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Dream Novel
act.5
そして、始まりを告げる、非日常な日常達。

act.5

所謂『お呼び出し』の幕切れは実にあっけない物だった。

不敵な笑みを浮かべるカイと、大人数にも拘らずたじろいだ女生徒達。数分対峙した後、視線を逸らしたのは女生徒達の方だった。
彼女等のリーダーになっていた、レイブンクローの女生徒は苛立たしげに蹴り落とされた杖を拾いさっさと踵を返す。
彼女が杖を振ると、積み上げられた教室の備品達はあるべきところに一瞬にして戻って扉は独りでに開いた。
そこから大股で出て行く彼女に、残された少女達はうろたえた後、1人また1人と教室を後にする。

「……(…終わった、…か)」
「…カイ」

どっと疲れて肩の力を抜いていると、前方から声が掛かった。声のした方を見れば残った数人の女生徒達が複雑そうな表情でカイを見ていた。
その面々は、カイにシリウス相手の恋愛相談を持ちかけていた子達で。

「…何…?」
「……カイが、『愛の妙薬』使ったなんて、馬鹿な勘違いして、…ごめんなさい」

その場にいる皆を代表する様な形で、グリフィンドールの同級生が気不味そうに、そう、謝罪する。

「でも、…やっぱり、私達、納得は、出来ない」
「私達が勝手に相談したんだし、カイに、シリウスと付き合うな、なんて私達の言えた事じゃないけど…でもやっぱり、悔しいし、…正直、裏切られた気もしてる。」
「………」

居心地悪そうにしながら語る彼女達の言い分は当然で、カイは小さく、「ごめん」と呟いた。

「…けど」
「……?」
「…けど、シリウスが、カイを好きになった理由も、なんとなく、分かるから…」
「私達が、馬鹿な拘りとか捨てられたら…その時は…」

「…また、色んな事相談乗ってくれる…?」


「……うん、勿論。」

返事をし、彼女達が教室を出て行く背中に、心の中でありがとう、と付け加える。
誰もいなくなった教室は急に広くなった様で…カイは外の光の色でまだ今が午前中だったと思い出した。
一日の終わりの様な感覚で、それでもまだ、自分にはやらなくてはならない事がある。
教室の隅に放られたカバンを拾って埃を払い、肩に掛けるとカイは約束の場所へ向かう為、北塔の空き教室を後にした。

 +++

待ち合わせた中庭。楡の木の下で落ち着か無げに立っていたシリウスが此方に気付いて、名前を呼んだ。

「カイっっ!!!」

駆けてくるシリウスが、以前ミヤビの称していた様にまるで犬で、内心笑いながら、そのもう一方で、覚悟を決める自分がいる。

あの部屋で、感じた彼への感情を、無かった事にはしたくない。

「カイ、大丈夫かっ?」
「……はぁーっっ…」

シリウスの言葉を無視してカイは本日最大の溜息を吐いた。

「……お陰で友人が大幅に減った」
「…ぅ」
「…シリウス、俺は、面倒事が大っ嫌いだ」

顔を上げて、気不味そうな彼の顔を見、はっきりとそう伝える。

「お前らに関わると、俺の愛する平穏ってのはどんどん遠退いてっちまう」
「……」
「お前が悪いんじゃない、でも、お前も原因なことに間違いはないと、俺は、思う」
「……」
「もう1度言うよ、シリウス。俺は面倒事が嫌いで、平穏に過ごしたいんだ」

カイの続ける言葉にシリウスは黙ってしまって、ただ悔しそうに唇を噛みしめていた。
そんな彼を見つめ、彼女は問う。

「…シリウス、お前さ…、…そんな俺の考え方を変える事が出来る?」
「…へ?」

伝えた言葉は、シリウスの予想外だったようで、返ってきたのは間抜けとしか思えない表情と気の抜けた疑問詞。
いつもだったら笑ってしまうだろう彼の返答も、自分の事でいっぱいいっぱいの今のカイには余裕がなくて、ただ、ただ、自分が続けて紡ぐ言葉だけに、神経が集中する。

「…平穏なんかよりも、お前らが見てる破天荒な日常の方が余程面白いって、俺に、そう、思わせてくれる…?」
「…ぇ、ぇ…ちょっと待て、カイ、それ…って」
「お前が、出来るって、やってみせるって、自信を持ってそう言ってくれるなら…俺は…っ」

そう言った所でカイ腕が引かれ、次の瞬間、彼女の体はシリウスの腕の中に収まっていた。

「出来る、出来るよ、絶対、やってみせる…!!」

強く強く抱きしめられ、耳元でそう繰り返される。少しばかり涙声に彼に、なんでこの状態でお前が泣くんだ、と苦笑しつつ、カイはシリウスを抱き返した。

「…カイ、俺が、お前のフェリックス・フェリシスになるよ」
「…!」

まるで三文芝居の様に臭い台詞。それなのに、何故か感極まってしまって、カイは思わず涙ぐむ。

「…俺と、付き合って下さい」

少しの間、抱き合った後、ゆっくりと体を離してシリウスが小さく言った。

多分この1歩で自分の学校生活は劇的に変化するんだろう。…自分の愛していた穏やかで平和な日常から。

「…(それでもコイツが、導いてくれるって言うなら…)」

それでも良いか、と思ってしまうのは、多分大分前から、自分がシリウスに惚れていた証で。

「…よろしく、お願いします」

シリウスに合わせ、改まって返事をすると、彼はとびきりの笑顔でもう1度カイを抱きしめた。

+++

その日の夕方、悪戯の計画を立てつつ、シリウスはちらりと仲間を見遣った。
リリーと話ができてかなり上機嫌なジェームズ。
此の頃、余り眠れていないらしく不機嫌なリーマス。
そんな様子を興味津々に見つめるピーター。
仲間達の態度は3者3様で、伝えていいんだろうか、と迷いつつも彼は口を開く。

「なぁ…悪戯とは関係ないんだけどさ」
「お?どうしたパッドフッド」
「…なに?」
「どうしたの?」

自分の言葉に3人の視線が此方に向けられた。彼らに悟られてはいないだろうが、少しだけ緊張して、息を吐いてからシリウスは顔を上げる。

「俺、カイと付き合うことになった」

この3人には、いつも話を聞いて貰って、何かと迷惑を掛けたのだから、シリウスは真っ先に聞いて欲しかったのだ。
そして、それを口に出して伝えることで、カイが、自分を受け入れてくれた事を再確認したかったのもあるかもしれない。

「ホントかい?良かったねぇ!いやぁ…いつも冷や冷やして見てたから安心したよ!!!」
「その…シリウス良かったね」

ジェームズとピーターから祝辞が送られシリウスからやっと緊張が解けて笑みが零れる。

「ほら、リーマスもなんか言ってあげなよ」

喜びムードのまま、けしかける様にジェームズがリーマスに視線を投げた。
しかし、返ってきたのは何故か冷たい視線と同じ温度の言葉で。

「…別に…良かったんじゃない?」

にこりともせずにそう言うリーマスに、軽い失望を感じながら、シリウスは彼を睨みつけた。

もし、リーマスが、ミヤビと付き合うというなら、自分は喜んで祝福する。
だからこそ、ミヤビに協力しているのだし、リーマスの事も考え、敢えて彼の思いは伝えないまま、彼女に情報提供を続けていたのだ。
けれどもリーマスの考えはシリウスと違う様で、彼の想いが通じたというのに、笑顔すら見せない。そんな友人が勝手に思えて、シリウスは彼に食ってかかった。

「…てめ、どういう意味だよ?」
「結局シリウスはカイが好きだったってことでしょ?じゃぁ…シリウスが優しくして本気になった子とかはどうするわけ?切り捨てるの?」

リーマスが返していた言葉にいまいち要領を得なくてシリウスは小さな疑問を抱く。
確かに自分は少し前まで女をとっかえひっかえして遊んでいた。しかし、それはカイに本気になってからすっぱり止めた事だし、リーマスだってその事は十分すぎるほどに知っているはずだ。
ちらり、と視線をやれば、ジェームズやピーターも怪訝そうな表情をしている。
どうやら彼等もリーマスのいう意味が分からない様だ、と諦めて、シリウスは彼に向き直った。

「…誰の事だよ?」
「ミヤビは…ミヤビはもしカイに振られたときの為の保険…だったわけ?」

出てきた名前に呆気にとられる。よりによって、なんで、ミヤビの名前がここに出てくるんだろうか。

「は?お前何言って…」
「何言ってるんだじゃないよ!!ミヤビが可哀想だ」

リーマスが嘗てない感情を持って自分に向かってくる。
もしかしなくても、この友人は、最近、ミヤビとシリウスが一緒に居ることで、ミヤビがシリウスを好いているなんてとんでもない勘違いをしているんじゃなかろうか。
…そんな状況は想像に難くなかった…が、

「…(俺の気遣いも、お前は知らない癖に…!)」

友人同士の想いを成就させるため、彼にしては珍しいほどに気を遣い、奔走していたシリウスにとって、その事実は全くもって、面白くなかった。
リーマスを静かに眺め遣り、徐に席を立つ…そして

―バキッ…

「何するんだ?!」
「こっちの台詞だろうが!」

俺の気も知らないで!と心の中で付け加えて叫び、リーマスの頬を殴った拳を強く握りしめる。
シリウスの行動に、少しばかりの驚きと、それを優に超える怒りを混ぜた様な瞳でリーマスは彼を睨み返してきた。

「なんで?僕は正論を言っただけじゃないか!なんでシリウスがミヤビの事で怒るの?」
「ミヤビ、ミヤビって、そんなにあいつが気になるのか?」

そう怒鳴り返しながら、シリウスは友人に対しての苛立ちが沸々湧き上がってくるのを抑えきれない。

「関係ないよ!」
「関係大有りだろうが!」

リーマスはシリウスがミヤビに協力してきたなんてことは知らないのだろう。
しかし、それにしたって、シリウスはリーマスの親友なのである。…そうでありたい、と思ってきた。

「…(それなのに、『関係無い』だって?!)」

そんなリーマスの言葉が、悲しくて、悔しくて、シリウスは彼に掴みかかる。
殴り、殴られ、口の中に血の味が広がった。痛みに少しばかり動きを止めた時、右の目元にリーマスの拳が当たる。

…初めは戒めの心算で振り上げた拳が、ただ単に自分の思いの丈を乗せたものになるのに、大して時間は掛からなかった。

「リーマス…ミヤビの事どう思ってるんだよ?!」
「どうって…シリウスなんかに関係ない!」
「好きなんだろっ?」
「ああそうだよ!悪いの?」

その瞬間に垣間見えた、リーマスの悲しそうな顔に、一瞬だけ、シリウスは怯む。
それでも、すぐに持ち直して彼は親友を怒鳴りつけた。

「なんで好きなら好きって言わねぇんだよ!!」
「だって…僕は人狼だから…」
「だったら…そうやって諦めてんなら良いじゃないかよっ!!」
「でも…っ好きなのは自由だろ?!」

自分は、カイにずっと想いを伝えてきた。途中から、彼女に本当に嫌われるのが怖くなってからもずっと。彼女が口にする「嫌いだ」の言葉も、実は怖くてしょうがなかった。

シリウスにとって、自分の、容姿や、能力や、その他の長所も、好きな人が好いてくれるのでなければ意味がない。
逆にいえば…好きな人が、好いてさえくれれば、人狼だとか、そうでないとかは、関係が無いのだ。
リーマスはミヤビが好きで、ミヤビもリーマスを好いている。お互いを想い合っている時点で、自分よりもずっと優位だったはずなのだ。
…それなのに、今さら諦めるなんて、どうして許す事が出来ようか。…好きでいる事を止めることさえ、出来もしないのに。

「それなら…それなら諦めるとか馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!!!!」

怒鳴りながら放った拳は見事にリーマスを捉えたらしく、彼は床に転がる。小さく呻く親友を見て、シリウスは消化できない怒りをそのままに、荒々しく踵を返して呟いた。

「俺…頭冷やしてくる…ごめん」


+++


「…派手にやったな。」

シリウスが外の風に当たっていると、その言葉とともに、後ろから氷を包んだハンカチが差し出された。
声の先を見ればカイが立っていて、自分を見上げ、小さく破顔する。

「ははっ、お前、青タン作ってるし。生傷だらけだなぁ、お互い」
「…リーマスの奴、意外に強かった」
「まぁそりゃ、男ノ子だ、当然だろ」

当てとけ、と言ってひょい、と上げられたハンカチを受け取って、口元に当て、喋りにくいながらも文句を垂れた。

「こんなの、治癒呪文で一発じゃねぇか…」
「ばぁか。」

呆れた様にそう言ってカイはシリウスの隣に移動する。
アグアメンティ(水呪文)から、その水が空中に浮遊しているうちにグレイシアス(氷への変換呪文)を唱え、氷にすると、それらをローブのポケットから引っ張り出したもう1枚のハンカチに包んで、シリウスの目元に当てる―その一連の動作が何故か手馴れていて、シリウスは少し意外そうにカイを見た。

「友人から殴られた痛みくらい、ちゃんと覚えとけ」

さっさと呪文で治そうなんて甘ったれんじゃねぇよと、いつものお世辞にもいいとは言えない言葉遣いでそう言う彼女に、シリウスは「スミマセン」と呟く。
カイの頬には、これまた自前らしい絆創膏が貼られていて、多分…腕にも包帯が巻かれているのだろう。

「…俺から殴られた時そんなことしたら、3倍にしてリプレイするからな」
「な、…殴る予定あんの?お前…」
「殴る時は、ぐーでいくぞー、俺は」

シリウスの質問には答えず、そう付け加えてカイは楽しそうに笑った。

「カイ」
「んー?」
「好きだよ」

伝えた言葉に、目元に当てられたカイの手が小さく揺れるのが分かる。彼女の顔を見るのが少し怖くて、シリウスは目を閉じた。
自分でさえ、此処まで怖いのだ。もしかしたら、リーマスの恐怖なんて、自分では想像出来ないほどの物かもしれない。
…それでも不器用な友人に、シリウスは幸せになって欲しかった。

「…ちょっと屈め」
「あ?」

唐突な言葉にシリウスは戸惑った声を漏らす。

「お前無駄にでかいんだよ!良いから屈めっつの!」
「む…無駄ってお前…」

そう言いつつも御所望通りに少し膝を曲げると、目元のハンカチが除かされ…

「………っっ」

…代りに触れるだけのキスが落とされた。

「効かないまじない」

少しだけ、頬を紅潮させて、決まりが悪そうに視線を逸らしながら、彼女はそう呟く。

「凄ぇ効きそう…」
「効かねっつの馬鹿」
「ぁ、カイ、こっちの方にもしてくんねぇ?!」

そう言って指してみるのは、自分で氷を当てていた唇の横。

「やるか、ばぁか」

再度呆れた様にそう返して、そっぽを向き、その先で何か気付いたようにカイは口端を上げた。

「シリウス」
「なんだよ」
「リーマスとミヤビ、くっついたっぽいぞ」
「マジで?!」

カイの言葉に身を乗り出す様にして彼女の視線を追えば、鳶色の髪の親友と、妹の様に思っている友人が仲睦まじく手を繋いで歩いているのが視界に入る。

「…っしゃぁ!」

思わずガッツポーズするシリウスを、カイは眩しそうに見て、その背を叩いた。

「行ってこいよ、功労者」
「あぁ、ちょっと行ってくる!」

彼女に頷いてシリウスは踵を返す。そして、友人らのいる方向に走り出し、少し行った所で、1度、元の場所へ駆け戻った。

「どうした?…っっ?!」

小首を傾げる彼女を引き寄せて、その唇に自分のそれを重ねる。

「…なっ…な…っっ?!」

顔を真っ赤にする彼女への愛おしさに笑いが込み上げて、シリウスはカイを抱きしめた。

「俺のは、効くまじない」

耳元でそう呟いて、彼女を解放すると、頬から赤味のとれない怪訝そうな表情で、「何の為の?」と返される。

「カイを、幸せにする為の!!」

それだけを言い残し、シリウスは再び踵を返した。今度こそ、友人達の元に向かう為に。


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恥ずかしい!!!!ものっそい恥ずかしいよ桜夜ちゃん!!!
いわゆる告白シーンがこれほど恥ずかしいものだとは思わなかった………っっガクブル

叫び終わってこんにちは。Hate!完結しました!!陣内に御座います。

ライバルとの仲直り→告白→親友との拳での語り合い…と、ものすげぇ青い春だなっっ!!って感じの展開です。(本編台無しの言い草)

親友の拳での殴り合いシーン、会話のほぼすべてと、地の文一部を桜夜の太陽と月(完結編)から勝手に引用させて頂きました。ごめんね桜夜。

本当はやりたかった事。ミヤビちゃんとシリウスがあれだけ絡んでんだから、リーマスとカイも絡ませたかった…。
でも、気付きました。
…黒リーマスしか書いたことねぃや…
結果:無理☆


他の話とは違い、これで、この話のヒロインカイとお別れなので、何となくさみしいですねぇ。
勢いにもの任せて言う子ってそう言えば初めてな気がします。大体考え過ぎるくらい考え込んで発言する奴(ヒロイン)ばっかなので。
だからこそ、いつもと違うタイプの子はちょっと楽しかったり。

そんなこんなで思わぬ長さになってしまいました。Hate!!全5話。全て読んで下さった貴女に愛を込めて!!

                                                                       陣内 遙

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