をやらず、カイは思い出したように付け加えた。

「あぁ…、…でも、本来の意味は『灼熱』なんだっけ。」

…それは少し、お前には似合わないな。そう言って、彼女は、くく、と喉を鳴らす。
月に照らされたその笑顔に不覚にも見入ってしまったなんて、ジェームズには口が裂けても言えないな、と、ぼんやりとした頭で考えた。

 +++

その夜を境に、俺は少しだけカイに絡む事が増えた。…理由は、『何となく』なのだけれど。
彼女とよく行動を共にしていたリリー・エバンズは、俺(と自動的に、一緒にいるジェームズ)が近付く度、これ以上無いと言うほどに顔を顰めてみせたが、それに苦笑する事はあっても、カイが俺達を邪険にする事は無かった。

そして、相変わらず例の温度の無い視線は大広間での食事中や、教室への移動中、夕食後の談話室などで時々感じられて。どちらかと言うとどうでもよかった彼女に対して、何故告白をしてこないのかという疑問を持つようになるのには、そう時間は掛からなかったと思う。
けれども俺は、自分から彼女に嗾ける様な事はしなかった。日々の挨拶と、3,4日に1度の談笑する関係と言うのは、縛られる事も無く、それなりに快適であったし、彼女の想いが自分に向けられているという安心感と、1歩踏み出せばこの関係が壊れるのではないかと言う恐怖も、少しだけあったかもしれない。

その日、俺達が談話室に帰ってきたときに、カイはエバンズと共に談話室で勉強していて…と言うか、エバンズが訊いてきた闇の魔術に対する防衛術の質問を、ソファで読書していたカイが答えてやっているところだった。

「…ごめんなさい…もうちょっと詳しく…」
「ぁー…どう言ったらいいかなぁ…」

珍しく説明に手間取っているのか、困った様に言葉を零している彼女に近付く。

「よ、調子はどうだ?」
「まぁ、上々かな」

そう返すカイの横でエバンズがこれでもかと言わんばかりに眉を寄せた。そんな親友にちらりと目をやり、カイは「ぁー…」と考える様な声を上げて俺の隣のジェームズを見る。

「ジェームズ、此間、私に解説してくれた防衛魔術が効く範囲の魔法生物の話、覚えてるか?」
「ぇ?そりゃぁ勿論。」

唐突な様の質問に、驚いた様にジェームズは返したが、それより数倍大きく反応したのはエバンズの方だった。

「ちょっと…!!カイ?!」
「リリー、頼まれといて悪いんだが、そこは上手く説明出来そうに無い。ジェームズに訊いて貰えないかな?」
「本当かい?!カイ!!」
「ばっ…っ!!何言い出すの?!」

カイの言葉に2人の叫び声。…エバンズ、今、カイの事『馬鹿』って言い掛けたぞ…?
彼らの言葉を流して、カイはエバンズに向き直る。

「リリー、私が自分なりにではあるがその部分を理解出来たと認識出来てるのは、此間ジェームズに説明して貰ったからなんだよ」
「わ、…私は結構よ!!ポッターに訊くなんて絶対嫌!」

エバンズの台詞に親友が横でもろにショックを受けているのが分かり、流石に気の毒で俺は横を向けなかった。

「リリー」

全力で拒否する親友の名を、1度だけ、強く、彼女は呼ぶ。

「理解を得られる条件が揃っているのにそれをただ単に教わる対象に対する自分の好みという問題でその方法を拒絶するのは、愚者のする行為じゃないか?
君の、学習に対する姿勢は、並大抵のものじゃないと思っていたけど?」
「……っっ」

試す様にそう言うカイに、エバンズが悔しそうに言葉を詰まらせた。
流石親友と言おうか、煽るのが上手い。こんな言い方をされれば、エバンズは意地でも理解しようとするだろう。それこそ、いけ好かない首席に教えを請うてでも。 

「…教えて、くださるかしら…?……ポッター」

酷くゆっくりと、しかも1語1語を捻り出す様に言う彼女の声には色々な『悔しさ』が詰まっていて、俺は正直、寒気を覚えた。
それでも横にいる親友はそんなことも気にならない様で、世界中の幸福が自分に降り注いでいるが如くの満面の笑みで「勿論だとも!」と彼女に答えている。(真似をしたくは無い尊敬と言うものを、俺はこの時初めて覚えた。)

「万が一、意味不明な説明をされたら、『鼻呪い』を掛けてやるから…」
「君からの呪いなら、喜んで受ける心算さ!」
「……(マジか…)」

俺が心の中で呟いたのと同じ事を、多分カイも思ったのだろう。ジェームズを可哀想なものを見る目つきで眺めていた。

ジェームズがエバンズと連れ立って勉強用のテーブルに向かうのを見届けて、俺はカイの隣に腰を下ろす。

「…上手くやったな」
「『お褒めに預かり』」

そう言ってから彼女は少し声を落とした。

「…お前さ、ジェームズとリリーくっつけたいんだったら、自分の方も気ぃ遣え」
「…?『自分の方』…?」

言われる意味が分からずに首を傾げると、カイは嘆息してちらり、とエバンズを見遣る。

「お前がモテるのは重々承知してるし、それに対して悪い気はしないってのも解らんでもないけど、何にしたって、お前女関係だらしなさ過ぎだぞ…。
昨日の夜に色々と相談受けて、リリーのヤツ、お前に対してぶち切れてんだよ。」

どうやら先程のカイの計らいはジェームズとくっつける、というより、俺と引き離したいが為のものだったらしい。そう言えば、ジェームズに宛てるものよりも2割程増しで、自分に向けられた視線が厳しかったのを思い出し、俺は苦笑した。

「笑い事じゃないよ…?この分じゃ、ジェームズとのハードル下げたところで、お前っていう壁にぶち当たる」
「…んなこと言われてもな」

ジェームズとエバンズがくっつけばいい、と思っているのは、本当だ。アイツのエバンズへの愛がどういう構造になってるかはいまいちよく掴めないが、途方もなく強いものである事は、親友の俺が1番よく分かっている。…それこそ、俺には理解出来ないほど、強いそれを数年間1番近くで見続けたら、応援したくもなろうというものだ。
けれどもそれは、飽くまで、俺に面倒事が降り掛からない範囲で…という話で、こっちの生活を変えろと言われると、やはり渋るとこがある。

「…別に禁欲しろとか出家しろとか言ってるわけじゃない。相手を絞れって事。…平たく言えば彼女を作れ。」

勿論、限定1人で。とカイが俺を睨んだ。
その言葉に俺が反応したのは、仕方がない事だと思う。
長い間自分に向けられてきた視線の存在を、俺が気付いてないと思っての言葉なのだろうか。…けれど、知っている俺には「自分を彼女にしてくれ」と言っている様に聞こえないでもなかった。

「…ぁー…」

あまりに急な展開過ぎて、言葉が出てこない俺に、ふ、と笑みを浮かべて、カイは視線をあらぬ方向へ飛ばす。

「…まぁ、私が口を出す言われも無いし、別に、お前の好きにすりゃぁいいんだけどね…」
「?!」

呆気無くそう流され、肩透かしを食らった気分でカイの顔に目を戻した。
薄く笑う彼女は何を見るでも無しに、ぼーっとしている様で…

「……っっ!」

…その瞬間、俺は、気付いた。気付いて、しまった。

カイが向けている視線、それは俺が感じていた温度が無い、それでも、真摯なそれで。
視線が向けられている先、それは俺ではなく、少し離れたところにいるジェームズで。
その瞬間に、俺は気付く。コイツが想っているのは、俺じゃない。シリウス・ブラックじゃなくて、その隣にいつもいた、ジェーム・ポッターなのだ。

…事もあろうに自分の親友に惚れている男を好きになるなんて、なんて女なんだろう。
でも、それは、なんとなく彼女らしい気がした。…というより、カイ・ジンナイという女は、相手が誰を好きであろうが、誰が相手を好きであろうが、自分の想いを絶つような事はしないだろう、という妙な確信が俺の中にあった。

くだらない恋愛小説の一説みたいに「本当に愛している相手だから、自分が身を引いても相手が幸せであればいい」なんて言う、反吐が出そうなほどの私論を彼女なら本気でさらりと口にしそうな気さえする。…俺には全く理解できないものであるけれど。

自分に向けられていると思っていたものが、実は違う者に向けられていた事に対する屈辱とか羞恥とか、そんな物も確かにあったが、俺の中で何よりも先に、そして何よりも大きく生じたのは、親友に彼女を「盗られたくない」という焦りだった。

「カイ、付き合おうぜ?」

唐突に俺が口に出した言葉に、彼女が不思議そうに俺を見る。
そんなカイに、俺は取り繕う様に言った。

「エバンズは、親友のお前と行動を共にしてる。ジェームズも、親友の俺と行動を共にしている。お前と俺がくっつけばジェームズとエバンズは関わり易くなる。…だろ?」

それに、お前の言う通り、『彼女』も作った事になる、と俺が笑顔で口にした理由は最悪なものだったと思う。

彼女がジェームズを好きだと分かっていて、その男が別の女との恋を成就する為に、自分と付き合え…?彼女にとって良い所なんて何もない話だ。
だから、カイは、断っても良かった。俺は、卑怯にも、自分が彼女に気があるなんて言い方を滲ませもしなかったし、彼女は、今まで色恋沙汰には全く無頓着の人間で、寧ろ、今まで俺に関する愚痴を散々色んな女生徒から聞かされたはずなんだから。
「自分が好きじゃない奴とは付き合わない」でも、「自分を好きじゃない奴とは付き合わない」でも、「恋愛には興味がない」でも、「お前みたいな不真面目な奴とはごめんだ」でも、彼女らしく断る材料なんていくらでもあったと思う。
けれども彼女が少しの沈黙の後口にしたのは、そういう類の言葉じゃなかった。

「…私は浮気を許すほど、心は広くない。するなとは言わないし、したところで責める予定は無いが、そういう事をされた時点で別れる。例えお遊びだったとしても、だ。」
「……ぁ?」

それを聞いた時、もしかしたら俺は心の何処かで、少し失望したのかもしれない。
いつまでも、想いを持ち続けるはずの彼女が、あっさりと俺の彼女に収まるような発言を返してきたのだから。
…けれども、俺に向けられたその瞳には、仮にもこれから恋人になろうという男に向けられるような甘い感情は1つも込もっていなくて…。

「…あぁ、あと、これも大事だな。別れた後、今までの様な友人関係に戻ること。」

その条件を、お前が受け入れるなら、別にいい。そう続けて、彼女は俺を見つめ返す。ソファの上に持ち上げた片膝に、頬杖をついて。「さぁ、どうする…?シリウス・ブラック」と俺を挑発するように。
それを見て、湧き上がったのは、背筋を駆け上がる様なゾクゾクとした興奮。先刻予想した理由で断るよりも、ずっと、ずっと、カイらしい。

「…上等」

にやりと笑って返した俺に、彼女も同じ様に口端を上げた。

隣に座る彼女を引き寄せ、その唇に自分のそれを合わせる。唇を割った舌が彼女の味を感じるのと、カイを挟んで向こう側からエバンズのヒステリックな怒声が聞こえたのは、殆ど同時だった。

「取り敢えず、『お友達』を切るとこから始めようか?シリウス」
「…了解」

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「ポーカーフェイスな彼女。」第2話‐挑発的な彼女。
日記の方でも言ってましたが、3部じゃ終わらなそうな感じです。5話で…終わるかなぁ…6話…行くかもなぁ…という現在の状態。有言不実行極まりないですね。

考えてみれば、シリウスが語る形の話の進め方って、ここでは初めて?なのですよね?
ポカフェのシリウスはへたれな上に若干歪んじゃってる子なのですが…彼のぐだぐださをお楽しみ頂ければ…(楽しめるか。)

それではもうしばらく続きますが、よろしければお付き合いくださいませ。




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