戦記 《二》 山崎はその懐のものを取り出した。 句帳だった。 書かれている号は、“豊玉”。 副長のものだ。 「まさか君が句帳を盗むなんてな……」 「盗んでません!返しますよ、ほら!」 山崎は副長に句帳を差し出した。 合点がいかない、という顔をしながら、土方は句帳をめくった。 やがて、喉の奥でくつくつと笑い始めた。 山崎は、さすがに勘がいい。 “なにか”を感じ取って、身を強張らせた。 「山崎、お前らしくないなぁ」 土方は句帳を広げて、山崎に見せた。 白紙だ。 何も書かれていない。 「いい度胸じゃねぇか……」 「だからっ、なにもやってませんって!」 必死で山崎は弁明した。 だが、句帳のことで気が立っている土方には通じない。 「なら、犯人を割り出して、本物を取り返してこい!」 「はい!」 いつもの癖で勢いよく返事してしまった。 もはや習性だろうか? 「夕方までに見つけてこい。さもないと……」 地獄から響いてきたかのように低い土方の声に、山崎の背筋は凍りついた。 怒鳴られるより、百万倍恐ろしい。 ――これは、早く見つけないとっ……! 命が危うい。 [*前へ][次へ#] [戻る] |